今の時期、スーパーに行くと目玉商品として牛肉が並べられています。聞くところによると一年で最も牛肉が売れるのは年末だとか。お正月の定番として〈すき焼き〉が仲間入りしたのがいつ頃からなのかははっきりしませんが、多くの方が楽しんでいるようです。
すき焼きは食べる人に調理を任せられるので、とても簡単な料理です。すき焼きには関東風と関西風の2つの流儀がありますが、今回は関東風をご紹介します。コツは低温で加熱すること。低温で加熱することで霜降りの薄切り牛肉が最高のおいしさに仕上がります。
きのこすき焼き
黒毛和牛…300g(すき焼き用。ロース、肩ロース、もも肉など)
舞茸…1パック
しめじ…1パック
春菊…1パック
長ネギ…1本(玉ねぎでも)
牛脂…1個(スーパーでもらえるもの)
■割下
みりん…200cc
日本酒…100cc
醤油…50cc
溶き卵…2個
1.割り下をつくる。みりん、日本酒、醤油を小鍋に入れて強火にかけ、沸いたら弱火に落として10秒間煮て、冷ましておく。(割下は冷蔵庫で一週間ほど保存可。煮物などの味付けに使える)
2.すき焼き鍋、あるいはフライパンなどを中火にかけ、牛脂を溶かす。脂が馴染んだら肉を一枚だけ広げ、きのこも一緒に焼いていく。
3.片面焼きのイメージで焼いたら割り下を注ぎ、火を弱火に落とし、残りのきのことネギを加える。常に割り下を足し、少量が鍋にある状態を保ちながら、残りの牛肉と春菊を加えていく。溶き卵をつけて、食べる。
関東風すき焼きは焼くと煮るの中間的調理法
まずは肉の選び方ですが、すき焼きは脂の多く入った霜降り肉を料理するために生まれたような調理法です。そのため黒毛和牛と表記があるすき焼き用の牛肉を選びます。部位としてはロース、肩ロース、もも肉などです。輸入牛のもも肉や肩ロースは硬い部位ですが、黒毛和牛の場合は脂が入っているので硬さは感じないはず。
国産の牛肉にはもう一つ『国産牛』という表記がされているものがあります。国産牛にも様々な種類があるのですが、牛乳をとるためのホルスタインを食用にした肉やF1といってホルスタインと和牛を交配させた牛肉などがあります。厚切りのステーキにするのであれば国産牛は和牛に決して引けをとるような肉ではないですが、ことすき焼きやしゃぶしゃぶに関してはやはり和牛が向いています。国産牛よりも和牛は割高ですが、ここは一つ奮発して購入してください。
さて、すき焼きには関東風と関西風がありますが、今回ご紹介するのは割り下を使った関東風。関東風すき焼きは「焼く」という名前がついてはいますが、実際には割り下で煮るのに近い調理法です。一枚目の牛肉だけは焼きますが、これは香ばしさを出すため。彼(一枚目の牛肉)には犠牲になってもらい、後から入れる具材の味を支えてもらいます。この最初の牛肉は一番はじめに食べてもらい、香ばしさを味わいます。食べてしまっても割り下には肉の香りが移っているので大丈夫です。
あとから加える牛肉は少量の割り下でゆっくりと火を通すことが肝心。すき焼きはやや低温で調理することにポイントがあります。その秘密はラクトン類などの和牛に含まれる独特の香気成分。和牛特有の甘い香りは80℃で最も強くなり、それより低かったり高かったりするとやや弱くなります。
実はこの80℃という加熱こそが関東風すき焼きで昔から行われていた温度帯。弱火を守り、少量の割り下をつねに足すことで、温度を下げながら、穏やかに火を入れていくことで和牛の味を引き出すことができるのです。科学的な成分分析がされていなかった頃、経験則的に美味しさを引き出す正しい工夫がされていた好例でしょう。
とはいえ黒毛和牛の牛肉は高いので、味の相乗効果があるキノコをたっぷりと添えてボリュームを出しました。他に焼き豆腐を加えてもいいでしょう。春にはたけのこやうど、夏はトマト、秋は松茸という具合に季節の野菜を加えると季節感も出せます。すき焼きは長い時間、台所に立たなくてもいいので、憶えておくと便利な料理です。