高速道路でクルマを運転していると、数十キロおきに見えてくる、こんな表示。
そう、サービスエリア・パーキングエリア(以下、SA・PAと略)だ。
SA・PAに寄る理由は人それぞれ。トイレ休憩、ガソリン給油、あるいはひと眠りするため……など、さまざまなケースがありそうだが、「食」も大きな動機だろう。
SA・PA内に設置された飲食店やフードコートはむろん、おみやげ品や、その土地の特産物、屋台まで、バリエーションはさまざま。ひと昔前はただ腹を満たすだけの、正直美味しいとは言えなかったSA・PAの食事も格段にレベルアップしている。
「日本サぱ協会」とは?
そんなわけで、『メシ通』では、884カ所ある全国のSA・PA(2019年10月現在、日本サぱ協会調べ)から、ぜひ立ち寄ってみたいグルメなスポットをご紹介したい。
推薦者はこの方。「日本サぱ協会」の山形みらいさんである。
みらいさんは高速道路やSA・PAに関するメディア出演やイベントで活動するタレント。
2019年には自身が監修を務めた『一度は買いたいSA・PAの「五つ星みやげ」』も出版された。
みらいさん:全国にあるすべてのSA・PAをマイカーで巡って、グルメやおみやげを実食しています。自信を持っておすすめしたいものしか本に載せていないんですよ。
▲日本サぱ協会の事務所には、SA・PAで購入したおみやげの包装紙や箱が保存されている
そんなみらいさんがサービスエリアに興味を持ったきっかけは、東名阪自動車道上り線の大山田PA。それまで画一的なイメージだったSA・PA業界において、大山田PAの個性は突出していた。
みらいさん:店長さんがすっごくユニークな人で、一風変わったものを売っていたんです。すっぽんエキスとかヘビの抜け殻とか(笑)。そこからいろんなSA・PAに目がいくようになり、SA・PAが好きな人同士の情報交換の場として2014年に「日本サぱ協会」を設立することになりました。
現在、日本サぱ協会は高速道路の運営側からは「私設応援団」として認識されているが、ここまでSA・PAを本気で研究している人は他にいないはず。
▲全国884カ所のSA・PAをすべて制覇したというだけあって、一言一言に説得力がある。隣はサぱ協会の事務局長の青葉さん
では、みらいさん、おすすめの美味しいSA・PA教えてください!
一度は寄りたい美味しいSA・PA【飲食店編】
まずはSA・PA内にある飲食店をご紹介いただこう。
トップは「THE漢メシ」な一品から。
静岡県・小笠PA(東名高速道路上り線)「男の定食」
みらいさん:小笠PA(東名高速道路上り線)内にあるフードコート「ふじのや」さんの「男の定食」(980円)をぜひ体験してほしいです。ライス、冷や奴、納豆(生玉子に変更可)、豚生姜焼き、ラーメンと、ボリューム満点の内容。長距離トラックの運転手さんたちにも好評です。この小笠PAは、パーキングエリアでは珍しく営業時間も夜12時までと遅めなのも特徴です。
千葉県・市川PA(首都高速道路湾岸線西行き)「愛情ラーメン」
みらいさん:こちらは東京・銀座の老舗料理店で働いた経験のある料理人さんが手掛けているんですが「愛情ラーメン」(840円)がイチオシです。シンプルなあっさり系スープで、ラーメン好きにはハッとする味わい。卓上のラー油も実は手作りで相当なこだわりを感じます。
みらいさん:首都高って基本的に都心のビジネスユーザーが利用できるようにいろんな工夫がなされていて、全体的に食のレベルはすごく高いんです。ここ以外にも、代々木PA(首都高速道路4号新宿線上り)のカレーなどの名物があるので、ぜひ食べてほしいですね。
兵庫県・三木SA(山陽自動車道上り線)「イルカーネイタリアーノ」
▲イタリアンカラーののぼりが目印(写真提供:日本サぱ協会)
みらいさん:女性にも注目してほしいグルメなSAが関西にあります。サービスエリアでイタリアンってあまり聞いたことないですよね。そういう意味で、ここはちょっと特別。サービスエリアに来ていることを忘れるくらい本格派です。私が立ち寄ったときは湯葉を使ったカルボナーラのパスタがありました。
みらいさん:私がお気に入りのサービスエリアは、宝塚北SA(新名神高速道路上下線)です。とってもエレガントな雰囲気なんですよ!
