罪じゃないけど罪深い
「
出張中の夜。
一緒に出張に来た職場の先輩は、宮城県の片田舎地域のホテルにて、俺こと
当然俺の脳内には疑問符しか浮かばない。
「はっちゃけるって……なんですか?」
「デリヘルという、楽園があってだな……」
先輩は、そういいつつスマホをフリックし、俺に見せてきた。どうやら先輩の好みなデリヘル嬢を見つけたらしい。突然言われてもとまどいしかないっつの。
「な? 出張業務も解決したことだし、ここは知っているヤツはまわりにいない片田舎だ。旅の恥はかき捨て、あとは寝泊まりして帰るだけなら遊ぼうぜ」
「どこに呼ぶんですか。このホテル、デリヘル呼ぶの禁止ですよね、たぶん」
「なんで知っているそれを。まあそれならそれで、適当なところで待ち合わせて、どっかに連れ込めばいいじゃないか」
先輩の中では、デリヘル嬢を呼ぶことは確定事項のようである。少しあきれている俺に気づかないくらいテンション高ぇ。
「ん、俺はこの娘に決めた。ほら、おまえも選べ」
「ちょ、先輩」
先輩の勢いに押されつつも、さすがに遊ぶのはためらわれる、そんな俺だったが、無理矢理に近い形で一覧を見せられた。
しかし、問題がひとつ。
俺は、風俗はおろか、女性とのアレやコレなどが未経験なのだ。わかりやすく言おう、童貞なのだ。バカにされたくないから黙っているけど。
しかも、一覧を見て結構びっくりした。今のデリヘルって、こんなに美人ばっかりなのか。いや目は黒線で消えているんだけどね。 こんな美人に来てもらって、『えー、あなた童貞なの? ウケルー』とか言われちゃったりしたら再起不能に陥りそう。俺もムスコも。
……などと恐怖に震えつつ目を滑らせていると、ふと、ひとりだけ地味な写真があった。『しおり』というその娘の目を隠した画像を見るに、ブサイクではないんだけど美人でもないとわかる。点数をつけるなら、おそらく六十四点くらいの微妙な顔立ちだろう。ちなみになぜ六十四点かというと、四捨五入したら六十点になるからだ。
もう一度あらためて見てみる。ちょっと長めの前髪をピンで留めているが、その感じがイモくさい。口元もあまり上品ではない。無理矢理いい点をあげるとしたら、白い肌と左目の下にあるセクシーな泣きぼくろと――なにやら落ち着きそうな安心感。
このくらい田舎くさそうな娘なら、童貞だってバレても、バカにされないかもしれない。そんな根拠のない期待もこめて、俺は六十四点を指さしてしまった。
「この娘が、いいです」
「しおり、って娘か…………あまり人気なさそうだぞ?」
先輩はわけがわからないよといわんばかりに怪訝そうな顔をして俺を見てくる。好みにケチつけられるいわれはないが、ごまかす理由くらいはすぐ頭に浮かんできた。
「いや、人気の娘は待つ羽目になるかもしれないでしょう。この娘なら待たなくても大丈夫でしょうし」
童貞の口から出まかせを聞いて、怪訝そうな顔を納得したように変化させた先輩は、力いっぱい俺の肩をバシバシと叩く。
「なんだなんだ、おまえ知ってるじゃないか! さては、ちょくちょく遊んでたな?」
「……はあ」
こちらの理由など何も知らないであろう、先輩が勝手に誤解するのは自由だ。適当に流して、適当にごまかそう。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「健闘を祈る!」
わけのわからない激励の言葉を残し、先輩はやる気満々でおちあうための場所へと消えていった。俺に残ったのは戸惑いばかりなんだが、乗せられてしまったとはいえ、ドタキャンはいろいろ問題がありそうだ。
『じゃあ、九時に駅西口の自動販売機横で』
そんな待ち合わせ約束だったはず。駅西口の自動販売機横って、なんの自動販売機なんだ……とは思ったが、何のことはない、駅西口には自動販売機がひとつしかないようである。さすがはド田舎。
時間は九時を少し過ぎている。俺は挙動不審な首振りを繰り返しながら待ち合わせ場所に近づくと、暗闇にまぎれて目立たないようにひっそり、自動販売機の陰に立っている女性がいた。
「あ。えーと……たかしさん、ですか?」
何の役にも立たなそうなアクセサリーの品々を身につけ、ちょい派手なピンクの服を着て、過疎な駅前に佇む女性。見る人が見たらデリヘル嬢だとわかりそうなものだが。
しかし、本当に顔が六十四点である。俺の予想も捨てたもんじゃない。そんな失礼な心の声を押し殺し、俺は無言で首を縦に振った。
「よかったー、ドタキャンされたかと思っちゃいました。しおりです、今日はよろしくお願いします」
六十四点ではあるが、にこっと笑った顔ならば一点くらいプラスしてもいい。よかったな、四捨五入したら七十点になったよ、しおりちゃん。
長めの前髪をピンで留めている様は、画像と同じでイモくささしかないんだけど、よけいなことは言わない方が気分良く過ごせそうだ。
とりあえず九十分コースで料金を渡すと、受け取ったしおりちゃんが腕を組んできた。
「じゃあ、さっそく行きましょう!」
冷静になって考えれば、若い女性と腕を組むのも初めてだ。ドギマギしながらうろたえる俺に、しおりちゃんがフレンドリーに話しかけてくる。
「どうしたの、落ち着かないね。ひょっとして……初めて?」
