「アメリカンドリーム」を実現した富豪が資本主義の危機を訴え始めた。1600億ドル(約17兆円)を運用する世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者で、著名投資家のレイ・ダリオ氏がその一人だ。資本主義の体現者ともいえるダリオ氏に現代社会の抱える問題と解決策について聞いた。
「世界二極化、1930年代と似る」
――いま世界の資本主義の形が大きく変貌しているようにみえます。どのような力が働いているのでしょうか。
「1930年代以来みられなかった3つの大きな力が現在、資本主義に影響を与えている。第1が富の格差だ。富の偏在がポピュリズム(大衆迎合主義)を生み、資本主義者と社会主義者の分断にもつながった」
「第2に金融政策の効力の低下だ。景気刺激のために紙幣を刷ることは資産価値を押し上げても、経済の末端まで浸透する景気浮揚にはつながらない。金利がゼロ%、あるいはマイナスになっても社会全体を活性化できていない」
「3つ目は世界における既存の秩序に対抗する新たな勢力の台頭だ。米国の覇権に、中国が対抗しようと勢力を拡大しているのがその例だ。(世界の政治が二極化した)1930年代とよく似ている。3つの力が互いに作用し合って、資本主義の形に影響を及ぼしている」
――米国では富の格差が社会問題になっています。なぜ格差は広がったのでしょうか。
「まずテクノロジーの発展によるところが大きい。資本主義は収益を出すことが目的であり、人の代わりにテクノロジーを使うことが優位になりつつある。次に企業は収益改善のために世界のどこにでも行くようになった。中銀による金融資産の購入で、資産家だけが恩恵を受けてもいる」
「経済成長が社会全体に及ぶようになっていないため、今の資本主義は国民の大半が不公平と感じるシステムになった。米国では所得が上位40%の国民が費やす子供の教育費は、残りの60%がかける教育費の5倍にのぼるという統計がある。機会の平等が実現できなければ革命が起きるだろう」
「公教育、地域や企業と一丸で」
――理想の資本主義を教えてください。
「パイの大きさを拡大すると同時に、富を適切に配分できる生産性の高いシステムだ。言い換えると3つの段階に分けられる。まず国民に平等な機会を与える。次に経済的な繁栄を一部の人だけではなく、すべての人に行き渡らせる。最終的に全体のパイが拡大し、分配も増える」
――理想の資本主義を実現するにはどうすればいいですか。
「私の財団とコネティカット州、地元企業が組み、それぞれ1億ドルずつ拠出して教育機会に恵まれない子供の公教育を支援するプログラムを立ち上げた。こうした政治家と地域住民、企業などが共同で作業する委員会が広がり、一丸となって対策を講じていく必要があると思っている」
「逆境の資本主義」 1月1日連載スタート
日本経済新聞は1月1日、連載企画「逆境の資本主義」を始めます。約400年の資本主義の歴史を振り返りつつ、その未来を考えます。様々な課題に直面する資本主義の処方箋を探るべく、取材班は世界各地に足を運びました。専門家へのインタビューや豊富なデータ、現場の映像を交えて、資本主義の行方を探っていきます。
▼連載開始に先行してインタビュー記事を公開しています。
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