▲宝塚らしい、優雅な雰囲気の宝塚北SA(写真提供:日本サぱ協会)
みらいさん:さらに埼玉県にある寄居 星の王子さまPA(関越自動車道上り線)は、「星の〜」の作者であるサン=テグジュペリゆかりの南フランスの雰囲気になっていて異世界感があるんですよ。
岐阜県・関SA(東海北陸自動車道上り線)「飛騨牛メニュー」
みらいさん:東海北陸自動車道上り線の関SAに寄ったら「飛騨路の和食 かごの屋」さんで飛騨牛をいただくようにしてます。飛騨牛ローストビーフ丼(2,300円)など、いろんな飛騨牛のメニューが揃っていますよ。いろんな土地でブランド牛を食べましたが、食感が別格なんですよね。
千葉県・海ほたるPA(東京湾アクアライン上下線)「大漁揚げいわしバーグ」
みらいさん:SA・PAって練り物系のおみやげ品が多いんですよ。海ほたるPA(東京湾アクアライン上下線)の「大漁揚げいわしバーグ」(持ち帰り185円、店内飲食188円)は、いわしのすり身に、玉ねぎやにんじん、ごぼうなどがたっぷり入ったさつま揚げで、野菜の甘みがアクセントになっています。味はノーマル、のり、チーズ味の3種類。テイクアウトOKなので、おやつにも、お弁当のおかずにもおすすめです。私は魚類がちょっと苦手なんですが、これはすごくイケますね。
一度は寄りたい美味しいSA・PA【おみやげ編】
サービスエリアの楽しみのひとつとして、飲食店で食事をする以外に、「おやみげを買って帰る」のもある。そこで冒頭で紹介した本『一度は買いたいSA・PAの五つ星みやげ』の中からいくつかピックアップしてもらった。
それでは「おみやげ編」、いってみましょう!(写真提供:日本サぱ協会)
山口県・美東SA(中国自動車道上り線) 「男の粗挽きハンバーグ」
(写真提供:地域商社やまぐち株式会社)
みらいさん:山口県のご当地ブランド牛「見蘭牛(けんらんぎゅう)」を100%使用したハンバーグ(1,620円)で、つなぎを使っていないので旨みと肉々しさ満点です。湯煎するだけで簡単に食べられるのもうれしいポイント。お肉大好き! という方にはぜひ食べていただきたい逸品ですね。
▲肉好きにはチョーおすすめ!(写真提供:日本サぱ協会)
埼玉県・川口PA(首都高速道路川口線上り) 「いちやの味噌だれ」
みらいさん:SA・PAのおみやげでアツいのが「調味料」なんですよ。タレとかドレッシングとか。思わず買いたくなりませんか? 中でもこの「いちやの味噌だれ」(660円)は調味料の中でもトップクラスのベストセラー。白米にちょこんと乗せるだけで、箸がとまらない! 川口PA(首都高速道路川口線)のフードコートでもこのタレを使った料理が好評なんですよ。
みらいさん:ちなみに、大黒PA(首都高速道路湾岸線、神奈川5号大黒線)の「勘助辛味噌」(小550円、大1,100円)も調味料界では売れっ子。激辛ではなくほんのり辛い程度なので食べやすいですよ。
香川県・与島PA(瀬戸中央自動車道上下線)「讃岐鉄鍋骨付鶏」
みらいさん:「骨付鶏」といえば香川県の名物。1942年創業の老舗お肉屋さんが作るこちらの「讃岐鉄鍋骨付鶏」(900円)は、とにかくジューシー&スパイシーで、一度食べたらやみつきになります。湯煎してフライパンで焼くだけなので調理も簡単。夕食のメインディッシュになりますよ。
奈良県・天理PA(西名阪自動車道上り線)「大和郡山の金魚ロール」
みらいさん:SA・PAの中でも個人的な推しスイーツはこれ。「大和郡山の金魚ロール」(2,200円)です。まず見た目の美しさに感動します。味わってみると、北海道産100%純生クリームが本当に濃厚。その中で泳いでいる金魚(イチゴジャム)の食感がまたたまりません。目も舌も喜ばせてくれるパーフェクトな逸品ですね。
福岡県・古賀SA(九州自動車道上り線)「明太子ワールド」量り売り
みらいさん:九州の玄関口ともいえる古賀SA(九州自動車道上り線)の明太子ワールドもぜひ寄ってほしいですね。いろんな種類の明太子が買えるんですが、ここは量り売りもやってます。毎朝工場からチルドで直送されるので、新鮮そのものです。
