勇気の要る「道程図」の設定
運動の初期には「1955年の国連憲章の見直しを世界連邦建設の戦略であり、ゴールの年である」としたのであるが、これが達せられずに運動の停滞期に入ってしまった。これが「道程図を作って公表すれば、達成されない時に失望を招き、運動の信頼を失う」とする慎重な姿勢となり、事実上、「実現の見通しを示さない運動」となってきた。
しかし、「何年までに実現したい」という希望は、指導的立場の方々は述べてきた。現植木会長にも「2020年までに実現したい」と述べられたことがあったと記憶している。運動をする以上は、そのような目安をもちそれへの希望ある一歩一歩にしたいと思うのは当然である。
国会決議で歩みの手ごたえ足ごたえを感じた会員は、その道程(ロードマップ)の明示を求めるようになった。その顕著な例は日本大会(広島2005)のフォーラムテーマにロードマップが取り上げられたことである。日本大会(大阪2006)でも道程の全体像を「戦略」の語で語られ、その後も役員や組織委員会の方から「道程図」の要望が出されてきた。
今回ようやく、その要望に合うものを目指し作成した。この道程図は「日本の世界連邦運動者の立場で想定した道程」という限界内のものにとどまる。しかし、その限界内で、目標は具体的になり、それなりに「世界連邦設立に至るまでの各段階の目標を合理的につなぎ得た」ものとなった。
A 世界連邦実現の道程・戦略の大要
1 2005年の国会決議が、これからの運動の前進基地となることを確認する。
2 2010年までに日本の改憲論議が熟してくる。それまでに上記国会決議に基づいて「世界連邦推進方針」を閣議決定し、外交の基軸とするとともに、「諸国民の公正と信義に信頼して安全と生存を保持しようとする」現憲法の趣旨を進めて「世界連邦による世界平和構築に軸を置く」憲法改正を全党派共通の方針とする。
3 閣議決定後のなるべく早い国連総会に首相又は外相が世界連邦設立を世界に呼びかけ、同時にICC規程の成立過程にならって各国議員をメンバーとする「国連議員総会」規程を提案し、各国の賛同を求める。
4 一方、2008年の北海道洞爺湖サミットでは、議長国日本が、気候変動対応の「のっぴきならぬ必要」から、国家各々の利害を超えて、必要な痛みは共有して対応することを提案し、世界の指導者の勇断を促す。その世界共生の思いが世界連邦の必要感を高めるように、日本は引き続き指導性を堅持する。
5 また一方、アメリカ軍の世界戦略基地再編と日本の自衛隊の国際貢献とは、ともに世界連邦の実現に寄与するものでなければならない。この共通認識に基づき、両国は賛同する諸国とともに「平穏裏に世界連邦体制に移行するのに不可欠な妨害抑止力」としての役割を果たす。
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尾崎行雄が世界連邦体制への移行のモデルとした日本の廃藩置県が無血で成功したのには
御親兵という力があったからという教訓に学ばなければならない。
6 更に一方、EU、AU、ASEAN等の地域連合は、国家主権の制限による連邦原則に理解を持っているので、世界連邦設立条約への連携を深める。
7 また、ICC規程の採択にNGO連合が大きな貢献をしたように、国連議員総会や世界連邦設立条約の推進に尽力するようにWFMが中核となってリードする。
8 日本政府は「世界連邦憲法案」を作り国連議員総会に諮り、それを基軸にする世界連邦設立条約を提案し加盟を呼びかける。この状況を2013年までに作り、その後加盟国を増やす。
9 その批准国や地域連合、NGOなどが大連合し、2018年ごろに「世界連邦設立連合」を結成する。それから5年をメドに加盟国をさらに増やし、国連加盟国の安全保障理事会常任理事国を含む三分の二以上にし、2025年頃には国連憲章から世界連邦憲法に移行して世界連邦設立に至る。
10 拒否権を持つ国の反対などで、その移行ができない場合には、世界連邦設立連合の加盟国で日米EUなどを含む世界の産業経済の三分の二以上を占めていることを確かめ世界連邦を設立する。残る国はアインシュタインの「部分世界連邦から」の原則に従って受け入れ、やがて全世界の世界連邦を実現する。
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世界連邦設立からほぼ10年をかけて世界の全軍備の撤廃や環境、食料、人口、貧困問題の処理を更に公平に、迅速に、効果的に進める。
B 「世界連邦実現の道程・戦略(ロードマップ)」の性格と想定
1 今の時点での見通しを示す。したがって2007年版とする。時が経てば世界の状況が変わり、それに応じてこの見通しも進化する。
2 道程は現時点から世界連邦設立に至るものである。
3 実現までの推進力としては (1) 日本国政府 (2) WFMを中心とするNGO連合 (3) EU、AU、その他の地域連合、とする。
4 日本政府を推進力とする道として (1) 「世界連邦推進の閣議決定」の実現 (2) 憲法論議で全党一致の「世界連邦による平和構築の条文」にする が 不可欠とする。
5 世界連邦実現には日本とアメリカの同意と協働が不可欠である。
6 国際連合憲章から世界連邦憲法に移行するためには、
(1)
世界連邦を志向する条約の賛同国を増やし
(2)
その賛同国に地域連合やNGO連合等も加えた「世界連邦設立連合」を拡大して行く
過程が必要である。
7 「世界連邦設立連合」が相当程度に拡大したところで、国連憲章から世界連邦憲法への移行がすんなりできることを期待するが、一部の拒否で実現できない時は、アインシュタインが第二回国連総会に提起した「やむをえなければ、賛成の諸国は部分的な世界政府をつくる。その場合、世界の産業的経済的に重要な三分の二を含む有力なものとすることが絶対必要である。その部分的世界政府は、未加入国を完全に平等に受け入れることを明らかにし、あらゆる会議にオブザーバーとして出席を認め、未加入国に対して軍事同盟として行動することは絶対に避ける。」という原則で世界連邦を設立し、急ぐべき世界課題に対応する。やがて、未加入の国も、この世界連邦に背を向け続けるわけにはいかないでああろう。
8 世界連邦必要の原点は核兵器の廃絶を含む世界全軍備撤廃による平和確立にあるが、今や 人類生存の基盤である地球環境の保全回復や「全ての人が それぞれの地で それぞれの文化で 喜び生きられる」という共生の実現のためにも、世界連邦の一刻も早い実現が必要になっている。
9 その地球環境の保全回復は特に緊急の課題である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第四次報告によっても、主に人類の活動に起因する地球温暖化が自然のバランスを崩して回復不能の深淵に近づき、もはや 数十年は待てない状況と思えるからである。地球環境の危機を回避するために、世界連邦の実現を早めるという勇断をサミットの構成指導者に期待する。