『水泳部にて』

※あくまで二次創作であります。公式とは違いますので設定等変わっている所もあると思いますのでご注意くださいませ。

ACTORS二次創作ショートノベル

『水泳部にて』

水泳部部室から通路をちょっと進んだ先にある競泳用プール。鯆澄や一兎が練習メニューをこなし黙々と泳いでいるのに尻目に、後輩たちの泳ぎをチェックしているはずの鷹翌が、プールサイドでこれ以上なくふぬけた様子で大あくびをした。その後ろに立っていた竜之介は、書類をチェックしながら鷹翌のその様子を見ていた。

鷹翌は水泳の才能なら水泳部の歴史の中でも飛びぬけたものを持っているのにも拘らず、気分屋が過ぎてしまい、まともに成績を残せた事が最近ない。

水泳部はもとも部員の数が多かったものの、最近はほかの部活の人気に押されてしまっていて現状部員が4人しかいない。近年高い成績を残している部に生徒が相当数集中しているか、個人サークルのような少人数部活しか現状天翔学園にはなく、水泳部は後者にあたる。

歴史ある水泳部であってもわずか2~3年で没落してしまうのは天翔学園の部活ポイント制度が主な要因ではあるが、部長でありながら遊び呆ける鷹翌が水泳部の凋落を招いてしまっているといっても過言ではない。

現状部活ポイントのほとんどを鯆澄が稼いでいる状況で、しかしそれだけではランキング降格の恐れが出てしまっている。戦力がたった三人しかいない水泳部では、数で勝るほかの部活には相当な成績を残さないと対抗できないためだ。

次の県大会予選で、鯆澄だけでなく鷹翌か一兎が予選を勝ち抜かないといけない危機的状況となっており、しかし一兎もまだまだ発展途上で確実に計算に入れられないとなると、部長である鷹翌に活躍して貰う必要があった。

竜之介はこの危機的状況を回避すべく彼にこう話かけた。

「鷹翌、ちょっといいかな」

「おう、どうした竜之介。新しいナンパエリアでも見つけたか?」

「今日はその話はなしね。水泳部存続に関する大事なお願いがあるんだけど」
竜之介はそういいながら開いたファイルを閉じる。

「大事なお願い? なんじゃそりゃ」

「鷹翌……部長なんだから水泳部の状況を把握しておいてよ」
困り顔で鷹翌を責める。

「なんかあんのか? いつも通りだろ」

「鯆澄や一兎には頑張って貰っているけどね、そろそろポイントが足りなくなってきているんだよ」

「ああ、そっちの話か。俺にも頑張って泳いでくれって事だな」

「分かってるじゃない。次の県大会予選で、鷹翌には県大会の切符を手に入れてもらわないといけない」

「ったくめんどくせぇなぁ。あんま気分乗らねぇんだよなあ」
 鷹翌は頭をポリポリと掻いて嫌そうな顔をする。

「鷹翌」

「な、なんだよ急に怖い顔してよ」

「気分が乗らなくてもこのノルマは必須だよ。そうしないとランキングが維持できなくなるからね」

「そうなのか? まあでもいいじゃねぇか。多少下がったぐらいなんも変わらんだろ」

「それが変わるんだよ。多分今のままだとこの部室からさようならしなきゃいけない」

「まじか?」

「まじ」

「次の部室はプールから遠くて広さも半分になるだろうね」

「ここはどうすんだよ? プール使わないとこの部室使っても意味ねぇだろ」

「最近部員が増えてきている水球部が手狭らしくってね。ここを上級生用に使うんじゃないかって話が出てるよ」

「おいおい、洒落になんねぇじゃないかよぉ」
ようやく事の重大さに気付いた鷹翌。ちょっと焦っているようだった。

「だから鷹翌に頑張ってもらわないとね。ほんとなら……僕が泳げればいいんだけどね」

「わ、わかった竜之介。そんな悲しい目をするな」

「じゃあそこで欠伸してないでちゃんと泳いでよ」

「しゃあねぇなぁ。ったく、なんでこんなになっちまったんだよ」

「清洲くん」

「う、俺、なんか不味い事いったか!? 名字で呼ぶなんてよ」

「他校から清洲鷹翌がなんていわれているか知っているかな?」

「い、いやわからねぇ。天翔学園のナンパ王とか?」
威圧的な竜之介にたじろぐ鷹翌。

「ふざけてる?」

「スマン! ふざけてません!」

「キミはね、ほんと凄いんだよ。それは分かってる。1年生のとき初出場の予選会でいきなり大会新記録出して全国までいったんだし。それにやる気があるときは余裕で優勝してるしね」

