Wikimedia Commons Author Alain Houle (Harvard University):This file is licensed under the Creative Commons Attribution 4.0 International license.
目次
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私たちのこころは動物から進化してきた
私たちにはモラルがあり、新聞、テレビが社会問題を批判すれば「そうだそうだ」と思います。でも、なぜ、私たちが共感しているのでしょう。なぜ怒りの感情が沸いてくるのでしょう。
「比較認知科学」は動物のこころを研究し、私たちの心がどのように進化したのかを明らかにします。この科目を学習して、私たちの知性や意識、内省は同じように動物にもあることがわかりました。ヒトほど高度ではありませんが、ヒトと同じこころの働きがあるのを知り感動しました。
それでは、動物のこころをどうやって測定したのでしょう。動物は言葉が話せなせず、文字も書けません。IQテストもできません。
その編み出した実験方法が興味深くて素晴らしいものでした。 どのようにして動物のこころを測定し、どんな成果を出すことができたのか。
前編の続きを紹介します。
霊長類の演算能力
霊長類にはどんな演算能力があるのか。
ボイセンらはチンパンジーが足し算の能力があるかどうかを検討しました。
(「比較認知科学」p135)
- 4まで数えることができる。
Numerical Competence in a Chimpanzee (Pan troglodytes)Sarah T. Bqysen and Gary G. BerntsonOhio State University andYerkes Regional Primate Research Center, Emory University
・部屋にある3つの箱のうちの2つに果物を数個入れる。訓練により合計の数をアラビア数字のカードで答えることができるようになった。最大4まで。(リンク先の一番目の図)
・リンク先の二番目の図では、テレビのアラビア数字をみて、それと同じ数の果物がある皿を選んでいる。
著者の藤田教授は野生ベルベットモンキーの引き算能力を検討しています。
- Tsutsumi, S., Ushitani, T., & Fujita, K. (2011). Arithmetic-like Reasoning in Wild Vervet Monkeys: a demonstration of cost-benefit calculation in foraging. International Journal of Zoology, in press.
紙コップに入ったエサをサルに見せる。
そこからエサを取り出す。
紙コップは透明でないから中に入っているかどうかは推論しないとわからない。
2個-1個=1個、中に残っているときだけ食べにくる頻度が高い。
イラストはこちら。
動物たちの社会的知性
「比較認知科学」の著者である藤田教授はフサオマキザルを使って社会的知性の実験をしています。
2頭が協力しなければエサが取れない
実験では二つの箱が連結した装置を使います。2か所にエサがありますが、仕切りがあるので1頭では装置の必要な操作の半分しかできません。もう1頭に協力してもらえばエサを得ることができるというものです。
京都大学・藤田和生教授「フサオマキザルの社会的知性(講演論文)」 の5ページのイラストを見るとイメージが具体的に分かると思います。
- 「Box A」の前にいるサル
エサを得るには「Box B」にいるサルに四角い棒でエサを落としてもらわなければならない。そのためにはまず自分でストッパーを引く必要がある。 - 「Box B」の前にいるサル
エサを得るには四角い棒がじゃまをしている。それを押しのけたいがストッパーが邪魔をして押せない。そのためには「Box A」にいるサルにストッパーを引いてもらわなければならない。
実験の結果、6頭のサルは協力してエサを取得します。
自分がエサを取れなくても「Box B」のサルのために協力する
さて、「Box A」にエサを置かないとどうなるんでしょう。
ここからがこの実験の凄いところです。それでも「Box A」のサルは「Box B」のサルのためにストッパーを引きます。フサオマキザルには、長期的に協力する社会的知性が組み込まれている、と藤田教授は言います。
チンパンジーは、人がものを取れないで困っていると助けてくれる。別のチンパンジーが食べ物をとれないで困っていると助けるそうです(Warnenken et al. 2007)
チンパンジーは、何も利益がなくても、仲間のリクエストの応じて必要な道具を渡すそうです。(Yamamoto et al. 2009)
凄いとおもいませんか?
