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2019.12.30

[書評] ぼくたちの離婚 (稲田豊史)

 年の終わりに、昔のブログでよく流行っていたように、今年読んで感銘を受けた本リストでも作ろうかと思ったが、なんとなく、機会を逸した。ただ、『ぼくたちの離婚 (稲田豊史)』は、奇妙に心に残った。
 どういう本かというと、対談をベースにしたルポ本ではある。テーマは、離婚経験のある男性から見た、離婚の経緯や顛末である。徹頭徹尾、男側から見て、女側の言い分は聞かない。端から、公正さは狙っていない。男は離婚を、そしてつまるところ、女との結婚生活をどう見つめて、破綻したかということだ。そして、ルポにブレはない。が、同じく離婚経験者である著者は、なんとも言えない、インサイトというか受け止めを持って、離婚を語る男を見つめている。その視線も面白い。
 で、つまるところなんなのか?
 奇っ怪な世界なのだ。女というのはこんな奇っ怪な存在なのか? もちろん、そんなことはない。まして差別につながるようなことが言いたいわけではけしてない。読み進めていくにつれ、男の奇っ怪さも浮かび上がってくる。
 なんだろ、この奇っ怪さは、と思うのだが、これは、私のような乏しい恋愛経験からも頷けてしまうものがある。恋人と思っていた人間が、なんとも不可解で理解できない何かの存在なのだ。そして、その関係のなかで、傷つく。公平に言えば双方が悪いのだろうが。
 で、この本がどう自分の心に残ったのか?
 奇妙な、「癒やし」を与えてくれたのである。癒やしというのとも少し違うかもしれない。ただ、心に抱えていた暗く重たいものを降ろした感じはした。
 恋愛の渦中の他者というものの奇っ怪さと、当然、自分に反映される奇っ怪さが、なんというのか、絶望的なまでに救いようがなく、そうなんだよ、恋愛の失敗って、どうやっても救われるようなものじゃなかったんだ、と腑に落ちるというような。
 だいたいが、恋愛が深まる、あるいは結婚生活における男女の親密性というは、奇っ怪にして不気味なものがある。むしろ、なんでここまでわけのわからない他者と結婚生活なんか続けていられるのだろうか、そのほうが不思議なくらいだ。
 別の言い方をすれば、ここで描かれる男女を、クズというのは容易いが、人間というのは、恋愛や結婚において、こういう救いようのない存在なんじゃないだろうか。
 それにしても、奇っ怪さの極まる挿話などもあり、村上春樹の中期短編小説、例えば、『回転木馬のデッド・ヒート』の『レーダーホーゼン』とか連想させるものもある。
 人間って救われないなあ、恋愛・結婚って、うまくいっているほうが不思議なものなんだよなと思わせる、なんだろ、極上の一品で、しかも、心の安らぎがありました。

  

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