SNSから「いらない機能」と「いる機能」が明確になりつつある:『WIRED』が振り返る2019年(ソーシャルメディア編)

社会や政治に及ぼす影響から新機能の解説、“バズ”の裏側まで、「WIRED.jp」では2019年もSNSに関する多数の記事を公開した。よく読まれた記事を振り返ると、いまだ“成長段階”にあるSNSにどんな取捨選択をすべきか、ヒントとなるようなタイトルが上位にランクインしている。『WIRED』日本版が振り返る2019年(ソーシャルメディア編)をお届けしよう。

ADOLESCENT CONTENT /CAROLINE JAPAL/GETTY IMAGES

いよいよ2020年がやってくる。『AKIRA/アキラ』や『ブレードランナー』で予想された壮大な世界を夢見ていたわたしたちは、なぜかそれとはほど遠い、スマートフォンの画面のなかに見える脆いつながり合いに一喜一憂するという偏狭な世界に生きている。

世界中の誰とでもつながり合い、共感を育み合える“ツール”として成長を遂げてきたSNS。現代が「ソーシャルメディア時代」と称されるように、いまや政治やビジネスなど社会のあらゆる問題は、SNSの要素なしに語ることはできなくなった。

フィルターバブルによる偏りやプライヴァシーの扱い、メンタルヘルスへの影響など問題点ばかりが取り沙汰されているが、地球の歴史から鑑みれば、SNSはまだまだ「生まれたて」の部類に入る。これから本当に必要な機能が見極められ、より洗練されていくはずなのだ(と、信じたい)。

とはいえ、それぞれのサーヴィス開始から数えてみれば、2020年にFacebookは16歳、Twitterは14歳、Instagramは10歳になる。人間だって10歳にもなれば、自分以外の誰かとの関係性を意識した、それなりに分別のある態度が身についてくる年ごろだろう。洗練された姿にはほど遠くとも、SNSにだってそろそろ「なくてもいい機能」や「向いてない使われ方」が見えてきてもいいはずだ。

SNSはすでに一国の大統領選の結果を左右したり、誰かを死に追いやったりしてしまう力をもってしまった。SNSを提供するソーシャルメディア企業の度重なるアップデートが、最適化と便利さを“トゥーマッチ”にしていくなかで、わたしたちは今後どのような取捨選択をしていくべきなのか。 

2019年に「WIRED.jp」でよく読まれた記事のランキングを振り返ってみると、そのような「選び取るべき機能」を見極めるための示唆に富むタイトルが上位にランクインしている。ここからSNSとともに“成長”していく、すべてのユーザーが知るべきヒントが見てとれるはずだ。

タイムラインがときめく片付けの魔法:そのツールは、あなたのTwitterを「こんまりメソッド」で整理する

お義理でフォローバックしたアカウントや世界中から押し寄せる不穏なニュース──こんな雑多なTwitterのタイムラインを片付けるツールがある。その名も「Tokimeki Unfollow」だ。2019年にNetflixで始まった「KonMari~人生がときめく片づけの魔法」シリーズで、一躍世界的に有名になった片づけエキスパート・近藤麻理恵の哲学を応用したこのツールは、いかにして「デジタルのゴミの山」と化したタイムラインにときめきを取り戻すことができるのだろうか。
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音楽フェスの大失敗を描く2本のドキュメンタリーが、「インターネットの病」を浮き彫りにした

インフルエンサーたちによる“拡散”で、超高額チケットの95パーセントが48時間で売り切れた豪華音楽フェスティヴァル「Fyre Festival」。その前代未聞の大失敗を描いたドキュメンタリー作品からは、インターネットが増幅する「FOMO(fear of missing out:取り残されることへの不安)」という病の現状が見えてくる。そしてこの失敗を経たいま、わたしたちは「エンゲージメントのルール」を再考すべきときを迎えているのだ。

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FacebookとInstagramのアカウントは、あなたが知らないうちに「連携」されている

フェイスブック傘下のSNSであるInstagramとFacebook。それらの両方にアカウントを保有していると、「リンク済みのアカウント」として登録していなくても、システムの内部的には連携されてしまうことが明らかになった。つまり何度「リンクを解除」の設定を試みたところで、FacebookユーザーがInstagramに「裏アカ」をつくることは実質的に不可能なのだ。フェイスブックの広報担当者によると、すべては「パーソナライズされた体験」のためなのだという。
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SNSの「おすすめ」が自殺を助長する:アルゴリズムによる悲しみを増やさないために、いま取り組むべきこと

