リング上の勝利者インタビュー中に、井岡の目から涙がこぼれた。8月に生まれた長男、磨永翔(まなと)くんのことに触れられた時だった。
「息子が生まれて初めての試合。どこかでずっと『この子のために勝ちたいな』というのがあった。勝つのは難しいし結果を残すのは簡単じゃない。息子の名前に、込み上げてくるものがあった。父親として涙もろくなっちゃってたのかもしれないです」
あちこち赤く腫れ上がった顔が、苦しい試合展開を物語っていた。序盤は、12センチもリーチの長い挑戦者に遠めからのジャブとストレートでペースを握られ、何度も顔面にパンチを浴びた。
日本人初の世界4階級王者はそこで終わらない。3回からガードを固め距離を詰めてボディーを狙う泥くさい戦術に切り替え、次第に主導権を奪う。足を使う挑戦者をとらえきることはできなかったが、手数と攻勢では中盤から完全に上回り、5~6回、9~11回はジャッジ3者全員が井岡につける文句なしの判定勝ちをものにした。
「開始から4ラウンドは、最悪取られてもいいから空振りさせて体力使わせようと思っていた。前半ペースを取られても、残り8ラウンドは全部取れば勝てると。どんな形でも勝たなきゃいけない時はある。でも、被弾は覚悟してたけど想像以上にもらいましたね」
父親となった井岡には、一時の不利を跳ね返せる強さがあった。
今後は、2018年7月の現役復帰会見から希望していた海外展開に進みたい。「勝ったことで次につながった。一番の希望は(他団体王者との)統一戦。世界的に名前がある(元世界4階級王者の)ローマン・ゴンザレスも視野にある」と、夢を広げた。さらに大きな存在となるため2020年も歩み続ける。