コツコツコツと小さな足音を響かせて、大扉の前へ立つ。
天使と悪魔の像が彫られたその大扉は、平常通りに重量感のある身をゆっくりと動かし、玉座の間へ入ろうとする訪問者を受け入れる。
「こ、これは……。酷い有様、と言うべきかしら?」
二本角の女は、殺風景な空間を眺めて言葉を零す。
大扉の先にあった空間は、巨大な四角い広間であった。装飾品など一つもなく、天井を支えるはずの柱もない。豪華なシャンデリアも魔化金属糸で編まれた旗も、塵の一つすら見つけ出せそうにない。
記憶にある“玉座の間”とは、全くの別物と言えるだろう。
ただ、不変な場所もあるようだ。
黒い翼を備える女の視線が捕らえるは、水晶の玉座に座る骸骨大魔王の雄々しい姿。頬杖をつき、何やら物思いに耽っているかのような愛しき旦那様の御身である。
「モモンガ様、人間どもの切り札とやらは如何でしたか? 御満足のいくモノでありましたでしょうか?」
「ん、ああ、アルベドか。……そうだな、人間が用意したにしては悪くなかったと言えるだろうが」大魔王はのそりと身体を起こすと、何故かバツが悪そうな口調で人間の悪あがきについて話し始める。
「竜王国の女王が“始原の魔法”を用いて階層を破壊しようとしたのだ。そのアイデア自体は悪くないし、思い切りの良さも評価できる。他に選択肢もないだろうしな。とは言っても、“諸王の玉座”がある階層を破壊しようとはなぁ。一旦制止して、他の階層で仕切り直せば良かったかもしれん」
ぐぬぬと唸る魔王が語るように、
玉座を飾る場所として“世界”に近い加護が与えられ、ある種の別世界となるのである。故に破壊しようと思うなら、世界級アイテムを破壊するつもりで行わなければならない。
モモンガとしては、ギルド解散でダンジョン化している状況での“始原の魔法”直撃であったために『もしかして』と期待半分で経過を観察していたのだが、結果は非情なまでに予想通りであったのだ。
『悪いことしたかなぁ』とモモンガは、完全消滅した竜王国女王にらしくない情けの言葉を漏らしてしまう。次元の狭間に落とされる――という貴重な体験を逃してしまった後悔と共に。
「それでは父上、これからどうなさいますか?」
『いつからそこに居たの? 別に居なくても良かったのだけど』という視線をぶつけてくるアルベドをさらりと躱し、埴輪男が玉座の後ろから声をかけてくる。
「これからか……」
世界の最終防衛軍たる勇者軍が壊滅した今、魔王を止める手段は残されていない。生き残った“真なる竜王”や自己保身に走ったプレイヤーが無駄としか思えない抵抗を見せてくるだろうが、大舞台から降りてしまった役者に過度の期待はできないだろう。
逃げ回る羽虫を追い掛け回す、くだらない展開しか視えてこない。
「パンドラ、外の様子はどうなっている? あけみは何をしているのだ?」
「はっ、あけみ様は大墳墓の外で待ち構えるつもりのようです。今はお粗末な結界を周囲に張っている途中でございますが、特に警戒する必要はないかと」
「そうか、ならば準備が終わった頃に出て行ってやろう。だがその前に」モモンガはアルベドへ意識を向け、一つのお願いを口にする。
「アルベド、生き残っているナザリックの者たちを此処へ集めてほしい。やりたいことがある」
「かしこまりました、モモンガ様(愛しい旦那様!)」
統括という立場ではないにも拘らず、アルベドの対応は昔のままだ。そして〈
野良NPCなのに何故なのだろう? これは生まれに関係するのだろうか? 誕生した瞬間から受け入れていた立場に身を置くほうが楽なのかもしれない。『そうあれ』と創られたが故の行動なのだろう。
「モモンガ様、上層にて迎撃に当たっていた者、九階層や大図書館に避難していた者、全て集まりましてございます」
玉座しか残されていない殺風景な広間に、異形の集団が再び集う。
「こ、これは何がありんしたでありんす? ここは……玉座の間でありんすよねぇ?」
