こんだけあってなんの進展もない2人ってなんなんですか……
「プロデューサーさーん……花火行きましょうよー……」
ぐったりと、だらしなくソファに寝そべった百合子がそんな提案をしてくる。
「いや今仕事」
「他のアイドルとプロデューサーたちは行ってますよー……なんでウチは行かないんですかー……」
「他所は他所、ウチはウチなの」
そう、今日は劇場の近くで大々的に花火大会が行われる日なのだ。
かなり大規模で、遠方から見物客が来るレベルのものだ。
当然そんなイベントに、青春真っ盛りの女の子たちは興味津津であり、各々アイドル同士や、プロデューサーを誘って観に行ったりしている。
そんな中、仕事をしている俺に対して不満を抱く百合子の気持ちも分かるが、仕事は仕事だ。
やらないわけにはいかない。
「これは不当人事ですよ!ウチだけ花火連れてってくれないなんてプロデューサーさんはブラック体質です!!」
うわめんどくせえ……
てか不当人事ではねえだろ……
「仕事やってんだって、わかってくんない、百合子ちゃん?」
「仕事と私、どっちが大事なんですかぁ!」
「……それは百合子だって」
「なら!」
「俺が今やってることも、引いては百合子のためになんだって、だからわかってくれって、な?」
「む~……」
ちょっとずるい言い方になってしまったかもしれないが、これもまた事実だ。
「……はぁ、わかりましたよ!でも仕事が終わったら、連れてって下さいね!待ってますから!」
ほっぺをぷくーっとさせながら不満そうにしている百合子。
鞄から本を取りだそうとする百合子に、俺は……
「あっ、暇ならこのアンケート答えといてくんない? 七尾百合子に聞きたい100の質問」
「プロデューサーさんのいじめっ子ーーーー!!!!!」
「プロデューサーさ〜ん……終わりました……」
「おお、お疲れさん。こっちももうすぐ終わるから待ってな」
「じゃあ!」
「ああ、花火観に行こうか」
「やったー!プロデューサーさん、大好きですー!」
百合子が抱きついてくる。
や、ホントそういうの心臓に悪いからやめてほしい……
「よし!行くか!」
「はい!」
そうして歩き出す俺、くっついて来る百合子。
「あれ?プロデューサーさん、どうして階段登るんですか? まさか屋上から飛び降りて花火と共に散るなんて……」
「いや屋上には行くんだけどそんな恐ろしいこと考えてなかったわ……」
「はっすいません!ついつい……」
「まあ付いてこいって、絶対良いから!絶対……多分……」
「どうしてそんな自信なさげなんですか……ちょっとっていうかかなり不安になってきたんですけど……」
「いや!先輩からめっちゃ良いって聞いたから大丈夫!信じよう!」
「えぇ……」
そうこうしている間に屋上の扉の前まで来た俺たち。
「さあ!」
「は、はい!」ガチャ
ひゅ〜……ドーン!!!
「お〜、ちょうどタイミング良かったな〜」
「わぁ……!」
花火を見つめる百合子の目が、キラキラしている。
まあ感触としてはかなり良さそうだ。
ピトッ
「ひゃあ!」
「ほれ、ジュース」
俺は、あらかじめ準備しておいたクーラーボックスから、冷えたペットボトルを取り出し、百合子の頬に当てた。
しっかし、ほんとリアクションがいちいち可愛いやつだなぁ……
「あ、ありがとうございます……」
「いーえ」
「でもどうしてプロデューサーさんは、そんないつもいつも私にいじわるばっかするんですか……
はっ、もしかして小学生男子にありがちな好きな女の子に構って貰いたくて、いじわるしちゃうあれですか?! プロデューサーさん、好きなら好きってハッキリ伝えてくれれば私、私……ああ!そんなダメですプロデューサーさん! いくら屋上で誰も見てないからって……」
「おーい、おーい、百合子ー? 花火見なくてええんかー?」
妄想の世界に入り浸っている百合子を、本来の目的の方へ連れ戻す。
「はっ!すいません……また私妄想の世界に……」
「いつもの如く妄想の世界ダダ漏れだったけどな。 まあ文学少女さんにも満足してもらえるくらい、ロマンチックな空間を提供出来て良かったよ」
ぶっちゃけここマジでいいと思うし。
「それはもう!花火を見上げながらこんな他に誰の気配も感じさせない2人だけの世界みたいな空間は最高ですよ! 」
「そこまで褒めてもらえるなんてプロデューサー冥利に尽きるよ」
そこで2人の会話は終わり、時たま響く花火の音と、遠くから聞こえてくる人の話し声以外、なんの音も聞こえてこなくなり、2人、空を眺める。
「……プロデューサーさん」
不意に。
「……ん?」
「……もし何があっても、また来年も花火!ここで2人で観ましょうね!」
「……!ああ!」
大げさだ、なんて野暮なことは言わない。
来年も再来年も、ずっと2人で花火を観よう、百合子。
「約束ですよ!プロデューサーさん!」