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【国際】

<民衆の叫び 世界を覆うデモ>(5)チリ 南米の優等生、爆発

仲間と野宿しながらデモを続けるロドルフォ・リベロスさん(左から2人目)

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 ハンマーで歩道を壊し、そのコンクリート片を運んで装甲車に向け投げる。警官隊が催涙弾や放水砲で応戦すると、若者らの群衆は一目散に逃げ出した-。昨年十二月の南米チリの首都サンティアゴは、反政府デモによる落書きや破壊の爪痕が残っていた。

 地下鉄料金の値上げをきっかけにその二カ月前から激化したデモは、全国に飛び火して一部が暴徒化。ピニェラ大統領が値上げを撤回してもデモは収束せず、首都で開催予定だったアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議と国連気候変動枠組み条約第二十五回締約国会議(COP25)は中止に追い込まれた。

 大学院生ニコラス・ゴメスさん(32)は「チリには金持ちと貧乏人しかいない。不公平だ」とデモを続ける理由を語る。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)もデモの根本原因を「社会的、経済的不平等」とみる。

 チリは先進国でつくる経済協力開発機構(OECD、三十六カ国)の南米唯一の加盟国。故ピノチェト大統領が一九七三年の軍事クーデターで社会主義政権に終止符を打って以降、いち早く新自由主義的な開放経済を推進。中長期の安定成長を遂げた「南米の優等生」とも称されてきた。

 半面、所得格差はOECD加盟国で最大、課税や給付金を通した富の再分配は最低水準だ。国連によると、上位1%の富裕層が国内純資産の26・5%を押さえる一方、下位50%はわずか2・1%を分け合う。全労働者の半分は月収四十万ペソ(約六万円)に満たない。

 金属会社の期間工ロドルフォ・リベロスさん(36)もその一人。住まいの低所得世帯向け公営住宅を飛び出し、市街地の公園で野宿しながらデモを続けている。テレビでデモを見ていた一人娘(11)に「なぜ警察に石を投げるの?」と聞かれたのがきっかけで、「皆が教育を受けられるように闘っているんだ」と話す。

 弁護士になるのが夢の娘に、大学で法学を学ばせてやりたい。しかし月収四十万ペソと母親(53)の年金受給も月十八万ペソではそれも難しい。「国民に耳を傾けない政府を許し続けていてはダメだ」と訴える。

治安当局の放水砲から逃れるデモ隊の人たち

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 デモ隊の主な要求の一つが現行憲法の改正だ。ピノチェト氏の旧軍事政権下で八一年に施行されたが、国民の政治参加や教育、福祉に関する国の義務が明文化されていないとして不平等の元凶との見方がある。

 このためピニェラ氏は、年金や最低賃金の支給額の引き上げなどを打ち出したほか、新憲法導入の是非を問う国民投票を四月二十六日に行う法案にも署名した。ただ、新憲法が要求通りの内容になるかは不透明で、デモが収まる気配はない。リベロスさんの右腕には警官隊に一時拘束された際にできた傷が残るが、「一時しのぎの解決策では引き下がらない。家族のために闘い続ける」と語る。

 野党「民主主義のための政党」(PPD)党首のムニョス元外相(71)は今回のデモが残した教訓を指摘する。「不平等のようなうみを放置すべきではない。すみやかに対処しなければ、いずれ爆発する」

 (サンティアゴで、赤川肇、写真も)

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