デジタル化の進展で「ギグワーカー」など雇用によらない働き方が増え、資本家対労働者という従来の構図が大きく変わりつつある。雇用という形態は今後どうなるのか。ロボットなどに労働を代替される「働かない世界」はやってくるのか。労働法に詳しい神戸大学の大内伸哉教授に聞いた。
「企業の人材投資に限界、『自学』が大事」
――雇用によらない働き方をする人が増えています。
「雇用とは時間を企業にささげるような働き方だ。『時間主権』と生活保障のはざまで、長く後者を選択してきた。特に後者を選んできたのが日本の昭和時代だ。雇用労働ではなく、個人事業主のように自営的労働を選ぶ人が増えている。現在は全体の10分の1ほどだが、自営的労働はどこの国でも半分くらいになるのではないか」
「長期雇用にどっぷりの人は価値の転換が必要だ。終身雇用の見直しなどが話題に上るのも、企業が雇用を守るのに限界があるということだろう。企業が『使える』人材を自前主義で時間をかけて作ったとしても、10年後に必要なものは分からない世界だ。そうなると企業も人材投資はしにくくなる」
――背景にあるのは何でしょうか。
「これまで資本主義における労働は、ほぼ株式会社での労働と同義だったが、第4次産業革命が変化をもたらしている。起業がしやすくなって経営者と労働者が融合してきている。会社員は消え、労働法もなくなるかもしれない」
「技術革新によって、雇用労働は減る。定型的な労働はなくなり、知的創造性が求められる労働になってくる。そうなると人間のやる仕事は機械を使う側の仕事、機械ができないような仕事、機械にさせることできるが人間のほうが安くできる仕事の3つになるだろう。そのうち後者の2つは徐々に減っていく」
「知的創造性が重要になるが、これは指揮命令下でやる雇用との相性が悪い。ICT(情報通信技術)を基盤にして、企業に支配されて働く労働から、自己決定のための労働になる。教育が大きな課題だ。職業訓練・教育の多くは企業が担ってきた。自営的な労働が増えれば、それがなくなるわけだから『自学』が大事になる」
「苦役からの解放と、賃金もらえない二面性」
――身につけた技術・スキルが陳腐化するスピードも速いです。
「教育には3つある。陳腐化が懸念されるのは、職業先端教育だ。自分で契約書を書けたり、情報リテラシー持ったりという職業基礎教育や、教養教育が重要になるだろう。今はネットでも学べるようになっている。大きなチャレンジだが、意識改革が必要だ」
――今よりずっと少ない労働時間になったり、「労働なき世界」がやってきたりするでしょうか。
「そうなるのは間違いないだろうが、いつそうなるかは分からない。効率化やデジタル化が進んでいない企業もまだ多い。ただ、そうした企業はいずれ市場から退出させられる」
「古代ギリシャ時代の『奴隷』の代わりとして、ロボットやAIなど機械に労働を任せ、機械の所有者の得た価値を共同体の構成員に再分配する、ベーシックインカムのような形になるかもしれない。労働という『苦役』からは解放される一方、賃金をもらえなくなるという二面性に直面する。そこは政府の出番で、再分配の手法を考えないといけない」
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