ケン・ローチ監督の最新作『家族を想うとき』が公開され、社会派の映画としては大ヒットとなっている。
現在、「ギグ・エコノミー」という耳に心地いい言葉の裏側で、労働環境のさらなる劣悪化が起こっている。労働者の自由や自律性を表面では謳いながら、その裏では、「名ばかり自営業者」、「ゼロ時間契約労働」(両者については後述)といった、労働者を分断し、むしろ熾烈な労務支配・統制を行うという労働慣行が横行している。
『家族を想うとき』は、そのような状況で苦しむ一家を、妥協なく描き出してみせた。
今回、本作の脚本を担当したポール・ラヴァティ氏に電話インタビューを行った。本記事では、インタビューを紹介しながら、『家族を想うとき』が物語る現在の社会と労働、そして家族のあり方を考えてみたい。
ポール・ラヴァティは1957年生まれの作家であり、ケン・ローチとは1996年の『カルラの歌』以来、『ブレッド&ローズ』(2000年)、『SWEET SIXTEEN』(2002年)『麦の穂をゆらす風』(2006年)、そして『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)など、1990年代以来のローチ作品のほとんどの脚本を担当している。
ギグ・エコノミーと呼ばれるものは、イギリスだけではなく世界中に広がっている。たとえば、日本のコンビニのフランチャイズ問題——企業が、雇用していた相手との契約をフランチャイズ契約に切り替える(いわば自営業化)ことでコストカットをするとともに、過酷な働き方を強いるという問題——も、名ばかりの自営業という意味でギグ・エコノミー的な問題の一部である。