一生に一度の大きな買い物が、「持ち家リスク」とまで言われる時代になった。だが、はたしてそうだろうか。長年住んだ家を手放すことは、さまざまな面でより深刻な老後不安を生み出す原因になりうる。
結婚して子どもを育て、手狭になった賃貸マンションを離れ、夢の庭付き一戸建てを買う――。住宅ローン完済を迎える、または迎えたリタイア世代にとって、マイホームとはまさに「人生すごろく」の上がりの象徴だ。
だが人生100年時代のいま、人生すごろくには長い続きがある。「年金だけでは毎月数万円の赤字が出る」「老後資金は一人あたり3000万円必要」と煽る新聞やテレビに不安を感じ、まとまったおカネの準備を急ぐ人も多いだろう。
「1000万円程度の退職金や満期の保険金があっても、現役当時と同じ水準で食事や買い物をしていたり、万が一の大病を患ったりしたら、ほんの数年で底をつくものと考えておいたほうがよいでしょう」(ファイナンシャルプランナーの畠中雅子氏)
子どもも独立し、一戸建ては、夫婦2人の手に余る広さだ。それを売って駅近で便利なマンションに住み替え、コンパクトに暮らそう。
そうすれば老後資金も準備できるし、いっそ夫婦で老人ホームに入ったり、売却益を元手に子どもと二世帯住宅を建ててしまえば、今よりも楽しく暮らせるかもしれない。
選択肢は拡がるが、実際はそううまくいかないことのほうが多い。
高齢になってから住み慣れた我が家を手放すことは、経済面においても精神面においても、思わぬ負担を強いられることになる。そして、売ってから後悔しても、当然マイホームは返ってこない。
順を追って見ていこう。