さすが玄人、ズバリ言い当てられた。プロ相手に虚栄心は無用と悟った俺はコクンと頷くと、しおりちゃんは嬉しそうに抱きつく腕の力を強めてきた。
「そうなんだー! デリ初めてなのに、わたしを指名してくれて嬉しいな。今日はサービスしちゃうからね、期待していいよ!」
いや、初めてはデリヘルだけじゃないんですけれど……そんなセリフは極度の緊張から言えるわけもない。俺は腕を引っ張られ、ラブホテルへと連れて行かれた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
初めてのラブホ。怪しいベッドだが、回転式ではないようだ。部屋代ケチったからかな。
怪しい物が入っているロッカー式の自動販売機。コレは敷居が高すぎるから今回はパス。
怪しい照明、なぜか備え付けてあるパチスロ機。ベッドの棚に乗っているゴム製品。あんま機まである。
へー、こんなふうになっているんだ、という好奇心と、これから性的なアレやソレが始まるのかという緊張感とで、俺は部屋に入ってすぐにベッドに座り込んでしまい、身動きできなかった。
「じゃあ、まず決まりだから、シャワー浴びてからにしましょ。一緒に浴びる?」
「!?」
あっけらかんとしおりちゃんが言ってきたが、童貞に、一緒シャワーはいきなり敷居が高すぎる。とんでもないご提案に首を縦にも横にも振れない俺は、額から流れ出る汗を拭うだけしかできなかった。
「……どうしたの? 一緒はイヤ?」
しおりちゃんがちょっと不安そうに首を傾げながら訊いてきた。
「そ、そんなわけなくて、緊張して」
ああ、我ながら童貞臭い返答。だが、しおりちゃんはその言葉を聞いて安心したらしい。
「……そっか! よかった。チェンジされちゃうのかな、と思って……」
「……チェンジ?」
「好みじゃない娘だったら、違う人に来てもらうこと。……わたし、あまり綺麗じゃないから、いっつもチェンジされちゃうんだ。だから、指名が久しぶりで……」
「…………そうなんだ」
「うん、すごく嬉しかったの。わたし、わけありで稼がなきゃならないから」
「わけあり?」
「あは、バカな理由だけど……ホストクラブにハマっちゃって、ちょっと借金がすぎてね。さすがにカードローンもこれ以上借りれないし」
「……大変だね」
世界が違いすぎる話だが、今まで俺がそういう世界を経験してなかっただけか。少なくとも、そんな世界に身を置きながら生きている人は存在するのだから。
「ううん。自分がバカだっただけ。この業界に入っても、なかなか思うように稼げなくてね。指名なくて宮城から離れようと思っていたから、今日、たかしさんに指名してもらって感謝です」
「…………」
「そんなわけだから、たーくさん、サービスするね! さ、一緒にシャワー浴びよ?」
「………………あの」
自分の事情をあからさまにぶちまけるしおりちゃんに、隠しごとするのは無粋に思えてきた俺は、すべて正直に話す決意をした。
「どうかしたの?」
「実は……俺、風俗どころか、女性経験すら皆無なんだ」
「……えっ?」
「そう、童貞。だから、なにをどうしたらいいのかまったくわからなくて……今日も先輩に押し切られて、無理矢理というか」
「…………」
「……だから、うまく相手できなくて、ごめん」
俺はかろうじて自分の恥をさらし、燃え尽きたボクサーみたいにベッドの上でうなだれた。だが、しばしの間をおいて、しおりちゃんは静かに俺の横に腰掛けてきた。
「なにも、恥ずかしいこと、ないよ」
「……え?」
「むしろ、わたしにすらそうやって気を遣ってくれるたかしさん、素敵だよ」
そう言って、俺の肩を優しく抱いてくれるしおりちゃん。六十四点なんて言って申し訳ない。たとえ客に対するリップサービスだとしても、この言葉で俺は堕ちそうだ。いや、半分すでに堕ちてる。
「でも、初めてのデリ、わたしが相手で本当にいいの?」
「……俺は、しおりちゃんがいい。他は、いやだ」
はっきりとそれだけは伝えると、しおりちゃんが抱きつく腕を二本にしてさらに密着してきた。間近に広がる甘い香りに脳味噌も溶けて、なにも考えられなくなりそう。
「嬉しい。わたしも……ねえ、たかしさん」
「……なに?」
「とりあえずシャワー浴びよ。そしたら……トクベツにわたしのすべて、教えちゃう」
「………………え? え?」
「誰にもナイショにしてくれるなら……わたしのここ、使わせてあ・げ・る♪」
ここ、といいながらしおりちゃんが指さして示してきた場所は……自分の下腹部だった。
「………………え? まさか……」
「ふふっ、ふたりだけの秘密ね。全部、卒業しちゃおうよ、たかしさん」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
嗚呼。
俺は、人生で一番大事で、一番優先すべきことを、すばらしい相手と経験してしまった。
これが、新しい世界か。
いや、大げさじゃなくてね。なぜ俺は、生まれて今日まで童貞だったのだろう。
こんな快楽がこの世にあるのならば、他のすべてを犠牲にしてでも成し遂げるべきであった。性的な行為を。
俺は今、猛烈に感動している。好勝負だった。いやまああっさり果てたんだけどな!