「なんだよ分かってるじゃネェか。ちょちょいとやる気出しゃなんとかなるって」

「でもね、そのやる気があった時がどれだけあった?」

「ん、たぶん……8回かな」
自信なさそうに答える鷹翌。

「3回」

「いや5回……」

「3回」

「そんなに少なかったか?」

「うん。たったの3回だよ。あれだけたくさん試合に出てね。1年生の頃は清洲鷹翌が出てくるだけで他校は勝つのを諦めてたぐらいだったのにね」

「今もそうじゃないのかよ」

「当たり前だよ。1年で2回、2年で1回、3年生になった今一度も勝てていないよ」

「ま、まぁそうだけどよぉ」

「それでね、他校の生徒は鷹翌のことを滅多に当たらない宝くじみたいなもんだから対策も必要ないってね。そう言われてるんだよ」

「俺は宝くじだってのか?」

「まず当たらない……要するにやる気出さないから勝ちはしないってね」

「なんだか腹が立ってきたな。そんなレッテル貼りやがってよぉ」

「だから他校の生徒じゃなくて自分に腹を立ててよ」

「わーってるよ!」

「あと数えるぐらいしか試合はできないんだから、せめて鯆澄や一兎にいいところを見せないとね」

「そうだな。偉大な清洲鷹翌を目に焼き付けてやらないとな」

「もし次の試合県大会まで出られたら、僕が知人から教えてもらったナンパスポットを教えてあげるよ」

「ほんとか!? というかさっきナンパの話はなしって言ってなかったか?」

「それとこれとは話しは別。それに嘘はつかないよ。チェックしに行ってみたところ女生徒が随分多くいたのを確認したよ」

「おお、ほんとにほんとなんだな!!!」

「うん。だから勝ってランキングの維持に貢献してよ」

「よっしゃ! ヤル気出たぜ! マーックス!!」

「マーーーーーックス!」
泳ぎ終わりプールから上がっていた一兎が真似をした。

「先輩、いったいどうしたんですか」
続いて鯆澄がプールから上がってくる。ゴーグルを外すと目が輝いていた。

「おう! 次の予選会は勝つことにしたぜ。なんか勝たないと不味いらしくてな」

「マジすか!? 鷹翌先輩やる気出してくれるんスか!?」
鯆澄が驚きつつも嬉しそうにそう言う。

「そうだよ。水泳部のランキング維持のために鷹翌が一肌脱いでくれるそうなんだ」
竜之介は少し嬉しそうにそう付け加えた。

「うおおおお! 鷹翌先輩の本気が見られるっス!」

「お前、俺の本気そんなに見たかったのかよ」

「見たいに決まってるじゃないスか」

「ふーん、鷹翌って本気じゃなかったの? オレも見たいー!」

「そうかそうか。一兎も見たいか。よし! いっちょやるか。泳ぐぞお前ら!」

「ういっス!」

「鷹翌ぉ競争しよ!」

鷹翌は後輩二人を引き連れるとプールに飛び込んでいった。そして騒がしかったプールサイドが静かになった。

そしてようやく上手く話が進んだ事にほっとした竜之介は、ふたたびファイルを開いてスケジュールの再確認をし始めた。

「ようやく清洲がやる気になってくれたようだね。目処は立ちそうかな?」
事が済んだのを確認したかのように、鷹翌たちがプールに飛び込んだのを見計らい牧がプールサイドにやってくる。

「はい牧先生。なんとかなりそうです」

「いいね。私も一安心だ」

「先生から教えてもらったナンパスポット情報はご褒美として有効でした。しかしこんな情報教師が生徒に教えていいのですか?」

「大丈夫だよ。それっぽい場所だけどね。まずナンパできるような場所じゃないからね」

「確かにそうですね。あそこは第五学区のすぐ近くですからね。あんなところでナンパしたら榊ノ木の女生徒たちから袋叩きですよ。先生も人が悪い」
苦笑いする竜之介。それは想像に容易い結果であった。

「女性が多いのは事実だからね。間違ってはいないだろう?」
にやりとする牧。

「ふふ。予選で勝てたらポイントの量、多めにお願いしますね。たぶんですが鷹翌がちゃんと勝てても当落線上ギリギリかもしれませんので」

「承知するよ。そこは任せておいてくれたまえ」

「ありがとうございます」

「では引き続き部をよろしく頼むよ。花隈のマネジメントが頼りだからね」
そう言うと牧はプールから去っていった。

「鷹翌! ちょっと用があるから部室に戻るよ。ここは任せるから鯆澄たちをしっかり休ませながらトレーニングしておいて!」
竜之介はプールに向かって大声で叫んだ。

「わかったぜ! お前らは泳ぎっぱなしだから少し休んどけ」

「ういっス」

「えーもっと泳ぎたいよぉ」

「一兎、休まないと疲れて泳げなくなるって何度も言ってるだろ? さっさと鯆澄と一緒に上がれ」

「うーん……分かった」

鷹翌たちの返事を確認すると、彼らのやり取りを聞きながら牧に続いて竜之介もプールから消えていったのだった。

END

あけましておめでとうございます。先日呟いた水泳部の話を膨らませてみました。思いつきで特に何も考えずに書いたため、ただの日常のいちシーンを切り取っただけの構成になっておりますがいかがでしょうか?

今後も気まぐれにこういうのを投下出来ればと思っております。リクエストも受け付けますが、頻繁に書ける訳ではないと思いますのでそこはご了承くださいませ。

またここに投下したものは一週間ほどで消します。残すものではないと思いますので。