昔は作品を書き始めていきなりブロードウェイで公演するとか、
その前にボストンやワシントンなどで地方トライアウトをするくらいでしたが、
現在ではプロデュース資金の高騰ぶりが甚だしく、
プロデューサー側もヒットさせられるという確証を得たいためか、
それまでのプロセスにやたらと時間がかけられるようになりました。
現在では、作品が書き始められてから上演までにかかる時間は、
最短で2年、3~5年は普通、長くなると8年強辺りまでは常識の範囲内です。
もちろん長くかかる作品はその間ずっと企画が動いているとは限らず、
自社のコンテンツを扱うディズニーや映画会社でもない限りは、
プロデューサー側も付いたり離れたりということで、入替わりも激しいのが普通です。
おおざっぱに解説していくと、まず、
1:リーディング
役者達が脚本やスコアを見ながら歌って台詞を喋り、
舞台の状況やト書きを読む人が専門に付きます。
衣装も照明も無く、セットも無い素舞台で行われるのが普通で、
音楽的に特に楽器を加える必要が無ければピアノ一台で行われます。
この段階では作品の一部しか出来上がっていない場合もあります。
観客の反応を見ることが主な目的です。通常は期間を置いて数回繰り返されます。
2:バッカーズオーディション
伝統的な資金提供者向けのパフォーマンスで、
従来は作家陣が作品に自信を持った段階で早々に行われていましたが、
現在では、先に述べた通りその後すぐにブロードウェイ公演とはいかないために、
こちらも段階に応じての資金調達のためにリーディングと並行して何度か行われたり、
次に述べるワークショップやトライアウトへの招待という形に変わってきているようです。
次の段階は、
3:ワークショップ
作品が上演に耐えうる状態になると、
本格的な衣装や舞台装置は無いものの、役者に最低限の演出や振りを付け、
シンプルな編成のオケをバックに、実際に作品を上演することになります。
作品の出来を見つつ、フル公演に向けての課題を拾うのが目的です。
元々はお金のかかる地方トライアウトの代わりとして盛んになったのですが、
本格的な公演をしてみるまで作品の本質がわからない場合の方が多く、
今はリーディングからトライアルへの通過点となっています。
そしていよいよ、
4:地方トライアル(プリブロードウェイ公演)
NYから離れた所で試験公演を行います。
地方の劇場団体が受け皿となることが多いです。
ブロードウェイの常連演出家が芸術監督を務めていて、
作品開発の場として利用していることもよくあります。
たとえばJack O’Brienは自身が芸術監督を務める
The Old Globeで、
The Full Monty、Dirty Rotten Scoundrels、のトライアウトを行いました。
また、Des McAnuffも自身が芸術監督を務める
La Jolla Playhouseで、
Jersey Boys、Dracula、Big Riverなどのトライアウトを行っています。
予算規模は小さいとはいえ本格的な公演となるので、
作品の完成度がどの程度のものかを真剣に占うことになります。
ブロードウェイ公演に十分な資金を集めうるだけの評判を得られれば、
ここで拾い上げた課題を解決すべく最後の手直しにかかります。
そしていよいよNYへ乗り込んで、
5:プレヴュー
劇場も替われば役者の入替わりなどもあったりして、
NYの観客の実際の反応を見ながら最後の手直しが行われます。
といっても、この段階で出来ることは脚本や演出の細かいカットや修正、
照明等の調整、せいぜい1~2曲のカットや追加といったことくらいです。
色んな噂が飛び交う中で初日を迎え、劇評を待つこととなります。
これだけの過程を経てきても、
プロデューサーが作品の成功に自信が持てなければ、
プレヴュー中であってもクローズしたり、
関係者や一部ファンの評価は高くても劇評が悪くて客足が伸びず、
結果的にクローズを余儀なくされることもあります。
最近では、ブロードウェイの観客層の占める割合が、
海外及び全米からの観光客に大きくシフトしつつあることと、
特にディズニー関連作品やテレビタイアップ企画作品などの影響で、
劇評には関係無く固定ファンを中心に利益を生む作品も出てきており、
ビジネスと作品の関係はどんどん不透明になっています。
ちなみに、ブロードウェイでの商業公演を目指さない場合で、
作家が地方を含め各団体に作品を応募した場合などには、
返事が来るまでに半年から1年、選ばれれば翌年のシーズンで上演と、
実際に作品を書くまでの期間を無視すると、
プロデュースされるまでには2年程度かかるのが目安です。
うまく行くと、作品がライセンス化されてカタログに並ぶこともあります。
日本からは状況が見えにくいですが、
アマチュア公演や地方公演用のライセンス作品市場も活況で、
ブロードウェイヒットを持たずに生活しているミュージカル作家には、
こういったカタログの中にヒット作品があったり、
TYA(Theater for Young Audience)と呼ばれる子供向け作品でヒットがあります。
この他にも、
リーディングの過程あたりまでは作家がセルフプロデュースで行って、
徐々にプロデューサーなどを招待していく場合も、特にNYではよくあります。
BMI Advanced Workshopも、作家仲間の前で行うリーディングの場として機能しています。
ちなみに、NY市内では年間に約300近いリーディングが行われているそうです。
また、有名作家でもない限りは他にも仕事を持っているのが普通なので、
成功した作家がグラントや個人に対する賞金という形で、
同僚や後輩に対して資金を提供していたりもします。
リーディングやワークショップを繰り返す現在の形態には、
その恩恵についても弊害についても数多く意見がありますが、
細かいことについては、また機会を改めて。