「……なんだ貴史。やたらツヤツヤしてんじゃねえか、おまえ」
「……ぼー」
「このやろ、ボーッとしやがって。そんなによかったのか、しおりって娘は」
「…………控えめに言って最高でした」
「ああそうか、よかったな大当たりで。こちとら無愛想なのに当たってつまらなかったわ。ちくしょー!」
「…………ぼー」
ふたりとも出張先の滞在ホテルに戻ってからの反省会。先輩が脇で不平不満をぶちまけていても、俺は解脱したような精神状態のままでいた。
というか、どうやってあれからホテルの部屋まで戻ってきたのか記憶にない。それだけ夢のような時間であった。今の俺に残ったのは『素人童貞』というどうでもいいものだけである。
『たかしさん、わたし待ってますから。絶対、また指名してくださいね』
しおりちゃんはそう言ってくれた。俺はもちろんと言って別れたが、もう俺がこの土地でしおりちゃんを指名することはないだろう。なにせ、明日には出張が終わってしまうのだから。
でも、また来たら、絶対しおりちゃんを指名しよう。それだけは心に決めた。
しおりちゃん、俺の童貞を奪ってくれた女神。俺の中では、キミは八十三点にランクアップしたよ。
「……ふっ」
俺の賢者タイムは、なぜかやたらと上から目線だった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
さて、一夜明けて次の日の早朝。
朝一番の新幹線で帰る予定だった俺は、隣の先輩と同時にあくびをしながら、駅に向かって歩いていた。
「まず、仙台駅まで出てから、ですね」
「電車で一時間か……本数少ないから、乗り逃がしたら地獄だな」
「しょうがないですね、都会とは違いますから」
「ああ。そう言えば貴史、おまえ確か仙台出身だったよな?」
「あ、はい。中学までは住んでいました。オヤジがまったく家事のできない人間だったから、転勤に合わせて引っ越しを」
「……おまえ、母さんいないの?」
「俺が三歳のとき、離婚しまして。俺はオヤジに引き取られたんです」
「そうか。変なこと尋ねてすまない」
昨日、俺を強引にデリヘルへと引き込んだ先輩と同一人物とは思えない態度に、思わず吹き出しそうになってしまった。
「別に気にしてませんよ。あまりにも小さかったせいで記憶に残ってないですし。それに」
「……それに? どうかしたのか?」
「くわしくは聞かされてないんですが、俺が社会に出てから寂しくなったのか、オヤジが前に別れたおふくろと一緒に暮らすことになりまして」
「へえ。元サヤか」
「言葉の意味が……でもまあそんな感じです。それで、出張明けの土日に、おふくろと会うことになったんですよ」
詳しく聞かされてないからこれ以上は俺もわからない。なので、東京に戻ってからも俺は忙しい。
だが。今の俺には、どんな試練でも乗り越えられそうな気がする。童貞を失って得た自信はそれだけ大きい。
それに、おふくろに久しぶりに会えるというのもかなり楽しみだった。記憶の片隅にしか残っていないが、今まで会えなかった実の親に会えるというのはやはり特別なものだ。
「お、やっと仙台駅だな」
普通列車が仙台に到着し、先輩と並んで降りる。そのままホームから階段を上がり、新幹線の乗り換えをしようと歩いていると、向かい側から歩いてきたスーツ姿の男性と肩がぶつかった。
「あ、失礼」
「いえ、こちらこそ。…………ん?」
ぶつかった拍子にに謝られ、反射的に視線を声のしたほうへ向けると……やたらとキザったい薄緑のスーツをビシッとキメた、茶髪の男性がそこにいた。
どこかで見たような……などと考えていると、相手もそう思ったのか、じろじろとこちらをなめ回すように見まわしてから、おもむろに話しかけてきた。
「……まさか、貴史? 小杉貴史か?」
この声、間違いない。
「……やっぱり、
宏昭は、俺だと確認すると、豪快に背中を二、三度叩いて喜んだ。
「おお、まさかこんなところで貴史に会うとはな! 六年ぶりか?」
「高校卒業以来だからそうだな。元気そうで何よりだ。しかし、変わったな宏昭」
六年ぶりに会った宏昭はかなりチャラくなっていた。高校時代はさえないヲタク仲間だったというのに。
「ああ、貴史は変わらないな」
「うるせえほっとけ。これから仕事か?」
「いや、仕事帰りだ。勤めている会社系列の新店が仙台にオープンして、一年ほど手助けしていてな。無事手助け期間が終了して、送別会帰りなんだ」
