83歳の父親を持つ、若井みち子さん(60歳、仮名・以下同)が語る。
「父が『夜眠れなくて何度も起きてしまい、つらい』と訴えるので、病院で睡眠薬を出してもらいました。当初は、よく眠れるようになったと父も喜んでいたんですけど……」
若井さんの父親が飲んでいたのは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬のハルシオンという非常に効果が鋭い薬だ。
「飲み始めて、1年ほど経った頃から異変が出てきました。もともとは快活だったのに、だんだんと笑顔がなくなり、口数も減ってきた。
睡眠薬が抜けきっていないのか、日中もボーッとしがちで、物忘れも激しくなり、突然、怒り出すことも増えました。
睡眠薬をやめさせようかとも考えましたが、薬を飲まないと夜中に暴れ出して手が付けられなくなるため、仕方なく飲ませ続けているのですが……。家族としては、睡眠薬が認知症の引き金になったと思っています」(若井さん)
眠れないからと、ついつい軽い気持ちで睡眠薬に手を出したばかりに、認知症を発症する――。
実際、本誌が、医師や薬剤師、介護施設のヘルパー、認知症の親を介護する家族などに取材をしたところ、「睡眠薬を飲んでから認知症になった」という実例が次々と出てきて、その数は優に50を超えた。
詳しい事例を紹介する前に、まずは睡眠薬にどのような種類があるのか確認しよう。
病院で処方される睡眠薬は、大きく2種類に分類される。
一つは、冒頭にも紹介したハルシオン、ドラール、サイレースなどのベンゾジアゼピン系=「BZ系」。もう一つが、マイスリーやルネスタなどの「非BZ系」だ。
BZ系のほうが、効果が強い反面、副作用も強く出やすい。
一方で非BZ系は、効果がマイルドで副作用も少ないが、短時間しか作用しないので、夜中に目が覚める中途覚醒や不眠の場合、効果が得られにくいというデメリットがある。そのため、手っ取り早いBZ系を処方する医師も少なくない。
BZ系の抗不安薬・デパスやソラナックスなどを睡眠薬として、処方されている人もいる。
睡眠薬の使用率は高齢になるほど上昇し、60代では12%、70代で19.2%、80歳以上で24.8%となる。
意外にも女性のほうが使用率が高く、70歳以上の女性では4人に一人が服用している(データは'04年、国立保健医療科学院より。現在はさらに増加している可能性が高い)。