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「ざざ虫」再生医療の力に 信大繊維学部・野村准教授ら

水槽の中で糸を吐くヒゲナガカワトビケラ。糸は「トビケラシルク」として研究されている水槽の中で糸を吐くヒゲナガカワトビケラ。糸は「トビケラシルク」として研究されている トビケラシルクから作ったフィルム。再生医療の足場の材料として期待がかかるトビケラシルクから作ったフィルム。再生医療の足場の材料として期待がかかる
 信州大繊維学部(上田市)の野村隆臣准教授(44)=分子生物学=と大学院修士課程2年の桜井千晶さん(24)らの研究グループが、ヒゲナガカワトビケラの幼虫が吐く糸の成分が失われた組織や臓器を新たに作り出す再生医療の材料として有効な可能性を秘めていることを2日までに突き止めた。幼虫は河川に生息する水生昆虫で、つくだ煮が伊那谷の珍味と知られる「ざざ虫」の一種。研究グループは、軟骨などの再生医療への活用を目指しており、「信州でなじみのあるざざ虫が役立つ可能性があることに期待してほしい」(桜井さん)としている。

 再生医療には、人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)などの細胞と培養液、細胞の接着や増殖の足場(土台)となる材料が必要とされる。足場は一般的にコラーゲンが使われており、シルクのタンパク質を使う研究も進んでいる。

 トビケラは体長2〜5センチほど。水中で吐いた糸で「巣網」を作り、引っ掛かったプランクトンを食べたり、石の周りに巣を作ったりする。信大繊維学部は、水中における糸の接着性の強さや、カルシウムイオンが多く含まれている特徴に注目。「ざざむしシルク」とも呼ばれる「トビケラシルク」の研究を重ねてきた。

 トビケラシルクのタンパク質から作ったフィルムを足場にし、マウスの骨に分化する前の細胞を載せたところ、接着率と増殖率は蚕のシルクよりも2〜3割高かった。細胞分化を促進する力も大幅に高い結果が出ることがあった。

 カルシウムイオンが多く含まれているため、骨の細胞と相性が良く、再生に有効なのではないかと期待。水になじみやすい性質は細胞との相性が良いとされ、iPS細胞などの足場の材料に使用できる可能性もあるという。

 グループは今後、トビケラシルクに含まれるカルシウムイオンの作用などの解析を進め、足場材としての有効性の実証を目指す。その上で、軟骨などの再生医療に応用したいと考えている。トビケラシルクの成分を体内に注入し、体内にある自分の細胞を増殖させ、継続的に軟骨を再生することができれば理想という。

 トビケラが吐く糸は蚕に比べるとごくわずかで、採取が難しいことが課題。グループは、人工的に同じ効果が得られるようなタンパク質を生成する研究も進めている。野村准教授は「高齢化で軟骨の悩みを持つ人が増えている。まずは軟骨の再生にトビケラシルクが活用できればいい」と話している。

(赤羽佳奈子)

(1月3日)

長野県のニュース(1月3日)