――TPP(環太平洋経済連携協定)については、自民党も賛成の立場だが。
安倍
日本にとって自由な貿易環境はプラスです。
私が総理の時も、麻生さんに外務大臣としてEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)を積極的に進めてもらった。
私はその延長線でTPPも考えていますが、当然、国益にかなうかどうかを個別に考えるべきだし、それは交渉によるんです。
麻生
そう。うまく交渉して守るべきものは守っていけばいいのです。
安倍
例えば農業分野がGDPに占める割合は日本では1.5%。「後の98.5%は犠牲になっていいのか」という議論がありますが、これは間違っていると思います。
※(`・ω・´)bおそらくこれはTPP推進論者の「農業保護のために他の産業の自由貿易まで止めていいのか?に対する意見だと思われます)
農業がGDPに占める比率は英米は1%くらいしかないし、農業大国のフランスだって2%、オーストラリアだって3%にすぎない。しかし、どの国もみんな手厚く保護しているんです。なぜなら食糧というのは金で買えない可能性もある。
歴史がそれを示していると思います。アメリカだって、砂糖は非関税化できないんですから。
麻生
関税を完全にゼロにできる国というのは、おそらくシンガポールとブルネイだけですよ。アメリカがサトウキビを自由化するなんてことは、未来永劫ないんじゃないかな。牛肉だってそのまま自由化したら、日本で売られる肉は全部オージービーフに変わる。
安倍
後は交渉技術の問題ですが、今の民主党政権にできるのか、大いに疑問です。
そもそも普天間で大失敗をやらかした後に、菅さんがいきなりTPPをいい出した。
最初から負い目をもっているんですね。我々の時は、日本はインド洋で給油活動を行ない、サマワでイラクの支援もしていた。
そもそも小泉さんが、イラク戦争にいち早く支持を表明していた理由は実はこういうことが大きいんですよ。交渉に際して、こうしたことを言下に匂わせたり、時には直接いう。すると他の分野の問題でも交渉がとても有利になるんです。それが今はまったく逆になっている。
麻生
もうひとつ大事なのは、交渉するヤツが誰か。僕たちだったら、「この問題だったら経産省のあいつだ」とか、「外務省なら彼だ」とわかったよ。しかし、役人を使いこなせていない今の民主党政権にTPP交渉をさせるのは大いに不安。
言い値でやられたらとんでもないことになる。幕末に結んだ条約も、明治になってえらい苦労してやっと不平等を解消したわけだから。
安倍
外交問題は、すでに民主党政権の失政で取り返すのが困難なところにきてしまっています。米国は防衛費を大幅に削っていき、陸軍を8万人減らすことを決めています。2015年には朝鮮半島の指揮権が米国から韓国に移り、在韓米軍が撤退していくことになる。それまでに普天間の問題をきちんと解決しておかなければいけない。
アジアには冷戦の残滓が色濃く残っていて、中国は市場経済を導入しているとはいえ、共産党による一党支配で、軍備は増強を続けている。北朝鮮の問題もあり、日米が東アジアの安定について率直に話せない状況になっているのは大変由々しいことです。
麻生
「日米中は正三角形」なんて主張する人が民主党の中で多いようだけど正三角形だなんてありえない話。日米がしっかりと組んで安定的な関係を保っているということは、アジアの国々の安全保障上、非常に大きな安定剤になっている。
そもそも普天間基地移設は自民党政権で間違いなくあと一歩のところまで来ていたのを、民主党政権がいきなりテーブルをひっくり返してしまった。
「トラスト・ミー」の意味が本当にわかってるのかって言いたくなる。
――自民党にも正三角形論と同じような考えを持つ人がいるが・・・
麻生
(いるけど)今は絶対数が少ない。誰が言ってるか、名前も全部言えるけど(笑)
今は若い人たちのほうが現実的です。
安倍
自民党にも夢を見たり夢に酔ったりする人はいたんです。それができた時代もあった。しかし、冷戦構造が崩れるなかで世界は大きく変わり目の前の危機に日本が自ら備えなければいけなくなっている。同時に多くの若い人たちは海外経験のなかで国際政治の現実を学んだ。一方民主党は夢を見ている人がまだまだ多く、そうした地位に付いて就いていることが問題点です。
麻生
民主党には全然意見の違う人たちが同居していて、政党としての綱領もない。
※(綱領・こうりょう) 物事の要点や指針をまとめたもの
何のために政党を作ったのかわからない形で今日まで来ている。
3党連立とか平成の保守合同なんて話があちこちから出てくるけど、僕に言わせたら『集団的自衛権反対とか憲法改正反対とか言う人は出てってくれ』と。