「ちょっと離れていただけなのに空っぽって、どうなってんの?」
「え、えぇ~っと、あけみ様が何かしたのかな? で、でも何をしたんだろ?」
「柱ゴト無クナルナド異常デアロウ。破壊ノ痕跡スラ見テ取レヌ」
「……やはりこうなりましたか。予想はしていたのですが、まぁ、モモンガ様がご無事であるのなら、何も言うことはありませんね」
変わり果てた最深部の様子に、元守護者たちからは驚愕の呟きが漏れる。セバスやプレイアデスなども、何もない巨大な空間に視線が泳ぐばかりであった。
「みんな、よく集まってくれた」玉座の間の変化など気にするな――と言わんばかりの大魔王は、従う必要などない己の言葉を聞き入れ、集まってくれた異形の集団たちへ一つの提案を口にする。
「私はこれから外界を蹂躙するつもりだ。しかしながら、世界を全てとなると十年以上はかかるだろうから、しっかりとした拠点を用意すべきと考える。そこでこのナザリック地下大墳墓を、再びギルド拠点に再設定しようかと思うのだが、どうだろう?」
「おおぉ、素晴らしきお考えです、父上。つきましては、私にギルド武器の製作をお任せいただければ……」
「夫の意向に賛同しない妻などおりませんわ。新しきギルドの設立、良きご判断かと」
「妻などという妄言は別にしんして、再びモモンガ様と繋がれるのは嬉しいでありんす」
「ギルドかぁ~。あ~、でもこの場合……」
「う、うん、どうなるんだろうね、お姉ちゃん」
魔王の提言に反対の意を示す者は居ないようだが、それより気にかかっている事柄があるようだ。それはギルドを作った場合の立ち位置。モモンガ様にどのような形で忠誠を捧げることが出来るかである。
「トイウコトハ、モモンガ様。我々ハモウ一度、僕トシテオ傍ニオ仕エデキルノデショウカ? “アインズ・ウール・ゴウン”ノ時ト同ジヨウニ……」
皆が気にしていた内容をさらりと口にしたのはコキュートスであった。
その口調からは、シャルティアやアウラがギルド解散時、深い絶望に浸っていたことなど知る由もないと言った感じである。
もう一度拒絶されたら――とは思わないのだろうか?
「何を言っているんだ? 前と同じように僕にしてしまっては、システムによる忠誠が植えつけられるだけだぞ。せっかく自由になれたというのに、再度束縛するなど愚行でしかない」魔王の冷静な発言に、元僕たち――中でも一般メイドらの表情が曇る。メイドにとって御主人様の存在は絶対だ。ギルドという枠組みの中で、主従を確立させてくれるのであれば望外の喜びである。とはいえ、現時点においてモモンガ様に仕えることを否定されたわけでもないので、『僕にしてほしい』とは我儘だろう。“自由”を与えられただけでも恵まれていると言うべきだ。
「それより名前だ。新しいギルドの名称はどうするべきか? 何かお勧めはないかな?」
気落ちしている元僕たちの心情を察することなく、モモンガは問いかける。
「ギルド名称でございますか……? それでしたら」豊富な知識を武器に、デミウルゴスがお役に立とうと多様な言葉を並べはじめる。だけど少しばかり難解で、モモンガを湛えようとする美辞麗句がこっそり潜ませてあるので採用しにくい。ウルベルトっぽい拗れた感じもちょっと困りものだ。出来ればもっとシンプルにしたいところだが……。
「大魔王様ノ居城ナノデ、イッソノコト国――『魔王国』トシテハドウデショウ? モシクハ魔王様ノ支配スル世界――『魔界』モ素晴ラシイカト」
「「「おおぉぉ」」」
元守護者たちが様々な提案を行う中で、コキュートスの言葉に歓声が沸く。
「なるほど、ギルドそのものを一つの国家、世界とみなすわけか。面白い発想だな」
ふむふむと頷く魔王様を前に、異形の化け物たちは口を閉ざし、深々と首を垂れる。後はモモンガ様の御心のままに、と言った感じであろうか。
「よし、今からギルドを構築する」モモンガは“諸王の玉座”に意識を向け、ナザリック地下大墳墓の管理システムを呼び出す。
