巨大な経済規模と影響力を手に「帝国」のごとく振る舞うGAFAへの逆風が強まる。既存秩序を揺るがす破壊的イノベーションに、世界各地の民衆が反発する。2010年代に野放図に拡大を続けた「GAFAの時代」の終わりが始まった。
カナダ・トロントを象徴するオンタリオ湖の水辺に、サイドウオーク・ラボは事務所を構える。開発から取り残された水辺にスマートシティーを建設する計画を推し進める、米グーグルの兄弟会社だ。
完成した都市の姿を市民がイメージできるよう、事務所の1階にはショールームが設けられている。出迎えてくれた説明員はプロジェクトの全体像を記した分厚い冊子をパラパラとめくりながら、「写真やイラストがふんだんに載っていて、読んでいてわくわくするのだけれど、私がぜひ見てもらいたいのはこっち」とフロアの中央へと歩みを進めた。
そこにはマンションなどが林立する未来都市のジオラマが設けられていた。ヨガ教室にカフェ、クリニックが路面に軒を連ね、その間を自動運転車が走る予定だという。インターネットで注文した商品は、自走式の台車がマンションの宅配ボックスまで配達してくれる。家庭や商業施設から出たゴミは、地中管を通って収集車に送られる……。
理想の未来かディストピアか
説明員が目を輝かせて披露したのは、先進技術に支えられた理想の都市だった。
しかし、その説明に全く同調できないトロント市民がいた。
「テック企業が支配するディストピア(暗黒郷)が形づくられようとしている」──。こう訴えるのは、地元の都市計画コンサルタント、トーベン・ワイディッツ氏である。サイドウオークが2017年10月に水辺の再開発計画に名乗りを上げてから、同じ考えを持つトロント市民と一緒に反対運動を展開してきた。
ワイディッツ氏は、サイドウオークとグーグルは同一だと見なしている。
「グーグルは全米50州・地域で反トラスト法違反がないか調査を受けている。そんな会社に都市計画を任せるわけにはいかない」
特に警戒するのがスマートシティーで収集するデータの取り扱いだという。「グーグルは公共サービスに役立てるという名目で、人々の行動を様々なセンサーで把握する。それはグーグルによる市民の監視にほかならない。プルマンのような都市の再来を予感させる」というのがワイディッツ氏らの主張である。
プルマンは、19世紀後半に米国で鉄道の客車メーカーを経営するジョージ・プルマン氏が建設した企業城下町だ。イリノイ州で購入した広い土地に工場と労働者向けの住宅を建てた。
自分の名前を付けたこの地で、プルマン氏は絶対君主のように振る舞った。自分の息がかからない新聞は発行を禁止し、討論会も禁じた。労働者の精神を荒廃させるとして歓楽街もつくらなかった。検査員が各家庭を定期的に訪問して回り、部屋を清潔に保っているかを確認、不潔なら賃貸契約を打ち切ることができた……。
プルマン氏は住民が幸福に暮らせる理想郷を目指したが、その実態は資本家が労働者を監視・統制するディストピアだった。
コメント2件
K.Gotou
情報処理従事者
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EKCMaster
確かに新興企業の新しいビジネスが、既存のビジネスとの軋轢を生み、雇用を奪うことになるのかもしれないが、これまでもそうやって社会や文明が進歩してきたのではないかと思う。何故、新しいビジネスがこれだけ短期間に世界中で拡大したかと言えば、やはり消
費者にとって便利だからではないか。個人情報の取り扱いなどについては、本気で取り組んでもらいたいと思うし様々な課題はあるとは思うが、便利なサービスを知ってしまった消費者は、問題はあるとはわかっていても、もうわざわざ不便なサービスを使い続けるとは思えない。時代の変化にどう対応するかを考えた方がいいと思う。...続きを読むコメント機能はリゾーム登録いただいた日経ビジネス電子版会員の方のみお使いいただけます詳細
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