LIFESTYLE / CULTURE & LIFE
各分野の鋭い論客を選者に迎え、おすすめの良書を紹介する企画の第1弾のテーマは、アート&カルチャー。選出してくれたのは、哲学者の千葉雅也。彼が「ビジュアルでは敵わない人間の両義性を語れるメディア」だと語る「言葉」を通じて、芸術や文化を楽しむことのできる5冊とは?
「誰もが映像や音楽をつくり発信できる時代だからこそ、他者の手になる芸術や文化をただ受け取るのではなく、自らつくったり、つくるとはどういうことかを知ることが重要。作品を仕組みから面白がれれば、身の回りのものがもっと魅力的に見えてくる。中でも「言葉」は、ビジュアルでは敵わない人間の両義性を語れるメディア。価値観の異なる人々との共存のためにも、もっと言葉を楽しみましょう!」
フォーマットにとらわれることなく、クレーの日常がいろんな書き方で綴られている本書は「おみくじ読み」(パッと開いたところから読む)に最適。その自由な文面から伝わるクレーの日常の捉え方、世界の見方は、私たちの生活にも面白いディテールがあることを教えてくれる。クレーのように、普段から表現を楽しもうという意識で言葉を使えば、もっと生き方がクリエイティブになるはずだ。生きてるなぁと実感させてくれる断片が詰まった本。
これも「おみくじ読み」に適した若手俳人たちのアンソロジー。彼らの作品を読んでいると、いかにも俳句らしく書かなくていいのだという気づきがあり、世界を見るための新しいレンズをもらったような瑞々しい感覚に襲われる。俳句は、一瞬の世界を切り取るいわば「言葉の写真」だ。お飾りの言葉を全部取っ払ったら、そこに本物が立ち現れてくるかもしれない。インスタグラムから言葉の時代へ回帰するとき、俳句はいい道しるべになるだろう。
小説の懐の広さを自らの作品をもって表している作家が書いた小説入門書。だから当然、普通の入門書であるわけがない。「え、これも小説?」という事例が数多く挙げられていて、小説の枠を拡張してくれる。小説らしくしようとするほどオリジナリティは発揮できない、もっと広く考えたほうがむしろ個性的なものが書けるのだと筆者は説く。確かに周囲には、「よく見ると同じパターン」の物語があふれている。本書を読めば書きたくなっちゃうかも。
SNSによって近視眼的な明るいビジュアルだらけの世界になっていくことに警鐘を鳴らす、一つの現代文明論。エビデンス万歳、明確に仕切ることができないものは失われてしまう世界のあり方に、立木さんは鋭く疑問を投げかける。なぜなら、人間の心とは常に蛍光灯のように明るいものではないのだから。フロイトの精神分析が発見した「無意識」が人間には必要で、曖昧さやグレイであることが許されない世の中は、暴力的だ。
社会学者の筆者は、大学時代を過ごした沖縄の暴走族に自ら飛び込み、パシリとして信頼を獲得しながら彼らの調査を実施、本書にまとめた。若者たちの生活のリアル、そこにある暗さや喜びが、うちなーぐち(沖縄の方言)と標準語で、とても控えめな解釈とともに綴られている。縁遠い世界の話かもしれないが、自分と違う人たちのことを想像することで、自分はどんなふうに生まれ育ち、どんなふうにものを見ているのかと鏡のように考えさせられる。
Illustration: MARCO(POCKO) Editor: Maya Nago