世界はメイドと共に出来ている   作:ヘトヘト

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10巻発売の直前に、ふたばのオーバーロードスレで行われた二次創作コンテスト。
「チョコレート」「ノート」「小瓶」の三つのお題を入れたSSを投稿。
それに対して絵師さんがイラストで参加といった企画でした。

その企画に参加した短編を加筆修正したものです。

あと大変遅ればせながら、『キーノの旅』の二次創作で参加された作者様。
SSに絵を描いて下さった方々、ありがとうございました。
この場を借りてお礼を申し上げます。


『世界はメイドと共に出来ている』

神のごとき至高の御方に仕えるホムンクルス。

彼女たち一般メイド達に囁かれている神話がある。

真偽は置いておこう。

神々は世界を七日間で創造したという。

その最中に41柱の神々の中で3柱を中心とする一部の御方々はお仲間に世界創造を任せ、ナザリック地下大墳墓におけるメイド達をお創りになられた。

 

一日目に完成したメイドはメイド長ペストーニャ・S・ワンコとユリ・アルファ。

試行錯誤の未完成な世界では、混沌と死が満ち溢れていた。

だから、蘇生を司る高位神官と即死耐性を持つ不死者デュラハンが採用されたという。

 

二日目に創り出されたのが、ルプスレギナ・ベータ。

世界には太陽と共に昼と夜が生まれていた。

ゆえに夜目が効く人狼にして、ペストーニャに次ぐ神官が望まれたのだろう。

ここからメンバーが形成される夜空に瞬く星の如き存在―――プレアデスの発想は、さすがは至高の御方達と畏敬の念を覚える。

天と地が定まった三日目には、空を自由とする飛行魔法の使い手たるナーベラル・ガンマ。

太陽が出来ていたのに天地の完成が翌日になったのは、ある至高の御方が“太陽墜とし”を実行した為という。

つまり、今輝いているのは二代目の太陽なのだ。

 

世界の上下の完成に続き、平面たる地では陸と海が隔てられる。

偉大なるナザリック地下大墳墓が完成した四日目(4と死?)には、その機構を全て知るシズ・デルタ。

 

広大な海とそこに住まう者たちが完成した五日目には、原初の海をヒントに生み出されたソリュシャン・イプシロン。

次に緑と生物で補完された六日目の陸地に相応しく、蟲人のエントマ・ヴァシリッサ・ゼータが。

 

しかし、至高の御方々は六日間の創造(オシゴト)にお疲れであった。

メイド創生の中心たる御三柱もまた然り。

容姿を司るホワイトブリム様はシメキリ(謎)に見舞われ。

所作を司るヘロヘロ様は突発のデスマーチ(死の行進? 討伐の事か?)を迎えた。

故に七日目に手がけられるはずだった戦闘メイドの末妹は手が回らなかった為、メイド服でなく巫女服になったという。

 

ク・ドゥ・グラース様お一柱を以ってして、七日目に完成したメイド。

それは至高の御方に仕えるホムンクルス――41体の一般メイド達。

世界はメイドと共に出来ているのだ。

彼女たちはそう信じ、メイドであることを誇りに思っている。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

ナザリック第十階層にある巨大図書室『最古図書館』。

ここには傭兵モンスターの召喚本やマジックアイテム、外装データ本や小説、ギルドメンバーの個人書が収められている。

その巨大な空間で、一般メイドであるシクススは幸福に満ち溢れていた。

41日の周期で迎える休日に偶然、図書館に眠っていたメイド神の秘宝を探し当てたのだ。

ありとあらゆるメイドが網羅されたA4ノートサイズの絵草書。

連載漫画家となったホワイトブリムの作品ともなると、現実世界でもプレミアムがつくお宝である。

しかも一冊ではなく数冊も存在とは!

シクススは歓喜に震える手で、敬意を込めて最初の一冊を丁寧に開いた。

 

中身を見て驚愕する。

ラフ画、デザイン改稿の推移、美しく彩色された完成図。

鮮やかで魅力的なメイドの姿が多く記されている。

喜怒哀楽すべての豊かな表情。

麗しいメイドから、勇ましく武器を構えた姿、可愛らしい給仕服、小物や下着のデザイン、誕生日、性格設定など、豊富なデータが目に飛び込む。

中にはメイド服でなく、私服を着た姿まで。

 

(……あっ、これナーベラルさんだ。こっちはソリュシャンさんかな? ウェーブを解いて、ストレートの髪型って珍しい。

 うわっ! このルプスレギナさんは水着姿っ!? すっごいセクシーなやつだ!!)

 

数多くのメイド達。

驚くべきことに、シクススの見知らぬメイドまで記されている。

もしかすると、ナザリックにおけるシークレットな存在なのかもしれない。

大変なものを発見してしまったと、シクススの心身は興奮に震えた。

世界遺産……いや、NPCにとってワールドアイテムに匹敵する価値がある。

興奮冷めやらぬシクススは、他の本にも手を伸ばした。

それぞれ表紙には、こう記されている。

 

 

・『ときめきメイド現実(リアル)

・『Maide stay / knife』

・『メイドさんと大きな拳』

・『殻の中の小蟲』

・『まほろオートマトン』

・『チョコレート ~maid cafe“Cthulhu”』

 

 

ちなみに『殻の中の小蟲』とはゲーム史において、本格的なメイド作品ゲームの始祖として名を残すエロゲである。

そう、これらの本は至高の御方の一柱ペロロンチーノの私物。

ギャルゲーや、一般ゲームへ移植されたエロゲの設定資料集であった。

 

18禁ゲーム版だと裸絵により倫理コードで運営に咎められる。

自宅では姉ぶくぶく茶釜にお宝発掘・机公開(トレジャーハント)される。

木を隠すなら森の中。

本を隠すなら大図書館の書庫である。

 

ナザリックのギルドメンバーには周知の事実だが、ホワイトブリムは自身の連載漫画にナザリックのNPCメイドを登場させている。

そしてギャルゲーやエロゲにおいて、人気アニメや漫画のキャラクターと似たデザインのヒロインが登場することは良くある話。

要するにシクススが目にしたメイド達は、プレアデスに似た別人のイラストである。

 

なお、冒頭のメイド創世期もまた図書館に収められている物が原因。

ギルドメンバーが悪ノリで書いたユグドラシルを舞台にした二次小説が流出し、伝言ゲームで尾ヒレが付いた結果だったりする。

 

砂糖と思って中身を大事にしているが、実は塩の小瓶だった。

そんなしょっぱい真実に辿り着くことなく、シクススは幸せな時間を過ごす。

もちろん、彼女にとっての至宝を図書館から持ち出すような真似はしない。

これは偉大な方々がこの場所へと定めて置き残されたのだから。

 

かくして彼女は至高の御方々の秘密と名誉(主にペロロンチーノ)を図らずも守り、全ては一般メイド達の間で留まる事になる。

囁かれる神話と共に、敬愛と賛美の視線を注がれる美麗な絵姿。

真相は置いておこう。

巨大図書館の一角で、優しい世界はメイドと共に出来ていた。

 

                              ~ Fin ~

 


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