「簡易マスターソース・オープン、ギルド作成を選択、ギルド名は『魔界』。ギルドマスターはモモンガ、そして――」
モモンガは操作の手を止め、跪いている数多の異形たちを見つめる。
「この場に居る者たちを、ギルド加入の同意をもってギルドメンバーとする。さぁ、ギルド『魔界』に入っても良いと思う者は、意識の中で選択せよ」
はっきり言って意味不明であった。
大魔王様がどんな作業をしているのか? 何を作っているのか? 何を仰っているのか? 訳が分からなかった。
加えて頭の中に『ギルド“魔界”に誘われました。ギルドへ加入しますか? はい/いいえ』なんて何者かのメッセージが浮かんでしまうと、パニックになってしまうのも仕方がない。
「こ、これは? モモンガ様のプロポーズかしら? もちろん答えは決まっているけど」
「うえぇぇ~、ギルドの加入なんて、し、僕のわらわにそんな資格がありんしょうかえ?」
「ギルドメンバーって至高の御方のこと……だよね。そうだよね! あ、あたしがぁ?」
「どど、どうしようお姉ちゃん? 選んじゃうと不敬なのかな? そ、それとも、選ばないと不敬なのかな?」
「皆落チ着ケ。モモンガ様カラ直接オ誘イ頂イタノデアレバ、加入スルノガ当然デアロウ」
「その通りだと思うよ。モモンガ様は我々を僕ではなく、ギルドメンバーとしてお傍においてくださるわけだ。ふふ、流石は至高の御方々の頂点たる御方」
「では紳士淑女の皆様方、しっかり己の考えで選択しましたか? ああ、もちろんギルドに属さないという考えもありですよ。その場合でも父上から不利益を与えられる、なんてことはありません。自由にお選びください」
混乱を極める化け物集団の中にありて、パンドラの呼びかけは一つの後押しになったのかもしれない。
迷いに迷っていたセバスやプレイアデスを皮切りに、一般メイドや料理長、大図書館の司書たちなども意識の中に浮かぶ選択肢を選んでいく。
眠っていたルベドも姉たちの行動を無意識の内に察し、追従するようだ。
ただ、自由意志のない
「ふふふ、全部で八百六十三人か。システム度外視の人数だな。“悟”が聴いたらなんというか……。それより恐怖公、無限召喚で呼び出した配下は全て僕扱いでいいのか? 知性ある配下も居るのだろう?」
「お気遣いありがとうございます、モモンガ様。ですが吾輩の召喚僕をギルドメンバーにするのは問題かと。モモンガ様の召喚アンデッドと同じ扱いでお願いいたします」
「まぁそれもそうか。召喚者の命令に逆らえない時点で、自由意志を持っているとは言えんしなぁ。さて」
前線へ出ていたのに運よく生き残った直立するゴキブリ――恐怖公は、シルバーゴーレム・コックローチの傍で恭しく頭を下げる。
そんな恐怖の権化に軽く頷き返したモモンガは、玉座から立ち上がると、膨大なギルドメンバーを前にして、新たなギルドの結成を宣言するのであった。
「ギルド“魔界”の誕生だ! ギルドメンバーたちよ、宜しく頼むぞ!」
「「「はっ! モモンガ様!!」」」
ギルマスとギルメンの関係性としてはちょっと違うような気がしないでもないが、揺るぎなき忠誠心と共に跪くアルベドたちは、正式にギルド“魔界”の構成員として登録された。もちろん、同じギルドに所属する仲間としての気配も復活している。
周囲に目を向ければ、壁面などがぼんやりと発光しており、薄暗かった玉座の間が生気を取り戻したかのようだ。――大墳墓の表現としては相応しくないかもしれないが。
どうやらナザリック自体がギルド拠点としての機能を復活させたのだろう。アインズ・ウール・ゴウン時代から置きっぱなしであったトラップやフィールドエフェクトも、そのまま取り込んだものと思われる。
マスターソースで確認すれば、自動沸きモンスターの再配備も可能のはずだ。ただその時は、ある一定量の金貨を消費しなくてはならない。
遥か昔、悟と共にナザリックの防備について苦悩したことを思い出す。
