なぜ社会の底辺にいる人々は「見えない」のか

「7つの階級」調査が示す「貧困ポルノ」の誤り

社会階層の最底辺にいる人々は存在していないとみなされ、今日の社会的不平等と階級格差の実態をわかりにくくしている(写真:Moussa81/iStock)  
イギリスBBCが実施し、イギリスで過去最大規模となった階級調査がある。調査が公表された後、劇場チケットの売り上げが突然激増するなど、イギリス人の行動を劇的に変えた話題の調査結果が、『7つの階級:英国階級調査報告』というタイトルの書籍として翻訳出版された。
「7つの階級」の最上層にいる「エリート」について紹介した前回記事に続き、最下層にいるプレカリアートについての記述を本書から抜粋・編集してお届けする。

見えない人々

社会階層の最底辺に位置するプレカリアート階級は、経済資本、文化資本、社会関係資本のいずれも、その蓄積が非常に少ない階級である。

『7つの階級:英国階級調査報告』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

年収は数千ポンドで貯蓄や資産も極めて少ない。英国階級調査への参加率は極端に低く、この階級は人口の約15%を占めるにもかかわらず、階級調査でプレカリアートと算出されたのは参加者全体の1%に満たなかった。

英国階級調査では、プレカリアートは「行方不明の人たち」である。階級調査に興味を持ち積極的に参加したのは教育レベルの高いエリート層で、プレカリアートはそうではなかった。

これは驚くことではない。文化資本を多く所有する人たちは、自分の文化的知識と自信を示すために英国階級調査を利用していたからだ。プレカリアートは底辺に位置づけられるため、社会の最下層であることの科学的おすみつきを喜ぶ人はいないから、参加率が低いのだと予測された。

現代の階級間の関係を明らかにするためには、この姿が見えない人々の実像を知らなければならない。

エリートは人々の関心の的で、メディアの報道や社会的研究の中心にあるが、プレカリアートの存在は視野から消え、今日の社会的不平等と階級格差の実態をわかりにくくしている。

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  • 賞味期限切れのもやし40e6cb161a46
    日英は遠く離れているが、同じ日本人同士英国人同士よりも、日英のエリートと日英のアンダークラス同士の方が共通点が多く見えるから、このような階層の分断は世界史的なテーマだとつくづく思う。
    あと、さすがにLSEの教授だからか安易なレッテル貼を戒めているところは日本のマスコミよりも高級に思う。少し前に地方の若者を「マイルドヤンキー」呼ばわりしたり、今年は親と同居している青年男性を「子供部屋おじさん」呼ばわりしているマスコミもあったが、その手の安易なネーミングが分断をさらに深めるということをこの教授は理解している。
    up61
    down0
    2019/12/27 10:44
  • ぁえいんど25d0e0cf801b
    日本もこのような分析をして欲しいものだ。
    英国は端から階級があると認識しているからまだいいのかもしれないが、日本はみんな平等、みんな同じはずから始まるからややこしいでしょうね。でも、英国と同様な人々と侮蔑は蔓延していますからね。
    ぼーっと生きてんじゃねーよ、と公共放送が恫喝する日本ですから。
    up38
    down2
    2019/12/27 10:05
  • 彷徨える田舎者d2d9793b6340
    基本的にアンダークラスは政治参加もしないでしょうし
    この層への政策は労働者階級からの支持も得られず
    資本化階級からの支持も得られず
    一握りのリベラルからしか支持がないので
    様々な対策を講じるのは難しいでしょうね

    労働者階級ですら本来支持されるべき労働党は
    都市の裕福なリベラル層に重きをおいたせいで見捨てられて
    結果的に労働党の歴史的大敗に結びつきましたし

    社会に声を伝える政治基盤がないと
    アンダークラスに救いはなさそうな気がします
    up19
    down0
    2019/12/27 12:14
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