「朝までコースかよ……それだけ送別会を盛大にやってもらえて羨ましい限り」
「はは、そうでもないぞ。妬み嫉みなどはどこにでもあるから。貴史はどうしたんだ?」
「俺は出張だよ。今から東京に帰るところだ」
「そうか! 俺も来月には東京に戻るから、戻ったらまた会おうぜ。じゃ、時間がないからまたな」
「ああ、連絡先は変わらないから、待ってる。またな」
あわただしい再会の挨拶をし終えて、宏昭は駆け足で反対側の先にあるホームに消えていった。隣で成り行きを見守っていた先輩が、それを確認してから口を開く。
「貴史の知り合いか? かなりチャラそうに見えたけど」
「俺も変わりようにびっくりしました。高校時代は、そんな派手なヤツじゃなかったんですけどねぇ」
「そうなのか。まあ、ホストでもやってたりしてな。ははは」
先輩が乾いた笑いとともにそう言うのを聞いて、俺は昨日のしおりちゃんの言葉を思い出した。
『ホストにハマっちゃって借金が』
うーん、俺たち男がデリヘルにハマるような感覚で、しおりちゃんたち女性もホストクラブにハマるのだろうか。昨日の気持ちよさを思い出すとソレも納得ではある。
あ、いかん、顔がまたゆるんできた。
「貴史、なんだその気持ち悪い顔……まあいい。さ、俺たちも新幹線に乗ろうぜ」
「あ、はい」
先輩に見られていた。いかんな、気を引き締めなければ。
両頬を二回平手で叩いて気合いを入れ直した俺は、先輩の三歩後ろを駆け足でついて行き、数分後に新幹線ホームのエスカレーターまでたどり着いた。
エスカレーターに乗りながら、考える。――――しおりちゃんに、また会えるだろうか――――
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「うん、出張終わり。貴史、お疲れ様」
「お疲れ様でした、先輩。いろいろありがとうございました」
「ああ、じゃあな」
日が暮れる前に会社への報告も済み、今回の出張は無事終了した。この出張は、俺にとって人生の転機になることは間違いない。
さて、あとはもうひとつ大仕事が残っている。久しぶりの母との対面。
その確認のため、俺は父親も住む自宅へと向かった。
オヤジは仕事を終えて帰宅していた。まあ、その時間帯をねらってきたのもあるが、俺が帰宅して玄関のドアを開けたときのオヤジの顔は、なんとなく幸せいっぱいに見えた。
「なんだってだらしない顔をしてるな、オヤジ」
「ほっとけ。仕方ないだろう、明日なんだから。……そういうおまえもなにやら顔がゆるんでるぞ」
オヤジを茶化したつもりがやり返されてしまい、慌てて顔を引き締める。今の俺は、気を緩めると無意識のうちに昨日の出来事が思い出されてしまうようだ。
「ま、まあそれはおいといて。明日はどういうスケジュールなのか確認しておきたくて」
オヤジに対して話題転換をしながら、玄関で靴を脱ぎ自宅のリビングへ進む。オヤジはコーヒーをふたりぶん淹れて、リビングに運んできてくれた。俺はオヤジの向かい側のソファーに座って話を聞く。
「明日、
「……洋子って母さんだよな。……莉菜?」
「おまえには妹がいただろ。まあ記憶にないのも仕方ないにしても、前にも何度か伝えているはずだが」
そう言われてみればそうだった。母さんのことで頭がいっぱい……いや、昨日のことと母さんのことで頭がいっぱいで、俺には一歳違いの妹がいる、ということなど片隅にすら残っていなかった。
「記憶にすらないから。妹と言っても、会うのなんて二十二年ぶりだし、他人だよな他人」
俺は、妹に会う期待感など全くない、とあらためてオヤジに意思表示をする。だいいち、俺と同じ遺伝子ならば間違いなく可愛いわけがない。
「とは言っても、ちゃんと貴史の妹なんだぞ。私も会うのが小さい頃以来だから詳しい外見はわからないが、莉菜は読書好きな文学少女で、大学も文学部を卒業したらしいな」
「ふーん」
どうでもいい情報を一応記憶しておくふりをして、適当に会話を続ける。
「明日の新幹線で到着したら、上野のピービル二階の中華料理館で昼食がてら対面をする予定だ」
「……新幹線?」
「ああ。洋子と莉菜は、いまだに仙台住まいだからな。洋子はともかく、莉菜はまだ就職してないらしいから、こちらに引っ越してくるのに支障はないようだ」
「へー」
それをもっと早く知っていれば、宮城出張中に会うこともできたのになあ。ま、少し早く会ったところであまり変わりはないのか。話も弾むことはなかろうし。
