「現代ビジネス」で12月8日、ジェンダー論を専門とする社会学者の小宮友根氏が『炎上繰り返すポスター、CM…「性的な女性表象」の何が問題なのか』と題する小論を発表し、話題となった。
現在インターネットで猛威をふるう「『女性の表象(とりわけ「萌え系」表現)』への非難・バッシング」の理論的背景や、その正当性について説明を試みるものであったようだ。
同小論では、「反ポルノグラフィ」運動の端緒を拓いた著名なフェミニスト、キャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンによる「性的客体化(sexual objectification)」理論、そしてその理論を発展的に引き継いだフェミニスト哲学者のマーサ・ヌスバウムの論を援用している。
ヌスバウムは、マッキノンとドウォーキンが主張する「(女性の)性的客体化」が具体的にどのような要件のもとで成立しうるのかについて体系化し、以下のように説明した。
小宮氏はさらに、美学者アン・イートンの論文『(女性の)ヌードのなにが問題なのか?』を引き、これらを踏まえながら、特定の「女性表象」がなぜ批判・非難されうるものであるか、持論を展開する。
小宮氏は「女性表象」といった曖昧な言い方をしているが、「表象」とは現前していない事象についてのイメージのことであり、氏が表象の事例として用いたのが(萌え絵的)二次元イラストであったことから、二次元イラスト表現への批判を念頭にしていることを前提にして検討しよう(「献血ポスター」が炎上の事例として言及されていることからも、そう考えて問題ないだろう)。
まず、小宮氏の主張の大きな柱となっているヌスバウムの論を検討すると、ヌスバウムは重要な前提として、前述したように、人間など本来的に「モノ」ではないものを、あたかも「モノ」であるかのように扱うことを「モノ化」の典型としている。*2 実在する女性が登場する表現と、架空の女性を描いた二次元イラスト表現とのあいだには言うまでもなく大きな隔絶があり、どちらもひとしく「女性のモノ化」であるとするのは強引であるだろう。
二次元のイラストであっても、たしかにそれは「ヒト」の姿形を表現したものであるが、しかしあくまでイラストレーションの表現技法の集積物にすぎない。イラストレーションと実在の女性は、社会的にも物理的にも文字どおり「次元が違う」(このような表象と現実を架橋するために新たに小宮氏が提示した概念については、後ほど改めて検討する)。ヌスバウム自身も、有害な「性的モノ化」の例として、女性モデルの写真が多く掲載されている男性向け雑誌『プレイボーイ』を挙げている。