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【社説】

年のはじめに考える 米国は再び輝けるか

 米国が米国らしさを取り戻し、再び輝くことができるでしょうか。十一月三日の米大統領選には世界中が注目しています。

 ◇    ◇ 

 四年間のトランプ政治に審判が下されます。トランプ氏は二〇一六年の前回大統領選で、白人労働者層の支持を集めました。グローバル化の恩恵にあずかるどころかそのしわ寄せを受けて、失業といった辛酸をなめた人々です。

 顧みられることの少なかったこの人たちに光を当てたのはトランプ氏の功績でした。

◆トランプ政治に審判

 半面、国境の壁の建設といった反移民色の濃い政策は、少数者への差別・偏見意識を解き放ち、社会の分断を深めました。

 米国は民主主義、人権、法の支配という国家原理に加え、自分とは違う他者を認める寛容性が持ち味です。自由と平等をうたった独立宣言に代表される建国の精神と理念が多民族国家の米国を束ねてきました。

 おせっかいで独善的な面もある米国ですが、こうした美点が世界の人々を引きつける訴求力になってきました。

 ところが、トランプ氏は建国の精神を軽んじる言動を続けています。束ねを失えば国民の結束力は弱まります。

 外交でもおよそ生産的ではありません。米国主導の国際秩序を自ら壊し、同盟国・友好国との関係を損ねる。国益を考えているとは思えない行動を連発しています。

 トランプ氏の弾劾訴追に発展したウクライナ疑惑では、外交の私物化があらわになりましたが、下院公聴会で証言に立った国家安全保障会議(NSC)の元高官は、外交スタッフが置かれた深刻な状況を明かしました。

 多くの高官やスタッフが誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)や脅しを受け、身の危険を感じて辞めていくというのです。この元高官の自宅にも殺害すると脅迫電話がかかってきたり、自宅玄関のドアを何者かがハンマーでたたいていった、と隣人から聞いたそうです。

 政権から有為な人材が去っていき、大統領のイエスマンばかりが幅を利かせるようになったら、米外交はガタガタになります。

 トランプ氏が第一に優先してきたのは、支持層に受ける政策です。万人のための政治ではなく、お得意さま向けの政治です。それは、ひとえに再選のため。統治よりも選挙キャンペーンを続けてきたと言った方がいいでしょう。

 そのおかげなのかトランプ氏の支持率は四割ほどでほとんど変動しません。米国の景気が良いことが強みになっていますが、それにしても盤石の支持基盤です。

◆結束がカギ握る民主党

 再選戦略は前回選挙の再現。東部から中西部に広がる「ラストベルト」(さびついた工業地帯)がトランプ氏の主戦場です。前回、ここを制して当選をたぐり寄せました。

 対する民主党の候補者選びは混戦です。二月三日の指名争い正式スタートまで一カ月。最近の支持率によると、バイデン前副大統領(77)がトップを走り、サンダース上院議員(78)、ウォーレン上院議員(70)の二人がこれに続き、インディアナ州サウスベンド市のブティジェッジ前市長(37)が先行の三人を追いかけています。

 党内では穏健派のバイデン氏は白人労働者層に人気があり、トランプ氏の支持層と重なります。ウクライナ疑惑でトランプ氏がバイデン氏の捜査をウクライナ政府に要求したのは、そんな事情も計算に入れてのことでしょう。

 サンダース、ウォーレン両氏はともに左派です。民主社会主義者を自称するサンダース氏と、大企業や富裕層への大増税を打ち出したウォーレン氏の急進的な主張に穏健派はついていけません。

 政権奪還を目指す民主党にとって、左派と穏健派の融和を図って結束しないと勝算はありません。

 前回、候補者指名争いでサンダース氏はクリントン氏に敗れはしたものの、予想外の健闘をみせました。ところが、サンダース氏を支えた若者たちを、クリントン氏は取り込めなかった。これも本選挙でトランプ氏に後れを取った大きな要因でした。

◆米国民が下す重い選択

 自分の足らざるところを補う人材を副大統領候補に据えて、幅広い支持を取り付けようという動きが出てくるでしょう。例えば、バイデン氏が指名されれば、リベラルで若者に人気のある女性のハリス上院議員(55)を副大統領候補に指名するというような。

 国際舞台で後退を続けるのか、それともリーダーの座復帰を目指すのか。

 米社会の分断を深化させるのか、それとも修復に動くのか。

 米国民はとても重い選択を迫られることになります。

 

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