【#6 キーノの微笑み】
(俺はペロロンチーノさんと違うんだ。
そもそも俺は胸の大きな女性がタイプであって、これは保護欲というか庇護心!
小さな娘に対する父性というか、妹に対する兄の責任感というか……いや、俺には娘や妹どころか家族そのものが居なかったけどな……)
「サトル、どうかしたの?」
「あ、いやほら、俺の手は硬い骨だろう? キーノを触ったら、痛いんじゃないかと思って……」
とっさに出た誤魔化しの言葉に、上目づかいで少女が首をかしげる。
「そんなことないよ? 痛くないし、もし痛かったとしても大丈夫」
「は?」
「だって、サトルに触られるの嫌じゃないもん」
アンデッドのくせに太陽みたいに眩しく、そして温かにキーノが微笑む。
夜と退廃の似合わない吸血鬼。
(神聖属性や炎属性は弱点だから仕方ないか……)
無邪気な信頼はサトルの骨の身に染みた。
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【#7 LORD OF THE RING】
「病める時も――――ステータス異常しないけどな」
「健やかなる時も――――健康的なアンデッドって、ぷぷっ!」
「死が二人を分かつまで――――死の超越者(オーバーロード)ですが何か?」
「もおっ、サトル! まじめにやってよ!」
ごっこ遊び。
ふとキーノが聞いてきたのだ。サトルの世界はどんな結婚式を挙げるのかと。
(こういう所は、小さくても女の子だなぁ……)
もちろん、二人しかいないので神父役も兼ね役だ。
指輪の交換もサトルの持つ無限の背負い袋(実際は無限でない)に眠っていた、何の効果も持たない金貨4、5枚程度の換金アイテムを使用している。
「ね、これもらっていい?」
「ああ、別に構わないが、指輪を装備するならこんなオモチャでなく、ちゃんとした付与効果を持つものを―――」
偉大なる魔法詠唱者はアイテム鑑定に失敗していた。
この指輪は絶大な効果を持っている。
これから数百年に渡り、吸血姫の想い出を捕らえて、安らぎの中に繋ぎ止める、たった一つの指輪なのだから。
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(※これは「キーノの旅」と関係ないオマケ。文字数が1000超えないと投稿できないので追加)
【PAD BAD END】
ついに怖れていた時が来た。
第九層にある大浴場の更衣室で、シャルティアは石化を受けたかのように硬直している。
なんだあの胸は? エルフとは、もっと華奢な種族ではなかったのか?
「あっ、久しぶりだねシャルティア。元気してた?」
互いの任務のすれ違いでアウラとは顔を合わせない時間もあったが、それでも1、2年足らずであったはず。一体、何があった?
足元が揺れるような不安と引く血の気に、自然と視線が床を向いていた。
震える声を絞り出す。
「……ず、ずいぶんと、見違えたで……あ、ありんすね?」
「ああ、胸のこと? 先週よりも大きくなって来てるんだよね。下着のサイズがすぐ合わなくなるから、調整しやすい結びヒモのにしてるんだよ」
「まっ、まだ成長しているッ!?」
衝撃の余り、敗者からは廓言葉も抜けていた。
時にナザリック暦112年――かつて魔導王アインズ・ウール・ゴウンが下した「しっかり食べるんだぞ?」の指示は大きな実りを結んだ。
後に話を聞いたデミウルゴスは「さすがはアインズ様」と感嘆したという。