SNSのアルゴリズムによる“おすすめ”が、心に病を抱える人々の自傷や自殺を助長する──。14歳の少女の死をきっかけに、レコメンドエンジンとメンタルヘルスの関係についての議論に拍車がかかっている。“おすすめ”には自分のメンタルヘルスを再形成してしまう問題がある一方、有害なコンテンツを禁止することが“逃げ場”としてのSNSに弊害をもたらす可能性もあること。そしてソーシャルメディア企業と医療従事者が互いにもつべき知識についてふたりの専門家が解説している。
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フェイスブックの広告プラットフォームは、根幹から「差別的」かもしれない

フェイスブックによるターゲティングの広告配信アルゴリズムには、広告主の意図せぬところで人種や性別のバイアスがかかっている──。そんな研究結果が大学などの共同研究から明らかになった。出稿主の企業が定めた対象ではなく、実はフェイスブックによるさらなる“絞り込み”の先に配信されていることが多いというのだ。同社が広告事業もおいて他者と差異化する「最適化」という機能の根本に差別があると認められれば、広告事業そのものに悪影響が出る可能性は高い。
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さらばトヨタ「マークII」、バブル経済を象徴したクルマの栄華と衰退の歴史

2010年代の終わりとともに、日本人の多くが記憶する“名”が静かに生産を終了した。トヨタ自動車の「マークII」からバトンを受け継いだ「マークX」である。マークIIから数えて51年もの歴史は、日本経済の栄枯盛衰とともにあったと言っても過言ではない。高度成長とバブルの栄華、そしてバブル崩壊──。ひとつの時代を築き上げ、そして時代に翻弄されたクルマの歴史を、いま振り返る。

TEXT BY YASUHIRO OHTO

Mark X

12月に生産終了したトヨタ「マークX」。写真は4月に発売された特別仕様「マークX 250S “Final Edition”」。PHOTOGRAPH BY TOYOTA

日本経済の成長とともにあり、バブル期に栄華を極めたクルマの歴史が静かに幕を閉じた。2019年12月23日に生産終了したトヨタ自動車の「マークX」である。

前身となる「マークII」は1968年に初代モデル(当時は「コロナマークII」)が発売され、そこから9代目の「マークII」まで生産が続いた。後継モデルとなった「マークX」を含む計51年間の累計生産台数は、349万5,248台にも達する。

これは世界で販売されたトヨタ「カローラ」の累計生産台数には遠く及ばないものの、実は高級モデルである「クラウン」より多い。ターゲット層の中心を“中堅サラリーマン”としたことで、日本人の生活に深くかかわってきたモデルと言える。そんなマークIIシリーズの歴史は、日本経済の成長と低迷、それに伴う世相に影響されたクルマ文化を象徴している。

「ハイオーナーカー」として誕生

初代モデルは「いざなぎ景気」真っただなかの1968年9月に誕生した。日本人の多くが「新三種の神器」といわれた「3C」、すなわちカラーテレビ、クーラー、カー(クルマ)を手にすべく、がむしゃらに働いていた時期と重なる。個人ユーザーの増加から自動車へのニーズが多様化することが期待され、そこを狙った自動車メーカーが大衆車と高級車の間に位置するモデルを投入する。

トヨタは大衆車だった「コロナ」と高級車「クラウン」の中間に位置するモデルとして、「ハイオーナーカー」と称してコロナの派生モデルである「コロナマークII」を投入した。マークIIはスタイリッシュなデザインと上質さが支持され、発売初年の月間登録台数が2万台を超える人気モデルに成長した。なお、日産自動車の競合モデルは「ローレル」である。

当時のマークIIの人気の高さを示すのが、76年に発売された3代目の派生モデル「チェイサー」の誕生だ。80年に発売された4代目にはでは、さらなる派生モデル「クレスタ」も登場し、世間からは「マークII3兄弟」と呼ばれるようになる。いずれも当時のマークIIの存在感と人気の高さを象徴する動きだった。

