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米国とイランから「余計なお世話」と言われた日本

安倍首相は米国とイランの仲裁役が務まると本気で考えているのだろうか?

牧野愛博 朝日新聞編集委員(朝鮮半島・日米関係担当)

首相官邸の思いつき外交

 別の日米関係筋によれば、今年6月に行われた安倍首相のイラン訪問を巡っても、米政府内からその意図をいぶかる声が出ていた。

 関係筋の1人は「安倍首相は、米国とイランとの間で仲裁役が務まると本気で考えているのだろうか」と指摘。別の1人は「外務省は少なくとも、日本外交の実力を理解している。ロシアや中国、北朝鮮との外交と同様、これも首相官邸の思いつき外交の一つだろう」と語った。

 安倍首相とトランプ大統領の親密な関係は世界中がよく知るところだ。

 2018年9月の国連総会ではこんなことがあった。トランプ氏はすぐに「国連総会が始まる前日に、一緒にゴルフをしよう」と持ちかけた。生憎、安倍首相には北朝鮮拉致問題を巡る集会への出席がセットされていた。「この集会は欠席できない。どうしても到着はニューヨーク時間の夕刻になる」と伝えた。すると、トランプ氏は「わかった。じゃあ、夕食だけでも一緒に摂ろう」と答えたという。

 しかし、そもそも国連総会期間中、日本政府は日米首脳会談の開催を目指していた。しかも、国連総会だから、各国の首脳が参加する。超大国の米国大統領と会談したい首脳はワンサといる。日本側が「夕食を一緒にすると、日米首脳会談が流れてしまうのではないか」とひやひやしたが、トランプ氏は「夕食会もやるし、日米会談もやろう」と答えたという。

 同じような経緯から、今年は4月から6月にかけ、異例とも言える3カ月連続の日米首脳会談が実現した。日本政府が誇る通り、安倍首相とトランプ大統領のそれが関係は特別のものだと評価して良いだろう。外務省幹部の1人は「一緒にいる時間が長ければ長いほど、色々と働きかける機会も増える」と語るが、これもその通りだと思う。

拡大ゴルフ場で安倍晋三首相と話すトランプ米大統領=2019年5月26日、千葉県茂原市の茂原カントリー倶楽部

ゴルフを堂々とやるのに「都合の良いお友達」

 ただ、日本政府が期待する「特別な関係だから、トランプ大統領が安倍首相の願いを聞いてくれる」という構図になるとは限らない。

 たとえば、こんなこともあった。

 前述したようにトランプ氏は、安倍氏を「ゴルフ仲間」として大事に扱っている。2017年11月に訪日したときもそうだった。2人は埼玉県川越市の霞ヶ関カンツリー倶楽部でゴルフを楽しんだ。このとき、安倍首相は誤ってバンカーに転がり落ちた。ところが、トランプ氏は当初、安倍首相の転倒に気づかなかった。

 日米関係筋の1人はこう説明する。

 「安倍氏とトランプ氏がゴルフを楽しむとき、かならずプロゴルファーが同行する。トランプ氏はいつもプロとばかり話をしているから、安倍氏の動きに気がつかなかったんだよ」

 どうも、安倍首相と話をしたいという事でもないらしい。公職者である自分がゴルフを堂々とやるうえでの「都合の良いお友達」として見ているのかもしれない。

 実際、トランプ氏は日米関係でも、自分の興味のあることにしか目が向かない。11月、破棄寸前までいった日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)存続問題には全く関心を向けなかった。逆に、在日米軍駐留経費の日本負担問題では、何度も安倍首相に対し、大幅な負担増を求めたい考えを伝えている。

 2019年5月27日の日米首脳会談では、こんなやり取りもあった。日米関係筋によれば、トランプ氏は、日本の経費負担について「3割しか負担していない」と不満を表明。「我々は(中東の)ホルムズ海峡を通って石油を輸入していないが、海峡を守っている。日本はその間、トヨタを世界中に売ってもうけている」と迫った。安倍氏が「3割はドイツだ。日本は74%も負担している」と訴えると、「心配するな。ドイツと韓国からも搾り取るから」と述べ、最後まで話がかみ合わなかったという。

 結局、安倍首相がトランプ大統領の「お友達」として威力を発揮するのは、トランプ氏がやりたいことと方向性が一致したときだけに限られるということだ。

 トランプ政権が行ったイラン核合意からの離脱は、トランプ氏が忌み嫌うオバマ政権が行った「誤った合意」の否定だ。来年秋の米大統領選を前に、トランプ氏がイランに対して圧力を強めることはあっても、核合意に立ち返るような協議を行うわけがない。

 これでは、「首相官邸の思いつき外交」と言われても仕方あるまい。

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筆者

牧野愛博

牧野愛博(まきの・よしひろ) 朝日新聞編集委員(朝鮮半島・日米関係担当)

1965年生まれ。早稲田大学法学部卒。大阪商船三井船舶(現・商船三井)勤務を経て1991年、朝日新聞入社。瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金(NED)客員研究員、ソウル支局長などを経て、2019年4月より現職。著書に「絶望の韓国」(文春新書)、「金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日」(講談社+α新書)、「ルポ金正恩とトランプ」(朝日新聞出版)など。

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