「パンドラ、ギルド武器に関しては、仮として
「はっ、鍛冶長と協力してぇ史上最高のギルド武器を作り上げてみせましょう! して父上、形状は武器でしょうか? それとも防具系に?」
「そうだなぁ、前々から考えていたんだが、頭部の防具――王冠を作ってもらおうか。勇者と出会ったとき、私が魔王だと分かるようにな」
心配しなくとも一目で大魔王だと認識される“
「では、あけみの歓迎を受けに行くか。一緒に来たい奴は付いてくるといい」
「愛しのモモンガ様、せっかくですからギルドメンバーのお披露目といきませんか? 地上へ出たことのない者たちも多いですし、新生ギルドとしての初クエストですから」
「クエスト……か。そうだな、初クエストには大きなことをやるものだからな。皆で地上の連合軍に挨拶といこう」
膨大な魔力に満ちた豪華なローブをバサリと舞わせ、魔王はアルベドの提案を受け入れる。と同時に、モモンガは『変わらないな』と美しき白い悪魔を見つめてしまう。
もはや守護者統括ではないはずなのに、皆の意見を纏め、提案してくる様は設定によるものなのだろうか? 一般メイドなどが喜んでいるところからすると、ギルドが解散してからも統括として様々な意見を汲み上げていたようだが……。新ギルドでも補佐役として、精力的に動くつもりなのかもしれない。
何処に所属しようとも人格自体に影響はない――か。
ならばギルドが変わっても、負うべき役割に変化は無いのであろう。
「セバス、ペストーニャ、プレイアデスは一般メイドら非戦闘員を護ってやってほしい。外はいろいろと物騒だからな」
「はっ、非戦闘員、生産職の者についてはお任せください」
「可能な限りの防御結界を張っておきます――わん」
「桜花の……、いえ、
オーレオールの何気ない一言に、モモンガは『ああ、そうか』と新ギルドになってからの変化を感じる。
(新しいギルドなのだから聖域や役職などは過去のモノか……。とはいっても、いきなり不慣れな作業をさせても効率が悪いな。ひとまずは前の役割を続けてもらい、後ほど修正するとしよう。まぁ、今はギルメンなのだから、やりたいようにやってもらえばよいか)
昔のように一から十まで指示する必要などない。ギルドメンバーは己の意思で行動し、判断する存在なのだ。
蹂躙したければ行えばいい。
配下に組み入れたいのであれば誰の許可も必要ない。
モモンガはギルマスとして世界を滅ぼすための『長期旅行』へ出向くが、ギルメンが同行するかはそれぞれの自由意思に任せられている。
好きに生き、好きに死ねばよいのだ。
どうせこの世は、大魔王様の支配する“魔界”となるのだから……。
「さぁ、新生ギルドのお披露目だ。地上で待っている連合軍の期待に応えるぞ!」
「「「はい、モモンガ様!!」」」
いや、連合軍は期待なんかしていないから、そのまま大墳墓の奥で引き籠っていてくれ――とジルクニフが言いそうな突っ込みを聞くこともなく、魔界の住人は動き出した。
蹂躙劇の始まりである。
そう、世界の終わりである。
◆
「あけみ様、見えてきました! くそっ、人影が複数、敵は一体ではありません! あ、あれはっ!?」
墳墓の奥から這い出てくる魔神へ特攻しようとしていた槍使いは、その先頭にいるアンデッドを見て槍の穂先を下げてしまう。
恐るべき神器を纏う骸骨。
死を予感させる闇を率い、紅い瞳で全てを視通す。
かつてのスレイン法国襲撃戦で見かけた、神をも超える“
槍を向けようとしても心が萎えてしまう。両の脚に力が入らず、跪きたい衝動に駆られる。
こんな時こそ気合の入った大声を上げ、己を発奮させねばならない。後方には満身創痍の連合軍が残されているのだ。自分がくじければ、数え切れない犠牲者で大地が埋まろう。
だけど……無理だ。
声は出ない。
足は動かない。
槍は地面へ向けられ、持ち上げられない。
これが恐怖――抗いようのない確実な死。
今まで駆逐してきた亜人たちも、こんな恐怖を感じていたのだろうか?