ふわふわとまとまりなく思考を巡らせながら家の中を見渡すと、俺が出張の間にでも実行したのであろうか、断捨離が済んで広くなった室内に気づく。
「気合い満タンだな、オヤジ。明日からすぐここに住むんだろ?」
「あたりまえだ。二十年ほど遅い家族水入らずができるんだぞ? 気合いも入るわ」
「……そうだよな。俺も楽しみだ」
浮かれているオヤジに釣られるように、俺も心が軽くなってくる。ニヤニヤしながら鼻の下を伸ばすオヤジは気持ち悪いけどな、本音を言えば。
その日は、母と、ついでに妹に会うことを楽しみにしつつ、いつもより早く寝た。
なんとなく幸せがやってきそうな、いや、きっと幸せがやってくるだろうという確信。
だが。
その確信は――――錯覚だった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
待ち合わせ場所の、上野の中華料理館。久しぶりに会った母さんにハグされ、感動の親子対面をしていたその脇で、ひたすら脂汗を顔全体に浮かび上がらせながら、呆然と立ち尽くしていた女性がいた。
前髪が長すぎて目がはっきり見えない。いわゆるメカクレというやつだ。俺は母さんとのハグを終えてから、妹とおぼしき、その女性に視線を移した。
のだが。
なんだ、この『どこかで会ったような』感じは。妹なんだからおかしくはないのかもしれないが、会うのは二十二年ぶりである。おまけに、つい最近会ったばかりな感がひしひしと。
だらだら脂汗を流しながら青ざめた顔をしていられると、さすがに具合が悪いのだろうかと心配になってくる。ただ、前髪のせいで目が見えない。
「……えーと、莉菜、だっけ? 青ざめた顔してるけど、具合悪いの? 大丈夫?」
そう言って、妹の前髪を俺がかき分けると、飛び上がるくらいビクッとした妹は、こちらに視線を合わせようとすらしなかった。
そして気づいた。
左目の下にある泣きぼくろ。そして、前髪をかき分けたときに感じたイモくささ。
「……!?」
――ノーメイクだが間違いない、この六十四点感。つまり――莉菜、イコール、しおりちゃん。なんてこった、メイクしなきゃ五十九点じゃないか。
今度は、莉菜の前髪を払った手を硬直させたままで、俺が青ざめ脂汗を浮かび上がらせる番であった。
「……ふたりとも、どうした?」
オヤジが怪訝そうに声をかけてきたが、兄妹ふたりともそれに対応できる精神状態じゃなかった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「お互いに初対面みたいなものだから、緊張していたんだよ」
そんな言い訳をして何とかその場をしのぎ、戻った自宅。オヤジとおふくろは、当面の荷物を運び込んだあと、ふたりで買い物に出かけていった。
残される、俺としおりちゃん。いや、俺と莉菜。もう何を発言しても、自爆テロになりそうである。
莉菜もそう感じたのだろう、リビングにふたり、無言で佇む。窓から燦々と日の光が注ぎ込むのに、雰囲気はどす黒い。
だが、さすがにこのままではいられない。多少ダメージを負う覚悟を固めて、莉菜と話すことに決めた。
「……莉菜、デリヘルで働いていたこと、おふくろは知ってるのか?」
莉菜はまたまた飛び上がるくらいに体をビクッとさせ、下を向いたままで答えを返してくる。
「……知ってるわけ、ないじゃない」
「じゃあ、ホストクラブにハマってたことも、か?」
無言でコクンと頷く莉菜を見て、俺は無意識に目頭を押さえた。
「……なんてこった」
俺はそうとしか言えず。まさか、童貞を妹で失う兄になるとは。なくしたのは単なる童貞ではなく、普通の兄なら一生守りきるはずの『いもうと童貞』であったのだ。
背徳感と罪悪感と気恥ずかしさ。その他もろもろがミックスされて、わけのわからないカクテルが出来上がった。それを飲み込んだ俺は、顔を真っ青にし、すぐに真っ赤に変える。
ダウナー系とアッパー系のドラッグを同時に摂取したときの気分はこんな感じなのだろうか。最悪だ。
「……まさか、実の兄とやることになっちゃうなんて……こんなことなら、情にほだされて許しちゃうんじゃなかった……」
莉菜も後悔ありありで小声のつぶやきを発する。一億人以上いるこの日本で、どんな奇跡的な偶然なんだろう。もう神など信じない。
「莉菜、おまえ、客みんなにあんなこと……させてるのか? デリって本番禁止だろ?」
