年末調整、もう書類不要 20年からマイナンバー活用

個人は自分のデータを読み込み、申告書作成ソフトを使うと、所定の箇所にデータが移る。紙の証明書は添付不要。会社はチェック作業の負担を軽減できる。

年末調整に続き、医療費控除についても21年分から電子化が進む。医療費控除は、自己負担した医療費が年10万円を超えたときなどに一定額を所得から控除できる。年末調整の対象外なので会社員を含めて税務署への確定申告が必要だ。

確定申告は今もe―Tax(国税電子申告・納付システム)の利用が可能。国税庁サイト内の確定申告書作成コーナーで入力を済ませ送信する仕組みだ。税務署に出向く必要がなく、還付金の受け取りも早まる。

それでもデータの電子化は遅れていた。医療費控除の場合、現在は自分でかかった医療費を分類し、明細欄に記入しなければならなず、領収書を手元に保存しておく必要もあった。

電子化が進むと作業が簡単になる(図A)。加入する健康保険制度から、払った医療費のデータがマイナポータルに自動的に集まるようになるからだ。個人はデータを読み込み、e―Taxを使って送信すればいい。国税庁は証券会社などの特定口座の明細書データも20年分から読み込めるようにする方針だ。

電子証明書が必要

年末調整や医療費控除で必要データを取り込む際には「マイナンバーカード」が必要だ。12桁のマイナンバー(個人番号)のほか氏名や住所などの個人情報をICチップに埋め込んだカードだ(図B)。

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個人が所得税を申告する際の手続きが来年以降、相次いで電子化される。まず会社員が2020年から、年末調整の手続きをインターネットを通じて済ませられるようになる。医療費控除の確定申告も21年分からデータ入力が自動化する。従来の紙ベースに比べて手続きは簡便になるが、理解しておきたい点も多い。

会社ではこの時期、年末調整の真っ最中だろう。毎月の給料から源泉徴収した所得税の額が本来より多かったときに差額を社員に還付、少なかった場合は追加徴収するのが年末調整。会社が用紙(控除申告書)を配り、社員が記入して提出する。生命保険料控除や住宅ローン控除などの適用を受けるには、金融機関から郵送で証明書をもらい、添付しなければならない。

だが、そうした煩わしい作業は多くの会社で今年限りとなるかもしれない。来年から電子化が始まり、紙の書類を使わずにオンラインで済ます手続きが可能になる。「手書きならではの記入ミスや、紛失した証明書の再発行といった手間を減らし、より確実に税還付を受けられる」(税理士の藤曲武美氏)利点がある。

電子化のイメージを図Aに示している。まず年末調整では用紙の代わりに、国税庁が提供する専用ソフト(年末調整控除申告書作成用ソフト)を用いる。パソコンやスマートフォンにソフトをダウンロード。必要項目を埋めて、勤め先の経理部などに送信する。

ここで大きな役割を担うのが政府が運営する個人向けサイト「マイナポータル」。生命保険料や地震保険料、住宅ローンの年末残高など、各種控除に必要なデータは金融機関に依頼してこのサイトに集められる。

個人は自分のデータを読み込み、申告書作成ソフトを使うと、所定の箇所にデータが移る。紙の証明書は添付不要。会社はチェック作業の負担を軽減できる。

年末調整に続き、医療費控除についても21年分から電子化が進む。医療費控除は、自己負担した医療費が年10万円を超えたときなどに一定額を所得から控除できる。年末調整の対象外なので会社員を含めて税務署への確定申告が必要だ。

確定申告は今もe―Tax(国税電子申告・納付システム)の利用が可能。国税庁サイト内の確定申告書作成コーナーで入力を済ませ送信する仕組みだ。税務署に出向く必要がなく、還付金の受け取りも早まる。

それでもデータの電子化は遅れていた。医療費控除の場合、現在は自分でかかった医療費を分類し、明細欄に記入しなければならなず、領収書を手元に保存しておく必要もあった。

電子化が進むと作業が簡単になる(図A)。加入する健康保険制度から、払った医療費のデータがマイナポータルに自動的に集まるようになるからだ。個人はデータを読み込み、e―Taxを使って送信すればいい。国税庁は証券会社などの特定口座の明細書データも20年分から読み込めるようにする方針だ。

年末調整や医療費控除で必要データを取り込む際には「マイナンバーカード」が必要だ。12桁のマイナンバー(個人番号)のほか氏名や住所などの個人情報をICチップに埋め込んだカードだ(図B)。

カード取得時には自治体窓口で2種類のパスワードの設定を求められる。本人であることなどを証明する電子証明書が発行され、ICチップに内蔵される。その情報を基にマイナポータルにログインする流れだ。

e―Taxの利用経験者はカードを取得済みのはずだ。まだの人は郵送かネットで交付を申請する。家に以前、郵便で届いたはずの交付申請書(マイナンバー通知カードと同封)が要るので、紛失した人は市区町村窓口などで手続きする。

