その時のものを加筆修正しています。
誰も傷つけないようにしたのが裏目に出た。
辿り着いた街でサトルと二手に別れ、互いの買い物を済ませようとしたところ、店先で服が破れたことから吸血鬼であることが発覚。
冒険者や警備の兵を相手にしているところに、スレイン法国の神官が来たのだ。
浴びつけられる罵声。
邪悪な存在が退治されることを期待して、遠巻きに観戦する野次馬。
正義は自分たちにあると信じて疑わない排除の意志が悲しい。
この街で私たちが何をしたと言うの?
キーノの内で巡る感情は、悲しみなのか怒りなのか自分でも分からない。
混乱が隙になったのか。
アンデッドである身に神聖魔法は分が悪く、動きが止まったところを取り囲まれた。
足をすくわれて転倒。
吸血鬼の種族特性で物理耐性を有し痛覚が鈍った肉体ゆえ、武器で打たれても痛みはないが、魔法で自由を封じられて声すら出ない。
地に転がった体に足を踏み乗せ、神官が蔑みの言葉を吐く。
魔法の戒めを破り、肉体の自由を得るにはもう少し時間が必要だ。
逃げるなら……囲みの薄い部分を探り、人と人の隙間に見えた光景に凍りついた。
サトルが燃える目で見ていた。
遠目にも分かる、怒りを表すように展開される巨大な魔法陣。
暴威と死の前触れ。
二人で旅をして初めて、自分の為に彼がしてくれることが怖ろしかった。
ダメっ! と声なき叫びを上げようとして「よそ見をするな!」と神官に顔を蹴られた瞬間、魔法が発動。
「――――という事態が起きないように、ほつれや破れが目立たない服が必要だと思うの」
「キーノの想像力、高っ! 前置き長いよ。新しい服が欲しいなら、そう言えばいいじゃないか?」
サトルは分かってない。
ものごとには大義名分が必要なのを。
それに女の子が男の人に服でねだって良いのは花嫁衣装だけ。
サトルの世界は違うのかもしれないが、日常の服は自分たちで縫い作る。
母から娘へ作り方を習い伝えるのが庶民では普通だ。
でも、人の道から外れた自分は普通じゃない。
母を失った娘は術すら持たない。
だから古くなり過ぎたら、貴族たちのように金を支払って買う必要がある。
以前サトルからは誕生日に火蜥蜴のローブを貰ったけど、これは大事な一張羅だから普段着にはできない。
我がままだとは思わないで欲しい。
吸血鬼だけど私だって歳相応なんだし、破れから肌が見えて恥ずかしいのは、その……サトルが……
うつむき黙り込んだキーノの頭に、骨の右手が乗せられる。
仕方ないなと、しぶしぶの同意を保護者から貰い、少女は後日私物をひとつ増やした。
手に入れたのは赤い服。
血を連想させ、吸血鬼である事を責められるようで嫌いだった色。
でも、誕生日のローブで今はお気に入りになった、私を飾る色だ。