「みんなじゃないけど、わたしだって必死なのよ! お世辞にも美人じゃないわたしは、そうやってお得意様を増やすしかないじゃない……」
「……だからってなあ……」
「借金返すためには、そうするしか、ないの……」
気恥ずかしさと同時に、妹がビッチであることになぜかやたらと落ち込む俺がいる。ああ、二十二年ぶりに再会した妹は、節操がなくなってました、ってか。
「六十四点だもんな、仕方ないとは言え……」
「……ちょっと。六十四点って、なに? なんかわたしにとって不快な感情が込められたように聞こえるけど」
「気にするな」
「…………ふん。なによ、童貞を実の妹で捨てた、鬼畜兄のくせに」
「ぐはっっっっ」
「まったく、妹相手であんなに早かったんだから、笑っちゃうよね」
「う、うるせえよ! そういう莉菜こそ、実の兄相手に気持ちよさそうにしてたじゃねえか!」
「………………」
「………………」
「……この話は、やめましょ」
「……賛成だ。お互いの精神衛生上、それがいい」
童貞兄に、ビッチ妹の組み合わせ。まさかの事態にお互い混乱していたが、なんとなく落ち着いてきたような気もする。
「だいいち、なんでホストクラブなんかに、借金してまで通うんだよ……」
少し冷静さを取り戻した俺は、至極まっとうにそう質問してみたのだが。
「なんか、じゃないの! あそこには、夢が詰まってるの!」
「…………」
莉菜に熱く返された。
「男がお金で快楽を買うのと同じように、女は夢を買うの。ホストクラブには、本の中にしかないような夢があるんだよ! 現実ではあり得ない夢が叶うの!」
……あー、いわゆる読書好きと言っても、どうやら純文学だけじゃなくて、たっぷり夢が詰まった本も好きみたいだな、こいつは。シャレたセンスの薄い本、だから無職のくせに現実逃避しちゃったわけか。
そう悟ったはいいとしても、現実は残酷である。さすがにホストクラブに入れ込んだあげく、借金地獄で一家離散などという悲劇は避けたい。
「……押し寄せる現実に引き戻すような発言で申し訳ないが、借金はいくら残ってるんだ?」
家族平和の維持に必要な金額を俺が尋ねると、莉菜はVサインを俺の前にソローリと出してきた。
「……身内だから遠慮なく言わせてもらうが、アホンダラ。無職のくせに、ちったあ自分の身をわきまえろ」
「…………ううぅ…………」
さすがにそれを言われると、返す言葉もないらしい。小さく小さく頭を下げたまま消え入りそうな莉菜を見ていると、仕方ないな、という気になる。これが、兄の思いやりってやつか。
「……はあぁぁ……」
ため息をはいた後、俺は自分の部屋から通帳を持ち出してきて、莉菜の前に投げた。
「……えっ?」
「せっかく家族が揃ったのに、こんなことでまたバラバラになったら目も当てられん。これで借金を清算してこい」
目の前に通帳を出されてわけもわからずうろたえている莉菜に、優しく説明をする俺。
まあ、社会人になってから遊ぶ暇もなく、金などたまる一方だった。特に使い道がないならば、やっと対面できた妹のために使うのも悪くない。
パラパラと通帳をめくる妹には、『信じられない』という感情が浮き出ていたように思う。
「足りないか?」
「……ううん、そんなこと、ないけど……本当にいいの?」
「まあ、二十二年ぶんの利子だと思っておいてくれ」
俺のその言葉に感極まったのか、莉菜はソファーを立ち上がって、俺に抱きついてきた。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! ありがとう…ありがとう!」
俺の胸にしがみつきながら泣いて喜ぶ莉菜の頭を撫でると、一昨日の夜の莉菜との行為を思い出させる甘い香りが俺の鼻をくすぐってくる。
「コレに懲りたら、もう自分の身もわきまえずにホストクラブ通いに狂うんじゃないぞ」
「うん、うん……」
不埒な思いと必死に戦いつつ、莉菜から言質を取って、そのまま落ち着くまで待ったのだが。
「……ね、お兄ちゃんの部屋、どこ?」
泣き止んだ莉菜が、首を傾げながら俺の方を向いて、質問をしてきた。
「あ、ああ、二階の一番奥、突きあたりだが……」
質問に答えるやいなや、莉菜は俺の手を引いて階段を駆け上がる。俺は引っ張られるがままだ。
「お、おい、いきなり人をひっぱって、どうしたんだ」
「わたしはプロなの。タダでお金をもらうわけにいかないから。奉仕はきちんとするよ」
即座に意味を理解し、やめろと叫ぶ俺だが、そんなことは気にもせずに、莉菜は俺の手を掴んだまま二階の奥へ進む。
