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パナソニックの半導体事業売却、軍事技術が中国に流出する恐れ…日米安保にも波及か

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・窒化ガリウム

 問題となる最先端技術のひとつは窒化ガリウムである。窒化ガリウムは「ムーア法則半導体の集積率が18カで2倍になるという法則)の終焉」を延期できる数少ないソリューションのひとつで、半導体業界の救世主的な存在である。微細化により回路を小さくしてきたが、微細化の限界に達したために3次元に集積するようになった。その結果、熱がこもりやすくなり、処理能力が低下するという課題に直面した。微細化による熱問題や電子漏れは、処理能力を単純に向上させることはできない。それが「ムーアの法則の終焉」と呼ばれる課題である。ところが、窒化ガリウムという素材は低抵抗高温動作という特性を兼ね備えており、ムーアの法則を継続させることが可能な数少ない素材だ。

 ファーウェイは以前から窒化ガリウム技術を取得するために、各研究者にアプローチしてきている。もっとも有名なのは、シンガポールのマイクロエレクトロニクス研究所(IME)で窒化ガリウムの研究員として従事していたシェーン・トッド氏である。2013年、窒化ガリウムの研究に関する情報を求めるファーウェイからアプローチのあったトッド氏が、危険を感じて族にその旨を伝えて、帰国寸前に不審死に至ったといういわくつきの技術である。

 奇妙な偶然だが、中国・西安の半導体工場が窒化ガリウム技術を自社で利用していない台湾企業より、20年1月から窒化ガリウムの技術を移転できるとして高額なライセンス料での交渉が始まったそうだ。

 これら、最先端技術を持つ企業の株式をパナソニックが非ホワイト国の企業に売却することは、ワッセナーアレンジメント(新ココム)の下で許されることなのかという観点と共に、新唐科技の背景についてみてみる。

新唐科技の背景と中国との関係

 新唐科技は、台湾のメモリ企業・華邦電子(英名:ウィンボンド)の子会社である。ウィンボンドのCEO、焦佑鈞(英名:アーサー・チャオ)氏は、台湾大手電信ケーブル企業の華新麗華(英名:ウォルソン)創業者、焦廷標の息子であり、焦家は台湾において、それなりに名が知られた家族だ。焦氏が会長を務める新唐科技は、中国の高速道路におけるデジタル人民元決済のETCシステムにマイクロコントローラーチップ(MCU)を独占的に提供する契約を得て、すでに中国社会で浸透しているテンセントやアリババを押しのけて中国の決済システムに食い込んでいる。焦氏がこれほど中国共産党と深遠な関係を築くようになったのは、中国国内でカギとなる半導体工場の経営者は殆ど焦氏の側近であるためだ。

 焦氏は軍事技術に対して強く興味を持っており、F35のフライトコントローラー用チップの技術の取得をめぐって、焦氏が支配する台湾企業を利用して争ったことが、2006年に台湾紙「新新聞」で報道されている。軍事用FPGAチップの生産で半導体大手ファウンドリTSMCは世界トップ、TPSCOのRFCMOSを手に入れれば軍事用半導体チップで台湾はトップになれる。

 ここ数年、台湾資本による日本の半導体企業や工場の買収が相次いでおり、米国政府も日本の半導体技術の中国への流出を恐れて日本政府へクロスボーダーM&A合併・買収)案件の審査強化を求めてきた。

 新唐科技側の発表を見ていると、新唐科技の米国子会社とイスラエル子会社は、本買収に関与していないようだ。イスラエル政府、米国政府の管轄権を意識したかのような発表となっている。基本的に買収案件に関しては、公正取引委員会と同じように企業側からの申告をもって行政が外為法上の審査に入るので、企業側が「管轄外だ」と判断して申告しなかった場合は、行政が見落とす可能性は高い。

 日本でも、19年10月8日に外為法の改正が行われた。日本の対日外国投資に対する意識の低さが輸出管理規制上のループホールとなってきたことを踏まえて、欧米が対内投資規制を強化している動きに歩調を合わせたものである。今回の新唐科技によるパナソニック事業買収は、「事前届出」の対象に分類されているはずであり、これが許可されたとしたらワッセナーアレンジメント違反だけでなく、日米安全保障条約に波及する可能性が高い。パナソニック半導体事業の台湾企業への売却事例は、法改正後の日本の輸出管理審査のレベルを計る試金石となるため、注目すべきである。

(文=深田萌絵/ITビジネスアナリスト)

パナソニックの半導体事業売却、軍事技術が中国に流出する恐れ…日米安保にも波及かの画像2深田萌絵(ふかだもえ)
ITビジネスアナリスト
早稲田大学政治経済学部卒 学生時代に株アイドルの傍らファンドでインターン、リサーチハウスでジュニア・アナリストとして調査の仕事に従事。外資系証券会社を経て、現在IT企業を経営。

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