沖縄県東村高江周辺の米軍ヘリパッド建設工事が一段落した2017年1月、稲田朋美防衛相(当時)は集落を取り巻く形で配置された6カ所の地図を見て漏らしたという。「なんでこんなに必要だったんでしょうね」。一方で、和泉洋人首相補佐官は「日本政府も汗を流している証拠」として、建設強行を指揮した。政権中枢の2氏の発言から、理がないまま突っ走った建設事業の本質が浮かぶ。(編集委員・阿部岳)
区長あぜん
17年1月18日、高江区の仲嶺久美子区長は防衛省の大臣室で稲田氏と向き合っていた。前年末に「完成」したヘリパッドを使う米軍機が、せめて集落上空を飛ばないよう要請した。
説明のため新設6カ所の配置図を示した時、稲田氏が口にしたのが「なんでこんなに必要だったんでしょうね」だったという。
建設の責任者が、必要性に根本から疑問を投げ掛けている。反対を訴えてきた仲嶺区長は「はい、そうなんですよ」と返すのが精いっぱいだった。「怒るというより、あっけにとられた」
必要性を検証しないまま、米軍に求められるまま財政的、政治的、人的な資源をつぎ込んできた日本政府の姿勢を裏打ちするような発言。真意について、稲田氏の事務所は本紙の質問に回答せず、防衛省は「3年前のことで、そのような発言があったか確認できない」としている。
苦しい釈明
菅義偉官房長官の側近とされる和泉補佐官は、官邸で建設事業を取り仕切った。16年9月14日、電源開発(Jパワー)から協力を引き出そうと面談した際のJパワー側メモには、「何とか年内、オバマ政権のうちにケリをつけたい」「国が米国との関係の中で急いでいる事業」という発言が残る。米国に年内完成を約束したものの市民の抗議行動で工事は遅れており、焦りを募らせていた。
政府は面談の前日13日には高江に陸上自衛隊ヘリを差し向け、抗議行動で止められていた資機材を建設現場に運び込んだ。実力組織を厳格に統制するため可能な行動を列挙し、それ以外を禁じる自衛隊法を踏み破った。代わりの根拠として持ち出したのは米軍基地提供が防衛省の仕事だと定めただけの防衛省設置法で、批判を浴びた。
陸自ヘリ投入当日の記者会見で、弁護士でもある稲田氏は「(搬入は)自衛隊法に列挙されているものには当たらない」と認め、苦しい釈明に追われた。
司法も指摘
防衛省設置法は16年7月22日の工事再開当日、沖縄防衛局職員が市民のテントを撤去した際にも根拠とされた。同じ日、警察官は市民が長くゲートをふさぐ形で止めていた車を道交法を根拠に撤去した。
19年12月、警視庁機動隊の高江派遣の違法性を問う住民訴訟の判決で、東京地裁は住民側敗訴を言い渡す一方、テントと車の撤去については「適法性に看過しがたい疑問が残る」と指摘した。
証人尋問では県警の警察官が撤去の根拠について答えない場面もあった。住民側の高木一彦弁護士は「安倍政権は当時、違法を承知していたはずだ。後で多少傷がついてもとにかく強行突破しろ、というところまで追い詰められていた。和泉補佐官の発言には、政権中枢の思考が表れている」と話す。
住民側は控訴し、愛知県警、福岡県警の派遣についても同様の訴訟が起きている。強行の実相について、審理が続く。