「ふふふ、でも本音はね、そんなこと関係なく、お兄ちゃんを気持ちよくさせたいの。そのくらいしか、わたしが感謝を表現できないから」
「おい、実の兄妹なんだぞ、俺たちは」
「もうすでに一回しちゃってるんだし、別にいいじゃない。むしろ燃えない? 背徳感にあふれた、実の兄妹の禁断の行為、なんてね」
あ、こいつそっち方面の本も読んでるのか。自称・文学少女なんて妄想力豊かなだけなんだな、もう憧れは持つまい。
世の中の真っ当な文学少女が知ったら全力で非難されそうな、そんな心の声を口には出さないまま、莉菜によって俺は自分の部屋に引きずり込まれた。なすがマザー。お母さん、再会したばかりでこんなことになってごめんなさい。
「……さあ、一緒に、我を忘れましょ?」
前髪の奥にある莉菜の目が鋭く光り、俺を射抜く。射抜かれた俺は、まったく身動きがとれなくなってしまった。
避妊具を口にくわえたまま怪しく微笑む、妖艶な雰囲気の莉菜を、俺は生涯忘れることはないだろう。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
『…………では次のニュースです。本日、実の妹と知りながら姦通を繰り返していた、近親相姦防止法違反で、都内荒川区に住む会社員、小杉貴史容疑者(25)が逮捕されました。小杉容疑者は、『まさか妹とは思わなかった』などと意味不明な供述をしており…………』
「……はっっっ!」
休日だというのに、寝汗がびっしょりなまま、俺は目覚めた。ここ数日、見るのはこんな夢ばかりだ。寝汗防止に飲んでいる
あの後、莉菜に三発抜かれた。もう我を忘れた、お互いに。背徳感がスパイスになったのだろうか、初めての時より数倍快感が増幅していた、間違いない。
俺は、兄としてあるまじき、変態なんだろうか。自己嫌悪も甚だしい。おかげで、家にいても気まずい。
そんなふうに悩んでいる朝のうちから、ひとつの着信があった。仕事以外でかかってくるとは珍しいと思いつつ、着信を受ける。
『おはよう、貴史。今平気か?』
「……おう、宏昭か」
『今日、仙台から東京に戻ってきたんだよ。良かったらどこかで会わないか?』
「……ああ、予定は特にないし、かまわない」
『おっし。じゃ、新宿あたりで待ち合わせしようか』
「……わかった。じゃ、西口あたりで」
宏昭が仙台から戻ってきた報告をよこしてきた。律儀にも、口約束を守ってきたようだ。この前はあまり話もできなかったこともあり、おちあう約束をとりつけて。
どうせ家にはいづらい。俺は着替えてから、ステルス戦闘機並の身のこなしで自宅を出て駅へ向かった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
宏昭と待ち合わせ、一緒に喫煙のできる喫茶店へ入る。行きつけの店らしく、宏昭は迷う素振りも見せずに一番奥の席に向かって、座るなり煙草に火をつけた。いちいち仕草がキザったらしい。
「いやー、久しぶりの新宿に、久しぶりに会った我が友。今日はいい日だな」
宏昭がやたら上機嫌でちょっと引く。まあ確かに久しぶりにこうやって会うのだが、色の抜けた髪にチャラいグレーのスーツ。チャラチャラしている金のネックレス。高校時代のヲタ仲間はもうどこにもいない。
「……宏昭は変わったな」
「ん? ああ、仕事上しかたなくな」
紫煙をくゆらせる宏昭の態度が、煙草のにおい以上に鼻につく。だが、何の仕事か疑問に思う部分もあるので、不快感を抑えて俺は訊いてみた。
「なんの仕事してるんだ?」
「ああ、『フラフラミンゴ』って店でキャストとして働いてる。俗に言うホストってヤツだな」
「…………」
先輩、当たりです。いや俺もそうかもと思っていたけど。信じたくはなかったけど。
「いろいろ大変だったんだけどな、ちょっとキャスト同士でモメて、仙台に新しくオープンした系列店に一年ほど行ってたんだ。モメたキャストが飛んだから、無事新宿に戻ってこれたってわけ」
「……大変そうだな」
「まあな。プライドは捨てなきゃならんし、金のためと割り切らないとやってられない部分もあるけどな」
宏昭はため息で煙草の煙を吐き出し、それが俺の顔を直撃する。俺のしかめっ面は、煙に邪魔されて宏昭には見えていないだろう。
「……なんで、そんなに金がほしいんだ?」
俺が問いかけると、待ってましたとばかりに宏昭は身を乗り出してきた。
