「…という訳で結婚を考えているのだが…皆はどう思う?まずは…デミウルゴス」
「素晴らしいご決断です、アインズ様!魔導国内の更なる安定を図るという意味でも、アインズ様ご自身の御婚儀という一手は絶妙かと思われます」
「そ、そうか…」
(なんか引っ掛かる言い方だけど…まあいいか)
「まだ決まった訳ではないのだがな。しかし、この件を円滑に進めるためにはお前の力が不可欠だ。その際は色々と世話をかけると思うが、よろしく頼むぞ、デミウルゴス」
「ハッ!僭越ながら御婚儀の件に関してはいつご決断されても良いよう様々な想定をしておりました。非才の身ではございますが、全身全霊をもってアインズ様のご期待に添えるよう努力いたします」
その反応をみて、決断したは良いものの「結婚」という未知の体験に対する言い様のない不安に襲われていたアインズは心から安堵する。
(やっぱりデミウルゴスは頼りになるな~!頼むよ、ホントに…)
本当は飛び上がりたい程嬉しいのだが、そんな気配は微塵も見せずに「ウム…」と重々しく頷いてコキュートスに視線を移す。
「ではコキュートス、お前はどう思う?」
「アインズ様…!爺ハ…爺ハコノトキヲマチワビテオリマシタ!至高ナル御身ノ御子ヲコノ手ニイダク日ガタノシミデナリマセン!」
「そ、そうか、そう言ってもらえて嬉しく思うぞ、コキュートス。だがな…子に関しては難しいかもしれん。何しろこの身体だからな…」
「コレハゴケンソンヲ!アインズ様ニ不可能ナコトナドゴザイマセン!」
フシューッと冷気を吐き出しながら自信満々に言い切るコキュートスに「あるんだよっ!」と心の中でツッコミを入れるアインズだが、どうやら夢見る爺には何を言ってもムダなようだ。
とりあえずこの場を収めるために「まあ、手がないわけではないんだけどな…ハハハ」などと曖昧な事を言っておくが、妄想の世界で至高なる御子相手に剣術指導をするコキュートスには届かない。
代わりに、「手がないわけではない」という一言を聞き逃さなかったデミウルゴスのメガネが怪しく光る。が、なんとか体裁を整えるのに精一杯なアインズはそれに気付かずセバスに話を向ける。
「セバス、お前はどうだ?」
「ハッ、アインズ様がご決断された事に対して異論などあるはずもなく…何より、我々シモベ達の自我にまでご配慮くださっている事に…このセバス、感涙を禁じ得ません」
「いやなに、そのような大げさなものではない。ただ、私がいつまでも身を固めないとセバスとツアレが肩身の狭い思いをするのではないかと思ってな」
「ハッ!これは…イエ、決してそのような事は…」
自身の冗談でしどろもどろになるセバスを愉快そうに眺めつつ、アインズは話を続ける。
「少し冗談が過ぎたようだが…そのように恥じる事はないぞ、セバス。お前とツアレの関係というのは魔導国においても大きな可能性なのだ。だから、この世界の人間と自然に交われる自分を、そうあれとたっちさんに生み出された自分を誇りに思ってくれ」
「無論、デミウルゴスとコキュートスにも同じ事が言えるぞ。それぞれ思想も能力も違うが、そのいずれもが私にとって、ナザリックにとってかけがえのないものなのだ。どんな事があろうとそれを忘れてくれるなよ」
これはアインズにしてみれば当然の事を言っただけなのだが、配下の3人にとっては「慈悲」という言葉では片付けられない程の深い愛に触れたも同然だった。そして沸き上がる熱い感情を言葉にするのではなく心で噛み締める。自分達の創造主は去ってしまったが、己が全てをかける理由はいつだってここにある。改めてそれを感じた3人は、静かに忠誠の炎を燃やすのだった。
しかし、忠義の大火災を起こしたアインズ本人は自分がなにをしたかなどわかっておらず
(く、空気が重い…何か変な事言ったか?まあ反対意見もないようだし、そろそろ閉めに入るか)
などと考えている始末だ。
「ンン!話がそれてしまったが…では、私の結婚については同意を得られたという事で良いか?」
気まずさを振り払うように発したアインズの問いにデミウルゴスが代表して答える。
「無論でございます、アインズ様。他のシモベ達も喜びこそすれ、異を唱える者などいないと断言いたします。…それで、御婚儀の相手はどちらからになさるのですか?」
(どちらときたか…やはりデミウルゴスはシャルティアも候補だと思ってるんだな。まあ普段のやり取りみてれば仕方ないか)
「…ウム、そうだな…」
(とはいえ、シャルティアの見た目なんて14歳くらいだからな…世間が許さないだろ。でも、お前は後でとか言ったらまた騒ぐんだろうな…)
「私としてはアルベドからと思っているが、あからさまに優先順位をつけるのは良くないか…」
なるべく事を丸く収めようと苦慮するアインズ。その姿を見て胸中を察したデミウルゴスが助け船を出す。
「アインズ様、こうされてはどうでしょうか?とりあえず当事者への告知、その後のナザリック全体への発表の段階までは序列をつけずに行います。その後様子を見ながら細かな事を決定していくというのは…」
(おお…これはいいんじゃないか!?これなら俺もゆっくりと覚悟を決められるしな)
「フム…流石はデミウルゴス!お前の言は我が苦悩を見事に消し去ってくれたぞ!それでいこうじゃないか!」
「ハッ!お褒めにあずかり光栄です、アインズ様。ではそのように手配させていただきます」
ここまで決まった所で、アインズはヤレヤレと一息つく。
(大体の流れは出来てきたな…とりあえずは2人への告知か。…ん?告知?これって、やっぱり俺がやるべき、なんだよな?メッセージで済むような内容じゃないし、直接伝えるしかないか。…アルベドにはその場で襲われないよう気を付けないと…)
そんな事に思いを巡らせシュンとなりかけるアインズに、またしてもデミウルゴスから救いの手が差し伸べられる。
「それではアインズ様、今回決定した事を元に今後の計画を進めてまいりますので、後の事は我々にお任せください。コキュートス、セバス、君達にも手伝ってもらうよ」
この言葉を聞いた瞬間、アインズは心の中でもう一度「流石はデミウルゴス!」と叫んだ。聞き間違えでなければ、目の前の愛すべき悪魔は「お前は何もしなくて良い」と言ってくれたのだ。任せない手はない。
「デミウルゴスよ…お前は本当に深い所まで我が意を汲んでくれているのだな。お前の忠誠に改めて感謝するぞ!コキュートスとセバスも手を煩わせてすまないな…デミウルゴスを助けてやってくれ」
「アインズ様ノゴ婚儀ノ一助ヲニナエルトハ、コレ二マサル誉レナドゴザイマセン!ワレラ二オマカセクダサイ!」
「ハッ!もとよりこのような段取りは執事としての本分。必ずやご満足いただける結果にいたします!」
そんな気合い十分のシモベ達の姿を見て、アインズは目を細めウンウンと頷く。そして皆の働きに報いるためにも、自身の結婚を機に魔導国の礎をより強固なものにしていく事を誓うのだった。
今回はここまでとなります。読んでくださった皆様ありがとうございました!次回はアインズ様のプロポーズが見られるかもしれません笑