大増刷「韓国・フェミ・日本特集」はなぜ売れたか

86年ぶりに3刷「文藝」が売れた理由

空前の韓国文学ブーム、その背景とは?(写真: 丸善 丸の内本店)
2019年、出版界に巻き起こった“韓国文学ブーム”。出版不況と言われる中、韓国文学のヒット作を手がけた編集者たちはそのとき何を思い、このヒットをどう見ているのか?
ブームの火付け役となった『82年生まれ、キム・ジヨン』を刊行した筑摩書房の編集者・井口かおりさんと、「韓国・フェミニズム・日本」特集号が3刷となり、その完全版を単行本として刊行したばかりの河出書房新社の『文藝』編集長・坂上陽子さん、そして韓国文学の翻訳者であり2冊のキーパーソンである斎藤真理子さんに話してもらった(全3回)。
第2回は、ヒットの背景にあった日本におけるフェミニズムの動きについて。

ヒットの背景にあった数々の”事件”

坂上陽子(以下、坂上):個人的には2018年夏に問題となった、東京医大の女性受験者に対する点数操作の問題はすごく大きかったんじゃないかと思います。

井口かおり(以下、井口):『82年生まれ、キム・ジヨン』(以下、『キム・ジヨン』)の準備中の時期とちょうど重なりました。それからその前から続いていたセクハラ問題ですね。官僚とか、伊藤詩織さんの事件とか。それで、みんなの怒りが盛り上がっていた。

斎藤真理子(以下、斎藤):東京医大の件は、建前では平等になっているはずのところがガサッと崩れたので、何か底が抜けたような。『キム・ジヨン』が出た頃に東京医大絡みで順天堂の記者会見が重なって、SNSがすごいことになっていて。『キム・ジヨン』を編集して刊行するまでの間に、どんどん日本のそういう面が露呈していきました。

井口:順天堂の記者会見では、女性はコミュニケーション能力が高いから、男性に下駄をはかせるとか言ってて。

斎藤:みんな「ざけんじゃねえよ」みたいになっていましたよね。

坂上:私自身もフェミニズムは体系的に学んでいないし、運動としても関わってこず、正直、傍目というところはあったんですけど、東京医大の件で、ほぼ初めてフェミニズムを意識して愕然としたというか、ここまでだったのかという。

斎藤:あれでグッと間口が広がったと思います。

次ページ文学とフェミニズムの関係性
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
  • ニッポンの出産は安心・安全なのか
  • インフレが日本を救う
  • 今日も香港から
  • 今見るべきネット配信番組
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
3

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

ログインしてコメントを書く(400文字以内)
  • にゅん*804a29927fde
    >「フェミニズムについて、勉強しないと発言できないみたいに思ってた人も多かったかもしれない」
    知らんがな笑

    女が女を縛る、いかにも女社会の風潮。
    それは勝手にやっててもらえばいいとして

    発言に
    「〜みたいに」「かもしれない」
    こんな責任逃れられる伏線を張ってるうちは

    自称フェミニストが理想とする世界はまだ遠いですね。


    up12
    down4
    2019/12/30 07:24
  • からころもbc29c03168a9
    >“民間外交”としての文学

    日韓関係の“悪化”に伴って“民間外交”での関係“改善”を図る人を聞くようになったけど、韓国社会の全体的なベクトルが「親日有罪」「対日レイシストに非ずんば韓国人に非らず」系であり、韓国の教科書が左派による洗脳教育に成り下がっている現状などを鑑みると、骨折り損のくたびれ儲けで終わるんじゃないかなぁと。

    日本社会が韓国関連で考えるべき事は、対中防衛線が三十八度線から対馬海峡に変わる事への対応や、中国支配を嫌う香港人が香港から出て行ったように中国支配を嫌う韓国人が韓国から出て行くだろうから、其れらの韓国人が日本に来ないよう予防措置を取る事など。

    韓国のIMF事例などを鑑みれば、韓国を助けたところで逆恨みされるのだから助けないのが正解なんだよ。
    up5
    down2
    2019/12/30 07:58
  • 東洋経済購読マンa6605f19310f
    文学が売れない時代だから大変だね。
    あの手この手で売ろうと、努力しているのがヒシヒシと伝わってくる。
    韓流好きに上手く当たった訳だ。
    ただ、韓国だからと今後も売れることはないだろうから、苦労は続く。
    up5
    down2
    2019/12/30 05:45
トレンドウォッチAD
2020大予測<br>編集部から(3)

主要業界とともに、わが出版業界のあり方も変わります。これまではコンテンツの「届け方」の革新により、ネット化(=スマホ化)が進みましたが、2020年代は改めて「肝心の中身」が問われる時代になると思います。読者の皆様の評価を意識して、挑戦を続けます。(山田俊)