「プロデューサーさん、ちょっといいですか?」
「ん?どうしたんだ、百合子。」
仕事をしていた手を止め、彼女の方を見る。
「あの……1つ、お願いがありまして……」
「なんだなんだ?」
百合子は大きく息を吸うと、
「あ、あの!プロデューサーさんの、家の、合鍵、ください!!!!」
「……は?……」
興奮した百合子を落ち着かせて話を聞いてみると、自宅に本の置き場が無くなってしまったから、ウチに置かせてほしいのだという。
だったらなんで合鍵と思ったら「そ、それはですね…その方がプロデューサーさんのお手を煩わせないかと思いまして……」と指をもじもじさせながら言っていたので、それも一理あると思い、鍵を渡したのだった。
のだったのだが、
それからほぼ毎日のようにウチに来て、
「百合子ー、そろそろ帰った方がいいんじゃなーい?」
「もう少し待ってくださーい!」
とか
「百合子ー、もう帰る時間なんじゃない?」
「あと少しだけ!あと一章だけ読ませてくださーい!」
とか
「百合子ー、もう遅いんだから帰りなさーい」
「……」
とか。
聞いちゃいない。
そんなことが続いているある日、もう百合子を家に帰さなければならない時間だと思い、呼びに行った。
「おーい百合子!もう時間!もう10時なんだから帰る支度しろー!」
「今いいところなんですよー!もう少し待ってくださーい!」
「嘘つけ!お前はいつもそうやって日付が変わるまで読もうとするじゃないか!!!」
「いふぁいいふぁいいふぁいふぇすふろひゅーはーはん、ほっへひっはらないへふはさい!」
「でも本当にいいところなんですよ!!AIに支配されきったこの世の中の現状を疑い始めた主人公が…」
もうこうなってしまうと百合子は止まらない。
自分でも本は読む、ただしあまり手に取らないようなジャンルの本もある。
特に今、百合子が話しているようなSFのようなジャンルの本は、普段自分から読もうとすることはあまりない。
だが、こうして百合子の話を聞いていると、自分も読みたいという気持ちが脳に、心に、溢れてくる。
確かに面白そうな本だな。
そうして自分も話にのめり込んでいってしまい、
「やっべ百合子!いま何時?」
「えーっと、12時ちょっと過ぎですね!」
「うーわもうそんな時間かあ…どうする?帰るなら送っていくけど…」
「いや!泊まっていきます!泊まらせて下さい!」
なんでそんな食い気味なんだよ。
「じゃあ俺百合子がウチに泊まっていくこと、親御さんに連絡しておくから…」
「それは大丈夫です!」
「なんで大丈夫なんだよ、心配するだろ?家の人」
「あ、えーっと、それはですね…旅行!そう旅行に行ってるんですよ!両親が二人で!」
「お、おう、そうなのか…それでもあとで百合子の方から携帯に連絡いれとけよ?」
「はい!わかりました!それでですね、プロデューサーさん」
「ん?」
「映画、借りてきてるので観てもいいですか?!」
「観ない!早く風呂入って寝なさい!」
こうしてプロデューサーと七尾百合子の長い夜は、更けていくのであった……