1分子生物学研究室

Laboratory of Single Molecule Biology

教授
上田昌宏 (Masahiro Ueda)
mail ueda@bio.sci.osaka-u.ac.jp
助教
宮永之寛 (Yukihiro Miyanaga)
mail miyang@bio.sci.osaka-u.ac.jp
研究分野

情報伝達学

所属

理学研究科

ロケーション

豊中地区

研究内容

細胞は様々な生体分子から構成された複雑なシステムです。確率的にはたらく分子を要素として情報処理機能・運動機能などを有するシステムが自律的に組織化され,変動する環境に対して巧みに適応することができます。分子反応・分子運動の確率性に起因する“ゆらぎ”を内包した,ある種の確率的な演算システムとして細胞を見なすことができます。近年の1 分子イメージング技術の進展により,細胞内の分子の振る舞いを直接観察し,その確率的特性を明らかにすることが可能になってきました。我々の研究室では,こうした1 分子イメージング技術と数理モデリング、及び、合成生物学的手法を走化性シグナル伝達システムに適用し,システムの構築原理と演算原理を1分子粒度の解像度で解明することを目指しています。

細胞内1分子イメージング自動解析法の開発

 細胞内1分子イメージング法は開発されて10年以上経ちますが、現在でも画像データの取得や解析には多くの人手と時間を要します。また、統計解析のための専門的な知識と職人的な実験技術が必要とされており、 新規に1分子研究を始めようとされる方々にとって大きなバリアとなっています。これまでの10年間に、我々のグループでは7種類のシグナル分子について1分子レベルの解析を進めました。しかしながら、走化性シグナル伝達システムの全貌を明らかにするにはさらに20~30種類程度の分子について解析を進める必要があり、現在の解析速度では絶望的です。そこで我々のグループでは、1分子画像データの取得と解析過程を自動化することにより、ハイスループット化された細胞内1分子イメージング自動解析システムの開発を進めています。こうした技術開発を通して、細胞内1分子イメージング解析法を生命科学に真に実用的な計測技術にしたいと考えています。

走化性シグナル伝達システムの1分子生物学

細胞が環境の誘引物質の濃度勾配を認識し、方向性のある運動を行う性質を一般に走化性と言います。真核生物においては、免疫応答や神経回路形成、形態形成等のさまざま生理現象で観察されます。細胞性粘菌Dictyostelium discoideumは、こうした走化性の分子メカニズムを調べるためのモデル生物として良く知られています。粘菌細胞は分子反応の確率性に由来する分子ノイズの強い影響の中で微弱な濃度勾配シグナルを検出できることが分かってきており、確率的なシグナル伝達の仕組みを研究する対象として注目されています。ノイズに満ちたシグナルから適切に情報を取り出し、安定した応答を実現するために、細胞内ではどのようなタイプの反応が用いられ、それらを組み合わせた反応経路はどのようにデザインされているのでしょうか?この問いは、ゆらぐ世界で機能する細胞内シグナル伝達システムにおいて一般的に成り立つ重要な問いです。  1 分子イメージング技術の進展により,細胞内のシグナル分子の振る舞いを直接観察し,その確率的特性を明らかにすることが可能になってきました。そこで我々は,誘引物質濃度勾配の認識から細胞運動の制御にいたる走化性シグナル伝達過程を細胞内1 分子イメージング技術を用いて解析することにより、熱ゆらぎの影響を受けながらはたらくシグナル伝達分子の確率的な振る舞いを明らかにすることを目指した研究を進めています。実験的に決定されたシグナル分子の確率的特性に基づいて数理モデルを構築することにより、走化性シグナル伝達の分子メカニズムを1分子粒度の解像度で明らかにします。

その他、以下の項目についても研究開発を進めています

(3) 走化性シグナル伝達システムの合成生物学 (4) 免疫細胞の走化性応答、細胞運動の1分子イメージング解析 (5) 細胞性粘菌の発生過程における多細胞 体形成のイメージング解析 (6) スナップショットデーターから分子ネットワーク動態を再構成する手法など。

図0 誘引物質の濃度勾配に対して走化性を示す細胞性粘菌Dictyostelium discoideumのアメーバ細胞

図1 細胞内1分子イメージング解析の開発

図2 走化性シグナル伝達システムを構成する分子群の細胞内1分子イメージング解析.PTENの1分子画像.

図3 細胞極性と運動を制御するシグナリング振動子の自発形成メカニズムの解明

参考文献

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Ueda M. and Shibata T. Stochastic signal processing and transduction in chemotactic response of eukaryotic cells. Biophys. J. 93 , 11 - 20 (2007)

連絡先

〒560-0043
大阪府豊中市待兼山町1-1
大阪大学大学院 理学研究科
TEL:06-6850-5812
FAX:06-6850-5812

http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/bio_web/lab_page/ueda/index.html

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