【#8 BIRTHDAY 前編】
私の誕生日はいつになるのかな?
人として生まれた時?
それとも異形となり、心臓が鼓動を止めた日?
そもそも成長しない身体に、誕生日なんて意味はあるのかな。
そう呟いて黙り込んだキーノに、困ったように見ていたサトルが口を開く。
「誕生日ってさ、プレゼントやご馳走じゃないよな。俺は……祝ってくれる誰かが居てくれるだけで良いよ」
詳しくは聞けていないが、サトルは自分と同じくらいの年には独りだったという。
口が重い様子を見るに、幸せな時間ではなかったのだろう。だけど、サトルと同じという点が少しだけ心を晴らす。
「じゃあ、私が祝ってあげる。サトルの誕生日はいつなの?」
「…………」
「…………」
「……い…」
「……い?」
「……五日前だったような?」
「…………」
唐突なサトルの爆弾発言に「なぜ黙っていたのッ!?」と少女が怒り狂い、
数日かけて機嫌が落ち着く頃に吸血姫は1つ歳を重ねた。
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【#9 BIRTHDAY 後編】
異世界の少女キーノと旅を続けて、早くも一年が経とうとしている。
茶釜さんの腕時計が無ければ、流れた時間もあやふやになっていただろう。
そんな時だった。
誕生日の話題で彼女の機嫌を損ねてしまったのは。
自分の誕生日に思い入れがない。
そう答えては、少女が迎えるその日も否定してしまう。
(プレゼントは用意しておいた方が良いだろうな。
しかし、この年頃の娘って何が良いんだ?
こんな事ならギルドの誰かに聞いておけば良かった……)
何か欲しい物はないかと聞こうにも、先日の件で機嫌を損ねてしまい取りつく島もない。
さんざん悩んだ挙句、用意したのは―――
「……赤い服?」
「ROBE of SALAMANDER。炎に耐性を持つ火蜥蜴を素材にしたローブだよ。
アンデッドは炎が苦手だろう?」
サイズが大き過ぎると思われたが、袖を通すとローブは収縮して丁度よくなった。
魔法の衣服なのだ。
(……サトルの匂いが少しする)
吸血鬼の鋭敏な嗅覚が、遠い昔の持ち主を伝える。
彼が今よりも未熟だった頃に着用していたのだろう。
そんな昔の持ち物を大事に取ってあるサトルの貧乏性が、今も変わらないことが可笑しくて。
彼の過去を共有するかのように、プレゼントとして譲り受けたことが嬉しくて。
包まれている幸せに少女は赤くなる顔を隠した。
この火蜥蜴のローブ、ちょっと熱い。
だから仕方なく涙で顔を冷やすのだ。
1000文字以上でないと投稿できない仕様なので
ふたばのスレに投下した時より加筆しています。