年末調整などの電子化は、税金と社会保障にかかわる行政手続き全般を、中長期的に効率化する施策の一環でもある。国民がマイナンバーカードを保有することが運営上の大前提だ。

マイナンバーカードの取得実績は1823万枚と国民のわずか約14%。カードを持つメリットは現状少ないが、政府は普及促進に躍起(表C)。年末調整の電子化は「会社員に普及させるための目玉」(酒井克彦・中央大学教授)だ。

来年以降も紙ベースの手続きは残るのでカード取得は義務ではない。それでも国の方針を受けて「電子化対応を始める会社は増える見通し」(東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹)。早めに備えるのがよさそうだ。

(後藤直久)

[日本経済新聞朝刊2019年11月30日付]

本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。

個人が所得税を申告する際の手続きが来年以降、相次いで電子化される。まず会社員が2020年から、年末調整の手続きをインターネットを通じて済ませられるようになる。医療費控除の確定申告も21年分からデータ入力が自動化する。従来の紙ベースに比べて手続きは簡便になるが、理解しておきたい点も多い。

会社ではこの時期、年末調整の真っ最中だろう。毎月の給料から源泉徴収した所得税の額が本来より多かったときに差額を社員に還付、少なかった場合は追加徴収するのが年末調整。会社が用紙(控除申告書)を配り、社員が記入して提出する。生命保険料控除や住宅ローン控除などの適用を受けるには、金融機関から郵送で証明書をもらい、添付しなければならない。

だが、そうした煩わしい作業は多くの会社で今年限りとなるかもしれない。来年から電子化が始まり、紙の書類を使わずにオンラインで済ます手続きが可能になる。「手書きならではの記入ミスや、紛失した証明書の再発行といった手間を減らし、より確実に税還付を受けられる」(税理士の藤曲武美氏)利点がある。

電子化のイメージを図Aに示している。まず年末調整では用紙の代わりに、国税庁が提供する専用ソフト(年末調整控除申告書作成用ソフト)を用いる。パソコンやスマートフォンにソフトをダウンロード。必要項目を埋めて、勤め先の経理部などに送信する。

ここで大きな役割を担うのが政府が運営する個人向けサイト「マイナポータル」。生命保険料や地震保険料、住宅ローンの年末残高など、各種控除に必要なデータは金融機関に依頼してこのサイトに集められる。

個人は自分のデータを読み込み、申告書作成ソフトを使うと、所定の箇所にデータが移る。紙の証明書は添付不要。会社はチェック作業の負担を軽減できる。

年末調整に続き、医療費控除についても21年分から電子化が進む。医療費控除は、自己負担した医療費が年10万円を超えたときなどに一定額を所得から控除できる。年末調整の対象外なので会社員を含めて税務署への確定申告が必要だ。

確定申告は今もe―Tax(国税電子申告・納付システム)の利用が可能。国税庁サイト内の確定申告書作成コーナーで入力を済ませ送信する仕組みだ。税務署に出向く必要がなく、還付金の受け取りも早まる。

それでもデータの電子化は遅れていた。医療費控除の場合、現在は自分でかかった医療費を分類し、明細欄に記入しなければならなず、領収書を手元に保存しておく必要もあった。

電子化が進むと作業が簡単になる(図A)。加入する健康保険制度から、払った医療費のデータがマイナポータルに自動的に集まるようになるからだ。個人はデータを読み込み、e―Taxを使って送信すればいい。国税庁は証券会社などの特定口座の明細書データも20年分から読み込めるようにする方針だ。

年末調整や医療費控除で必要データを取り込む際には「マイナンバーカード」が必要だ。12桁のマイナンバー(個人番号)のほか氏名や住所などの個人情報をICチップに埋め込んだカードだ(図B)。

カード取得時には自治体窓口で2種類のパスワードの設定を求められる。本人であることなどを証明する電子証明書が発行され、ICチップに内蔵される。その情報を基にマイナポータルにログインする流れだ。

e―Taxの利用経験者はカードを取得済みのはずだ。まだの人は郵送かネットで交付を申請する。家に以前、郵便で届いたはずの交付申請書(マイナンバー通知カードと同封)が要るので、紛失した人は市区町村窓口などで手続きする。

年末調整などの電子化は、税金と社会保障にかかわる行政手続き全般を、中長期的に効率化する施策の一環でもある。国民がマイナンバーカードを保有することが運営上の大前提だ。

マイナンバーカードの取得実績は1823万枚と国民のわずか約14%。カードを持つメリットは現状少ないが、政府は普及促進に躍起(表C)。年末調整の電子化は「会社員に普及させるための目玉」(酒井克彦・中央大学教授)だ。

来年以降も紙ベースの手続きは残るのでカード取得は義務ではない。それでも国の方針を受けて「電子化対応を始める会社は増える見通し」(東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹)。早めに備えるのがよさそうだ。

(後藤直久)

[日本経済新聞朝刊2019年11月30日付]

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