宗教や道徳教育がなくても、サルやチンパンジーは 助け合います。逆に、私たちが生まれながら協力する力を持っているから、宗教や道徳教育が生まれたと言ってもいいでしょう。他のサルが喜ぶ姿を見るとドーパミンでも分泌するのでしょうか。見事な進化の仕組みです。
動物たちの感情
動物が落胆する例として、手話を学習したチンパンジーの話が紹介されています。
(引用文献)
チンパンジーの悲しみ・喜び・落胆
- ウォショウは簡単な手話が使える。
- ウォショウの第1子は虚弱児だったため、死んでいる。3年後に第2子のセコイアを生んだが、肺炎で死んでしまった。
- トレーナーは気落ちしたウォショウのために養子をみつけ、手話で「赤ん坊」と伝えた。
- ウォショウは興奮して「うれしい」「赤ん坊」と手話で伝える。
- しかし、トレーナーが養子を連れていくと、ウォショウの興奮は一気に冷め、「赤ん坊」と綴ったそうです。
- しかし、その晩には養子を抱いて眠り、養子縁組は成功したそうです。
チンパンジーってヒトとほとんど変わらないのですね!
他にチンパンジーが自分の感情を抑制する例も紹介されています。
フサオマキザルは感情を読み取って利用出来る
フサオマキザルが別の個体の感情を読み取って利用出来るかどうかのテスト。
どんな実験装置かは、リンク先のイラストをみるとよくわかります。
- 箱の片方が開いていて、個体1からは箱の中身が見えるが、個体2からは見えない。
- 個体2に見えないように食べ物のような「喜ぶもの」とヘビのオモチャのような「怖がるもの」を見せる。
- その時中身を見せないように個体2に箱を近づけるとどうなるか。
- 「喜ぶもの」の時に手を伸ばす回数が多くなる。
個体2が個体1の表情などを観察した結果だと思われます。
フサオマキザルは援助が出来るのにしない人、忙しくて援助しない人を見分ける
ボールを交換するとき、3個受け取ったのに返さなかったり、1個しか返さない卑劣なひとを見抜きます。
二人が餌を差し出せば、卑劣な人からは餌を受け取りません。
フサオマキザルは判官びいきをする
この実験はテキストに載っているが文章だけでは実験の様子が分からなくて、引用文献を検索しました。
実験の様子はこちら「Takimoto, A., Kuroshima, H., & Fujita, K. (2010).」
- 2頭のフサオマキザルがいて、その間に二つの引き出しがあります。
- 右のサルは引き出しを引くとエサを得ることができ、左のサルにもエサが落ちます。
- 二つの引き出しの違いは、引き出しを引くと自分が得られるエサは同じですが、
相手に落ちるエサが違います。ひとつは自分と同じ良いエサが落ち、もうひとつは価値の低いエサが落ちます。 - 右のサルはどちらかの引き出しを引くでしょうか。
相手が自分より優位なサルのときはでたらめに引き、相手が自分より順位が低い個体のときは良い食べ物が相手にわたる引き出しを引きました。
フサオマキザルは判官びいきをします。自分の子分を作りたいのでしょうか、思いやりがあるのでしょうか。
フサオマキザルは協力して貰ったときはお返しをする
「フサオマキザルは判官びいきをする」実験とほぼ同じ仕組みですが、相手に協力してもらわないとエサを得られないようになっています。相手に協力してもらうと、相手にも良いエサが落ちる引き出しを選択します。
実験の様子はこちら「Takimoto, A.,& Fujita, K. (2011).」
- 自分だけでエサを得られる「独力条件」
- 相手の協力がないとエサが得られない「協力条件」
協力してもらったときは、「お返し」をします。
まとめ
前回の続きとして「比較認知科学」の面白い観察や実験を紹介しました。
まだまだ面白いことがあります。
カラスは食料を埋めて保存し、その数は数千、万にも及ぶということを紹介しました。
しかし、埋めているところををほかのカラスに目撃され、横取りされては困ります。
そのときは、目撃されたカラスには隠し変えをして対抗するが、そのカラスがどのカラスであるか認識している必要がある。
そんな面倒くさい事をカラスはやっています。
オスのカラスはメスに給餌行動をします。二種類の餌があって、片方の餌を食べているのを目撃した後は、食べていない方を給餌する。
イヌが親切な人を見抜いたり、口を使うべきか足を使うべきか、条件で推論したりもします。
こんな書籍も見つけました。
私たちは何者なのか、それを知るのにも「比較認知科学」は役立つと思います。