牧野愛博(まきの・よしひろ) 朝日新聞編集委員(朝鮮半島・日米関係担当)
1965年生まれ。早稲田大学法学部卒。大阪商船三井船舶(現・商船三井)勤務を経て1991年、朝日新聞入社。瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金(NED)客員研究員、ソウル支局長などを経て、2019年4月より現職。著書に「絶望の韓国」(文春新書)、「金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日」(講談社+α新書)、「ルポ金正恩とトランプ」(朝日新聞出版)など。
安倍首相は米国とイランの仲裁役が務まると本気で考えているのだろうか?
もちろん、トランプ氏を説得できなくても、日本として利益になる行動であれば、文句も出ないだろう。
しかし、米国とイラン双方に良い顔をしようとして、結論を出した海自の中東派遣は果たして日本の利益になる行動と言えるだろうか。
すでに一部のメディアも指摘している通り、調査研究のための派遣だ。日本籍船を守るための防護活動はできない。防衛省は「不測の事態が起きた場合は、海上警備行動を発令する」としているが、非常時に迅速な対応ができるかどうかはわからない。
また、海上自衛隊が保有する護衛艦のうち、遠洋航海に適した艦艇は30隻にも満たないとされる。海自は近年、北朝鮮の弾道ミサイル発射への対応や尖閣諸島の領有権問題、中国軍の南シナ海での活動対処などで、猛烈に忙しい状態が続いている。
ソマリア沖で行ってきた海賊対処活動も当初は海自艦2隻態勢だったが、「艦艇が足りない!」という自衛隊の悲鳴を受け、2016年11月の閣議決定で1隻態勢に減らした経緯がある。
今回、これが再び2隻態勢になるわけで、北朝鮮情勢が再び緊張に向かうなか、自衛隊OBのなかには「本当にこの対応で良いのか」という声も上がっている。事実、2021年3月にようやく8隻体制となる海自のイージス艦にしても、2019年11月から北朝鮮の弾道ミサイル発射を警戒するため、日本海に1隻が24時間体制で展開している。非常時のバックアップ用に1隻、交代用に1隻の計3隻が北朝鮮ミサイル問題に常時投入される格好になっている。
首相官邸が安倍政権の業績づくりのために、海上自衛隊に避けられた負担を強い、米国から不信を買うような事態を招くことは厳に慎むべきだ。
安全保障と外交を政権浮揚の道具にして良いわけがない。
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