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AIが、仕事どころか「人の選択肢」まで奪ってしまう可能性

『サピエンス全史』著者からの警告

人間とAIは協業しない

イスラエルの歴史学者で文明論者のユヴァル・ノア・ハラリ(1976年生まれ)は、現下の世界に強い影響を与えている知識人だ。

著作は世界各国語に翻訳され、累計は2000万部を超える。ハラリは『サピエンス全史』で人類の過去を考察し、『ホモ・デウス』で未来を予測した。そして本書『21 Lessons』で現状分析を行う。

ハラリは、巨大コンピューターによりビッグデータをアルゴリズム(合理的な計算手順)で処理する時代が到来しつつあると考える。その結果、雇用環境が劇的に変化すると考える。

 

〈一九二〇年に農業の機械化で解雇された農場労働者は、トラクター製造工場で新しい仕事を見つけられた。

一九八〇年に失業した工場労働者は、スーパーマーケットでレジ係として働き始めることができた。そのような転職が可能だったのは、農場から工場へ、工場からスーパーマーケットへという移動には、限られた訓練しか必要なかったからだ。

だが二〇五〇年には、ロボットに仕事を奪われたレジ係や繊維労働者が、癌研究者やドローン操縦士や、人間とAIの銀行業務チームのメンバーとして働き始めることはほぼ不可能だろう。彼らには必要とされる技能がないからだ。

第一次世界大戦のときには、何百万もの未熟な徴集兵を戦場に送り込むのは道理に適っていた。敵の機関銃に向かって突進し、何千人という単位で戦死するのだから、個々の兵士の技能はほとんど問題にならなかった。

今日では、アメリカ空軍はドローン操縦士とデータ分析員が不足しているのにもかかわらず、スーパーマーケットの仕事が務まらずに辞めた人を雇って空きを埋めようとはしない。未熟な新人に、アフガニスタンの結婚披露宴をタリバン幹部の会合と勘違いされるわけにはいかないからだ〉