性暴力の被害者を「嘘つき」扱いする男の不見識

「女性視点の映画」を男性監督が撮る意義

2016年にアメリカで実際に起こった女性キャスターへのセクハラ騒動を描いた映画『スキャンダル』。主演はシャーリーズ・セロン(左)、ニコール・キッドマン(中央)、マーゴット・ロビー(右)。シャーリーズ・セロンの特殊メイクを手がけたのはメイクアップアーティストの辻一弘氏。(写真:Hilary Bronwyn Gale SMPSP)

伊藤詩織さんの勇気ある行動のおかげで、2019年は日本の「#MeToo」元年となった。「#MeToo」のハッシュタグが生まれたのは、ハーベイ・ワインスタインによる長年のセクハラやレイプが暴露された2017年。だが、その1年前にも、アメリカでは、権力を持つ男がセクハラで訴訟され、会社を追いやられるという出来事が起こっている。

その男は、FOXニュースチャンネルの元会長兼CEOのロジャー・エイルズ(故人)。超保守派でトランプの友達でもあった彼は、ヒラリー・クリントンを強力に支持していたリベラル派のワインスタインと一見正反対のようだが、立場を利用し、女性たちに望まない行為を強要したのも、拒否されれば職を奪ったのも同じだ。

男性監督が「女性視点の映画」を撮る意義

現在アメリカで公開中の『スキャンダル』(日本公開は2020年2月21日)は、その裏側を描く実話映画。主要な登場人物は、訴訟を起こしたキャスターのグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)と、やはり彼のセクハラに遭ってきたもうひとりの有名キャスター、メーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)、複数のセクハラ被害者を組み合わせた架空の若手社員ケイラ・ポスピシル(マーゴット・ロビー)の3人。セクハラを受けるのがどんなことなのか、声を上げるのがどうして難しいのかを女性の視点から語る今作は、興味深いことに、監督も、脚本家も男性である。

ハリウッドでは、近年、「女性監督をもっと起用すべき」との批判が高まっているだけに、ここに疑問を持つ人は、当然、多いだろう。だが、そもそもこれは、ワインスタイン暴露事件が起こる前にチャールズ・ランドルフが脚本を書いたところから始まったもの。その脚本がシャーリーズ・セロンのプロダクション会社に回ってきた時、セロンが監督を依頼したのが、ジェイ・ローチだったのだ。

脚本家のチャールズ・ランドルフ(左)と監督のジェイ・ローチ(右)(写真:Vera Anderson /WireImage/ゲッティイメージズ)

セロンとローチは以前からの友人で、当初、セロンは、純粋に友達としてローチに脚本への意見を求めた。しかし、話すうち、いかに彼がこのストーリーに情熱を持っているかを感じたセロンは、彼こそ正しい監督だと思ったのだという。

「シャーリーズがこれを監督してくれないかと聞いてきた時、僕は『女性監督のほうがいいんじゃないの?』と言ったんだよ。それに対して、彼女は、『この話は、男と女が一緒に語らなきゃいけないの』と言った。それで僕は、彼女に、『君が真のクリエイティブ・パートナーとして本当の意味でトップに立ってくれるなら、やる』と提案したわけさ。実際、彼女は、出演シーンがない日も現場にいたし、ショットやセリフについて自分の意見を常に言ってくれたよ。だから、正確に言うと、これを男ふたりが作った映画と考えるのは、違うんだよね」(ローチ)。

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  • 安吾a0bef95dddf4
    伊藤詩織さんは、この問題を一緒に考えましょう!と社会に向けて発信しているのに、山口氏の応援団は、多くは誤解にもとづくあげ足取りに終始して嘘つきの大合唱。醜悪ここに極まれり。どうか来年は伊藤さんにとって良い年でありますよーに。
    up55
    down16
    2019/12/28 06:07
  • リベラル@日本669091de984e
    何の落ち度もないのに被害に遭った女性たちが救われる世の中になってほしいですね。
    up42
    down13
    2019/12/28 07:15
  • yokota53999ad0c090
    被害者を減らす。それは加害者を減らすこと、加害者にならないことが大切だと思う。
    自分は違うと思う人も、知らないうちに加害者になってないか、加害者の手助けをしてないか、セカンドレイプしてないか、自問自答してほしい。女性もそんな男性を容認してないか、助長してないか、考えてほしい。
    涙を流し、震えながら、おびえながら、勇気を振り絞って声を上げている人たちのことを、もっと考えてほしい。彼女たちは勇者なのだから。
    up14
    down1
    2019/12/28 14:07
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2020大予測<br>編集部から(1)

大量の校正用ゲラを読み終えた帰りの電車。見渡すと、やっぱりスマホですね。ゲームの類いか、40代、50代も皆必死の形相です。特集の作家・髙村薫さんの言葉のように、私も誰かの陰謀だと思うことにしました。目を覚ましてほしい、そのためになる一冊です。(堀川)