「決まってるだろ! 『ラブアイドル』のソシャゲのためだよ!」
「……はあ?」
「毎週毎週限定ガシャがあるんだぞ!? 出るまで回さないとならないなら、稼ぐしかないだろう!?」
「…………おい」
ホストで稼いだ金をソシャゲで散財か。ある意味こいつは変わっていなかった。残念ヲタクのままだ。目の色が死んだ魚からシャチのそれになってるしな。
「……そんなに儲かるんだな、ホストって」
「ああ、仙台に移ったときも不安だったが、ちょっと田舎くさい前髪の長い女が、俺を気に入ってくれたみたいでな」
「…………ん?」
「それからあれよあれよで成績も上がって、おかげで仙台でもナンバーツーになれたぜ」
「…………んん?」
仙台……前髪の長い……田舎くさい……うっ、頭が……まさか……
「……なあ、その女の名前……なんだ?」
「ん? 確か、『リナ』とか言ってたかな。……なんでそんなこと訊くんだ?」
「……………………」
……おお、巡り合わせの奇跡再び。まさか、まさかの……莉菜の人生狂わせたホストが……
「……お、ま、え、かああああぁぁぁぁ!!」
俺は叫びながら立ち上がって、目の前の宏昭の肩を思い切り蹴飛ばした。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
あの後、宏昭と店内で乱闘になり、二人して喫茶店から出入り禁止を食らった。ヤツが『顔はやめろ、ボディーにしてくれボディーに』とかいうから遠慮がちに殴ったが、どうせなら顔をメタメタにしてやればよかった。
ボロボロな姿のまま、俺は帰宅した。が、着いたら、自宅からは両親がいなくなっており、代わりに莉菜がやたらとリビングで浮かれている。
浮かれっぷりのあまりのキモさに、理由を莉菜に問い合わせてみることにした。
「おまえ、なに浮かれてんの」
「あ、お兄ちゃん! きいてきいて、仙台でお世話になったホストの人から連絡がきて、東京勤務になったんだって!」
「…………おい」
間違いない、宏昭のことだ。俺の顔面から血の気が引いた。
「だからね、またホストクラブ代を稼ぐために、デリのバイト再開しようと思うの」
「バカやろう! 許さん!」
俺が力いっぱい怒鳴ると、莉菜はビクッとしてから、おそるおそる俺の顔をのぞき込んでくる。
「……だって、割のいい仕事じゃないと、とてもとても……」
「まだ懲りてないのかおまえは!」
「……だって、ホストクラブは生き甲斐だし……」
「まともな金のかからない生き甲斐見つける努力しろ!」
「……だって、わたしはこんな見た目だし……」
「もう『だって』は言わなくていい! だいいちな……」
「……なに?」
「大事な妹が、デリヘルでわけのわからない男とヘンな行為するのを、黙って見ていられると思うのか!」
「………………」
勢い余って余計な本音まで出てしまった。莉菜の顔も赤くなり、前髪の奥にある瞳が潤んでいる……気がする。いや瞳が見れないんだけどね。
ちょっとした気恥ずかしさもあり、莉菜から目をそらしてうつむいたまま黙っていると、莉菜は優しく俺にお願いをしてきた。
「じゃあさ……わたしがデリで働いたら、他の人に指名されるヒマもないくらい、お兄ちゃんがわたしを……指名して?」
「! ばっ、ば」
「ね? それなら……わたしはお兄ちゃん、専用だよ? お兄ちゃんなら、大人のナマもしてあげる……」
大人の生ってなんだ、ああ生ビールのことか、そうだよな。お酒は二十歳になってから、うん、子供には許されない。
そんなしょうもない思考にドギマギしながらも、かわいくおねだりしてくる莉菜に、俺は九十点を与えたくなる衝動に駆られた。いかん、兄なのに、これ以上倫理に背いたことを重ねてはいけないのに。
――――なのに。
「……ね?」
そんな風に言われながら、獲物を狙う目で睨まれたら、俺はもうだめだ。
たとえ、俺から搾取した金が、宏昭のガシャ代に消えるとわかっていても。
神様、もう信じないなんて言ってごめんなさい。願わくば、俺から背徳感に溢れた煩悩を――――煩悩を、消し去ってください。もう俺は、自力では抜け出せません。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「……ねえ、あなた。ところで……」
「ん? どうかしたか、洋子」
「莉菜の秘密、貴史に言わなくていいの?」
「ああ、いいだろ。そのほうが間違いが起こらなくて楽だし」
「……それもそうね」
ーーー 完 ーーー