「あ~、駄目だったかぁ。女王様の命を懸けた一撃は無駄だった、ってことかな、モモンガさん?」
「無駄ではないだろうさ、それなりに私を楽しませてくれたのだからな。それより結界が邪魔で全員が外へ出られん。無効化させてもらうぞ、……アウラ」
「はい、モモンガ様。“
「えっ?」
驚くあけみを余所に、ひょこっと出てきた闇妖精は巨大な巻物を輝かせる。
世界級アイテム“
次元の異なる別世界を創り出し、そこへ任意の対象を閉じ込めることが可能なサポート系アイテムである。
世界級を持っていれば閉じ込めを回避できるが、別世界へ自分から入り込むことも可能。そして当然ながら元の世界で構築していた結界などは、“
アウラが創り出した荒野の世界には、無防備な連合軍が立ち尽くすばかりである。
「な、なに? これは、いったい?」
「あけみは初めてだったか? まぁそんなことはどうでもよい。それより紹介しよう。新しく設立したギルド“魔界”のギルドメンバーたちだ」
「あ、あたらしい、ギルド?」
墳墓が消え草原が消え、新たに生み出された石と土の大地。そんな殺風景な荒野に、千に近い異形種集団が立ち並ぶ。
先頭の骸骨魔王に多様な悪魔、蟲王に闇妖精、吸血鬼や人間にしか見えないメイドたち。奥には巨大なドラゴンやさらに大きなゴーレムが見える。変わり種としてはペンギンやゴキブリか。
あけみは見知った顔や知らなかった化け物どもを見据え、その幸せそうな一体感に強い嫉妬心を覚えてしまう。
「あぁそう、私たちは死を覚悟してこの場に立っているっていうのに、モモンガさんは家族ごっこ? ホントにもぉ、余裕で羨ましいわっ」
「家族か……。そうだな、ギルドは一つの家族と言ってもよいだろう。お前も加わるか?」
「ぅえ?」
モモンガの勧誘に大した意味はない。
これから世界中で殺戮するのだから、その内の何名かが身内になろうとも特段気にするようなことではない。それに前のギルドとは違い、ギルド“魔界”に加入条件などないのだ。魔王様に付き従いたければそうすればいい。逆に内乱を起こしたいのであれば、ペンギンと協力するのも有りだろう。
そう、自由にすればいいのだ。
しかし当然だが、魔王様も自由に襲い掛かってくる。まずはその襲撃を生き延びてから、ギルドへ勧誘してもらえるよう行動しよう。常人には無理だと思うが。
「モ、モモンガさん、私をギルドに誘ったとしても、貴方がこれからやるのは虐殺でしょ? 世界中の人々を殺しちゃうんでしょ? そんなことに何の意味があるの?! 世界を滅ぼした先に、いったい何があるというのよ!?」
滅ぼされる側であるならば、一度は感じる疑問であろうか? この世の全てを滅ぼす大魔王は、崩壊した広大な大地を眺めてどんな感想を述べるのだろう。
「先だと? ふむ、そうだったな。では、少し問うとしようか」魔王は人間の連合軍が恐怖の視線を向けてくる中、あけみへ軽く語り掛ける。
「あけみよ、この世界で宙に浮いた経験値はどうなると思う? 冒険者や
「はぁっ? けいけんち――って、えっ?」
「私はこの世界が確保していると思っている。世界中で毎日発生する膨大な経験値は、世界の手に入り、長きに渡り貯めこまれているはずだ」
訳の分からない話だ。だけど経験値らしきものが存在することは察している。死者復活による生命力の減衰、それを取り戻すためのモンスター討伐。高位冒険者ならば知り得ている事実だ。
「世界は百年間経験値を貯め込み、ある日それを使用する。異世界から強大な“力”を召喚するために」
「ちょっ、それって、百年ごとの揺り返し?」
「そうだ。我ら“プレイヤー”、そして“真なる竜王”。どんな利用価値があったのかは知らないが、世界は百年分の経験値を消費して神のごとき大規模召喚を成したわけだ」
荒唐無稽であろう。信じるに値しない妄言だ。相手が大魔王でなければ。
「そ、それが事実だったとして、モモンガさんにどんな関係が?」あけみは疲れていたのだろう。少し考えれば気付いたはずだ。魔王が嵌めている悪魔のごとき籠手、その特殊な能力に。
「簡単なことだ。私は世界中のありとあらゆる存在を殺し、この“強欲”に経験値を吸わせる。その総量は浮いた百年分に勝るであろう。――であるならば、異世界への扉もこじ開けることが出来るに違いない」大魔王は骸骨でありながらニタリと笑い、真の目的を高らかに告げる。
「全世界の経験値を捧げて〈