ずいぶんと昔、東京国際映画祭に行った時、六本木のTOHOシネマズでは24時間映画をやっているので深夜上映もありでしたが、さすがに深夜が空席ばかりの中で唯一、深夜2時からの上映でも満席だった映画があります。
それがエドワード・ヤン監督の『恐怖分子』でした。
エドワード・ヤン監督の映画は評価が高く、知る人ぞ知るなのでなかなか上映では観る事ができません。
なので、没後10年記念でDVDが発売された時、『恐怖分子』と『牯嶺街少年殺人事件』は買ってしまいました。
ここのデータでは188分となっていますが、私のDVDは236分、3時間56分バージョン。約4時間です。
時間のせいでなかなか観ずにいたのですが、この正月一日かけて観る事としました。長い映画だなぁというのは杞憂に終わりました。
今、終わってしまって、ああ、終わってしまった、と思うばかりです。
(ただしDVDだからいつでも再見できるのです、、、買ってよかった)
これは映画鑑賞というより、映画体験。
映画祭などで感じる満足感ですよね。ハリウッドのブロックバスター映画などとは同じ映画であっても全く別物。
主人公の小四(シャオスー)役をやった少年があのチャン・チェン(張震)とは気が付かず・・・大人になってからの鋭い表情はまだ少年の頃はないのです。ただハンサムな子ではあるな、と思いました。
実在の事件をベースにしたということですが、何故殺人事件が起きてしまったのか・・・という説明はありません。
時は1960年の台湾、台北。
小四の家族は両親と姉2人兄1人妹1人の大家族。
一軒家ではありますが、小四の寝る所は押入れの下段(上段が兄)
プライベートなスペースがそれだけというのは思春期の男の子にはつらいでしょうが、そういうことには一切不満を言いません。
映画は父親が入試の結果に文句を言いに行く所から始まります。
志望校を落ちてしまい、その学校の夜間部になってしまった事への抗議。
ラジオからは、学校に合格したものの氏名が淡々と読み上げられています。
しかし、実際中学校では、不良たちがグループを作っており、派閥争いに明け暮れているようなのが実態。
小四も「小公園」というグループに属しています。
対立する群れをつくった若者たち・・・先日観た『ウェストサイド物語』も白人若者、移民若者と派閥を作っているのがベースにありました。
学校はレンガ造りのアーチが並ぶ高校でこのアーチがとても効果的に撮影されています。
1960年当時の台湾の中学生たちが学校でやるスポーツはバスケットボール。小四が対立するグループに呼び出しをくらって無理矢理連れていかれる校庭の隅のアーチの奥の真っ暗な暗闇からバスケットボールが飛んでくる・・・ただそれだけ映して後の事は映さないのです。
全編そういう事ばかりですが、隠されていた日本刀を見つけ、武器を手にしたあたりから、少年たちの争いは「殺し合い」に変わっていく。
小四の父は公務員ですが、実は上海から台湾にやってきた人々でした。
だから生粋の台湾人ではない。
それはエドワード・ヤン監督自身の出自であるそうです。
少年たちは、笑ったり、暴れたり、喧嘩したりしますが、小四はいつもどこか憂鬱そうな顔をしていて無口です。
唯一、好きになった少女、小明(シャオミン)と話す時だけ笑顔が出ますが基本的には無表情。
思春期の男の子たち、女の子たちの姿、周りの大人たち、どこか狭くて、監視しあっているような雰囲気も漂います。
いくらでも小難しい映画論は書ける人は書ける映画ですが、私はひたすら瞳の快楽だと思う次第です。
この映画は、当時台湾で映画を撮っていた林海象監督と俳優の永瀬正敏さんがエキストラで出たという話は知っていたのですが、ブックレットで行定勲監督が、この映画の撮影風景を台湾で見ていたという事実は初めて知りました。
私はエドワード・ヤン監督の映画の色が大好きです。
そして光と影の美しさ。
映画を志す若い人は是非、観て欲しいと思います。