対角化可能な正方行列 について,全ての固有値が より大きく より小さいとき,
は に収束する。
行列の無限等比級数について考えます。記事の後半では,より一般的な主張を述べます。
部分和
無限級数について考える前に,まずは項の数が有限の場合について考えてみます。
という等比数列の和の公式の行列版として( に逆行列が存在するという条件のもとで),
という等式が成立します。
証明
という式が成立することは,左辺を展開することで簡単に証明できる。
よって, に逆行列が存在する場合は,両辺に を右からかけて,
を得る。
無限和
が対角化可能であるという条件に注意して,冒頭の定理を証明してみましょう。
証明
まず, が逆行列を持つことを確認する。
の固有値が より大きく より小さいので の固有値は より大きく より小さい。よって, は正則行列である(行列が正則であることの同値な条件と証明の5)。
次に, のように対角化できるとすると,先程の部分和の式より
となる。
ここで, の固有値が より大きく より小さいので は を大きくしていくと限りなく零行列 に近づく。よって,
となる(※)。
※「高校数学ではイプシロンデルタを使わずに,限りなく近づく,という言葉でごまかした」と同じごまかしをしています。
(→イプシロンデルタ論法とイプシロンエヌ論法)
本当に厳密にやるには「行列が行列に限りなく近づくとはどういうことか」を考える必要があります。
より一般的な定理
任意の正方行列 について,以下の2つは同値。
1.
2. は に収束
- は の絶対値最大固有値の絶対値です。 のスペクトル半径と呼ばれることもあります。「全ての固有値が より大きく より小さい」を言い換えただけです。
- が対角化不可能な場合にも,冒頭の主張は成り立ちます。証明にはジョルダン標準形を使います。
- 冒頭の主張の逆も成立します。
詳細は参考文献:The Geometric Series of a Matrixをどうぞ。
「行列の等式だけど, 行列の場合は普通の見慣れた公式になる」というタイプの式,好きです。