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    1/9初代「マークII」は、「いざなぎ景気」の真っただ中だった1968年9月に誕生。当時は「コロナ」の派生モデルで、正式名称は「コロナマークII」だった。写真はクーペモデル。PHOTOGRAPH BY TOYOTA
  • 1971年に発売された2代目は、名称こそ「コロナマークII」を引き継いだが、コロナとは異なる独自路線を突き進み、デザインもよりスポーティかつエレガントなものに進化していく。「クラウン」譲りの6気筒エンジン搭載車を設定するなど、先進的で上質さを備えた「身近な高級車」というポジションを確立させていく。PHOTOGRAPH BY TOYOTA
  • 1976年登場の3世代目モデル。派生モデルとして「チェイサー」が発売され、ややスポーティな味付けで人気を博した。PHOTOGRAPH BY TOYOTA
  • 1976年登場の4代目モデル。チェイサーに加えてセダンの「クレスタ」が投入され、「3兄弟」と呼ばれるようになった。これはトヨタに複数あった販売チャネルがマークII相当の独自モデルを求めた結果であり、当時のマークIIの存在感と人気の高さを象徴している。PHOTOGRAPH BY TOYOTA
  • 「マークII」の人気を決定づけたのが、1984年発売の5代目モデルだった。上品さとスポーティさを兼ね備えた4ドアハードトップモデルが、中高年だけでなく若者にも人気となった。PHOTOGRAPH BY TOYOTA
  • 1988年に発売された6代目モデル。バブル期の90年には、国内販売台数で大衆車である「カローラ」を初めて抜いた。PHOTOGRAPH BY TOYOTA
  • バブル崩壊がマークIIにとって悲劇の始まりだった。1992年発売の7代目はバブル期に開発されたこともあり、全車「3ナンバー」ボディへとサイズを拡大。このモデルから2.5ℓモデルが主流になる。豪華な印象を強めた半面、内部のコストダウンが進められている。絶好調だったマークIIシリーズに影を落としたモデルでもあった。PHOTOGRAPH BY TOYOTA
  • 1996年に発売された8代目モデル。シャープなデザインを採用したことで販売面では盛り返しを見せるも、時代は「ミニバン」ブームに突入。セダンの販売は振るわなくなっていた。PHOTOGRAPH BY TOYOTA
  • 2000年発売の9代目では居住性を改善することで復活を狙うも、ボディのワイド化などが不評となった。PHOTOGRAPH BY TOYOTA

「一億総中流」の象徴に

そして80年代になると、日本の人々の生活はさらなる上級指向へと転じていき、これまで以上に先進的かつ高級なクルマが売れるようになったのだ。

その火付け役が、トヨタの高級クーペ「ソアラ」の存在である。当時としては大排気量かつ高性能だった2.8ℓツインカムエンジンを搭載し、デジタルメーターやマイコン式オートエアコンといった先進装備が注目され、若者を含む多くの人がソアラに憧れた。「ハイソカーブーム」の到来である。

こうした上級指向はほかのモデルにも広がり、マークIIの“3兄弟”も人気がうなぎ上りになった。このころ最も人気だったボディカラーは「スーパーホワイト」と呼ばれる白で、「白のマークII」は日本の中流層を象徴するクルマとして一世を風靡した。

その人気を決定づけたのが84年発売の5代目で、88年登場の6代目でも破竹の勢いはとどまることを知らなかった。バブル期の90年の国内販売台数では、マークIIがカローラを初めて抜いた。まさに「一億総中流」が最高潮に達した時期と言っていいだろう。

「中流」の消失

だが、バブル崩壊が悲劇の始まりとなった。92年発売の7代目は、バブル期に開発されたこともあってボディが「3ナンバー」化された一方で、不景気の余波を受けてコストダウンも進められた。

人々の意識も変化していた。「所有から体験」へとクルマに対するニーズも変化していった時代であり、SUVやワゴンを中心とした「RVブーム」が到来する。マークIIの主要顧客層だった“サラリーマン”たちは、ファミリーカーとしてセダンではなく、多目的に使えるクルマを積極的に選ぶようになっていく。

  • トヨタは2004年11月発売の初代「マークX」で起死回生を図った。PHOTOGRAPH BY TOYOTA
  • 2009年発売の2代目モデル。マイナーチェンジを経てデザインを変更したものの販売は伸び悩み、19年12月に生産終了となった。PHOTOGRAPH BY TOYOTA
  • 2007年に発売されたミニバン「マークXジオ」。マークXの派生モデルとして共通のブランドを冠していたものの、実はプラットフォームはFF(前輪駆動)で、FR(後輪駆動)のマークXとは別物だった。PHOTOGRAPH BY TOYOTA

そして時代は、「ミニバン」ブームに突入した。トヨタは9代目のマークIIの居住性を改善してニーズに応えようとしたが、サイズが大きくなったことで不評となった。2004年にはブランドを刷新して「マークX」として再起をかけるも、すでに時代はSUVブームへと移行しつつあった。こうして、派生モデルとして投入したミニバン「マークXジオ」も失敗作に終わる。

マークXは09年に2代目が発売されたが、起死回生は果たせなかった。時代は変わったのだ。こうしてマークIIの歴史は静かに幕を閉じた。

それでもマークIIやマークXは、日本のサラリーマン層というかつてのマジョリティに愛されたクルマとして、いつまでも歴史に残るだろう。そしてその衰退は、バブル崩壊とともに薄れていく日本の「中流」意識という、日本社会の大きなターニングポイントを別の角度から見せてくれる。

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