Viola Kam

「自分に何ができるか」飛び交う催涙弾と火炎瓶……香港デモ密着ルポ 若者たちの胸中

12/27(金) 8:22 配信

リーダーらしき男性は左手で傘をさし、右手に鉄パイプを握っていた。20歳そこそこだろうか。黒の上下にマスクとヘルメットを着用し、目元しか見えない。道路には、ガラス瓶やレンガが砕けて散乱している。男性のすぐ後ろには、水泳のビート板やベニヤ板の盾と雨傘を持つデモ隊が1000人ほど連なっていた————。2019年11月。中国政府による強権的な支配を嫌う香港の抗議活動は、香港理工大学で激しい衝突を引き起こした。警官隊と対峙(たいじ)したのは、若い学生たちだ。高校生らのティーンエイジャーも少なくない。彼ら彼女らは何を見たのだろう。何を考えていたのだろう。(文:岸田浩和、写真:Viola Kam、動画:岸田浩和/Yahoo!ニュース 特集編集部)

11月16日からの数日間 香港理工大にて

交差点を挟んだ通りの向こう側には、完全装備の警官隊がいた。銃口はデモ隊に向いている。

午前10時半、警官隊が「警告 催涙煙」と書かれた旗を揚げた瞬間、破裂音が響き、缶詰大の催涙弾が白煙を噴きながら降ってきた。

11月17日の衝突現場。デモ隊に向け、警察が放水銃で催涙剤を放つ

デモ隊。催涙弾を打ち返すラケットを握っている

デモ隊側で取材を続けていると、弾頭を警官隊に投げ返す参加者が見えた。テニスのサーブのようにラケットで打ち返す者もいる。警官隊までの距離は100メートル以上。投げても届かない。警官隊はゴム弾なども使用していた。直撃を受けると、痛みと青あざがしばらく消えない。救護ボランティアや取材中のインドネシア人記者もけがをした。

この日の午後には、鎮圧用の放水車も投入された。高圧で放たれる水は催涙剤入りだ。触れると、激しい痛みを伴って皮膚は腫れ上がる。

理工大の校舎内に残された、ジョン・レノン「イマジン」の一節。ただし、本当の歌詞には「that」がない

レインコートは放水銃対策

取材中の私も放水のしぶきを浴びた。ゴーグルの隙間から薬剤が入り、目頭が焼けるように痛い。火炎瓶が弾ける音、催涙弾が跳ねる音……。すぐそばで音がしても、目の痛みで歩くこともできない。催涙弾の煙も吸い込んだ。鼻の奥に痛みが走り、咳き込んで呼吸もできない。

救護チームが後方に運び出してくれた。そのうちの1人、女性ボランティアが目に入った薬剤を手際よく洗い流してくれる。

「顔を拭くときは、乾いたティッシュやタオルを使ってください。しばらくは、ウエットティッシュで顔を拭かないでください。催涙剤が広がって顔じゅうがヒリヒリしますから」

手渡されたポケットティッシュの袋には「ピカチュウ」。マスクを外した彼女は、明らかに10代だ。彼女だけではない。香港理工大学の内側にいると、参加者がマスクを外す場面に遭遇する。彼ら彼女らは実に若い。思った以上に若い。

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「これは大変だ、と」 22歳の男子大学生

22歳の男子大学生に取材で会った。自らを「ミッキー」の愛称で呼ぶ。今後も訴追の恐れがあり、素顔や本名は明かせないという。

「同じ大学生の友人に誘われ、デモに参加するようになりました。これまで、政治に興味はなかった。でも、ネットで記事を読み始めたら、すごいことになっている。同年代や自分より年下の人が体を張っているんです。これは大変だ、と」

最初の参加は6月9日だった。主催者発表で100万人。彼はそこで「香港の自由が失われつつある」と危機感を覚えた。その後も街頭などで同年代の姿を何度も目にし、「自分に何ができるか」を考え続けたという。

「ミッキー」。逮捕の恐れがあるため、本名も素顔も明かせないという

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