山田SA(大分自動車道上り線)「林檎パイ」
みらいさん:九州でもうひとつチェックしておきたいのが、同じく福岡県の山田SA(大分自動車道上り線)で売られている「林檎パイ」です。サービスエリアがいい香りに包まれているのでつい食べたくなります。カット単位で買えるので、車内で食べるのもいいですね。
SA>PAとはまったく限らない
──こうして見てくると、「食」という切り口ひとつとっても、それぞれのSA・PAに個性や特徴があって面白いですね。
みらいさん:そうなんです。その土地の文化や名物がちゃんと反映されているんですよね。
──そういえば、自分(編集部ムナカタ)の出身地・熊本県にある「緑川PA」(九州自動車道下り線)も、県内の超大手お弁当&惣菜チェーン「ヒライ」が大々的にフィーチャーされているんです。県内を走る高速道路でこれ以上「熊本らしい風景」って他にないくらい。
▲ご覧のとおり「ヒライ」一色なのである(写真は編集部・ムナカタが帰省途中に撮った)
みらいさん:よく見ると、熊本名物「ちくわサラダ」がありますよねー。
──あれ、なかなか美味しいんですよ。初めて訪れたとき、サービスエリアじゃなくて、パーキングエリアでも立派に食事ができるんだなぁって感動した覚えがあります。
みらいさん:多くの人は、サービスエリアは規模が大きくて豪華、対してパーキングエリアは小さくて簡素と思われがちですが、決してそうじゃないのがお分かりいただけたかと思います。また、最近は高速道路に乗らなくても外からも入店できる構造になっているところが増えていますね。
厳選! 食以外でも一度は行きたいSA・PA
──食の面以外でも「一度は行ってみたいSA・PA」っていっぱいありそう……。
みらいさん:もちろんたくさんありますよ! いくつかご紹介しましょうか。
というわけで以下ダダーッと紹介。
▲静岡県の富士川SA(東名高速道路下り線)に設置された石のオブジェからはちょうど富士山がのぞける(写真提供:日本サぱ協会)
▲愛知県にある刈谷ハイウェイオアシス(伊勢湾岸自動車道上下線)は温泉、観覧車などが設置された総合施設。冬の時期に開催される夜のイルミネーションも有名だ(写真提供:日本サぱ協会)
▲自然の風景の中でくつろげる、富山県の有磯海SA(北陸自動車道下り線)。こうした癒やしの空間を設けているケースも増えている(写真提供:日本サぱ協会)
▲兵庫県の淡路SA(神戸淡路鳴門自動車道下り線)の大観覧車からは、鳴門海峡大橋や神戸の街が見える(写真提供:日本サぱ協会)
達人が選ぶ究極のSA・PAとは
──いろいろ挙げていただきましたが、みらいさんが今もっとも注目しているSA・PAってどこなんでしょう。
みらいさん:阪神高速道路3号神戸線(大阪方面行)にある尼崎PAです。ここは、全長157メートルの縁側があって、大勢でゆったり座ることができるんです。
▲息を飲む尼崎PAの夜景。もともとは料金所だったところをパーキングエリアにしたせいか、ゆとりのある空間に(写真提供:日本サぱ協会)
──うわ、キレイ……。ごちゃごちゃしていない、シンプルな作りも素敵です。
みらいさん:そう。全体的にウッディな作りで、トイレも開放感があるし、日没時は夕陽が木に反射して黄金色に光って美しいんです。まるで美術館のテラスのような雰囲気ですね。ただし、無人のパーキングエリアで飲食店などの施設はありません。そういう意味では、すべてを制覇した人が行き尽く究極のSA・PA。ある種、最新形態であり最終形態といってもいいかもしれません。
──ここまできて「無人」とは。予想だにしなかった逆説的な結論……。でもそこがまた面白い!
みらいさん:SA・PAのひとつひとつに個性があって、すべて立ち寄ってみたくなります。日本サぱ協会のコンセプトは、たくさんの人にSA・PAに興味を持ってもらい、より多くのSA・PAに立ち寄ることで休憩を促し、交通事故を減らすこと。これからもSA・PAの魅力を伝えていきたいと考えています。
──ありがとうございました!
イラスト/萩原まお