リングドクター・富家孝の「死を想え」
コラム
小籔千豊さんのポスターが炎上した「人生会議」……「死に方会議」はなぜ必要か?
先日、厚生労働省が作成したタレントの小籔千豊さんの「人生会議」のポスターが炎上し、わずか1日で発送中止になるという騒動がありました。
ベッドでチューブにつながれ、死に 瀕 した状態の小籔さんの姿に目をそむける方も多かったようです。また、そのつぶやきが「患者や家族に対する配慮がない」「不安をあおる」「脅しともとれる」という批判が殺到しました。
そこまで批判を浴びるようなポスターだったのか
しかし、私としては、そこまで批判を浴びるようなものだったのかと思います。小籔さんのつぶやきは、次のようなものでした。
「まてまてまて 俺の人生ここで終わり? 大事なこと何にも伝えてなかったわ」「あーあ、もっと早く言うといたら良かった! こうなる前に、みんな『人生会議』しとこ」「命の危機が迫った時、想いは正しく伝わらない」
このつぶやきで重要な点は、もちろん「人生会議」です。その方向によって死に方が大きく変わってしまうからです。
人生会議とは、死に方会議……直視が必要
「人生会議」とは、あまりに漠然とした言い方で、ピンと来ない方も多いと思います。そこで、ずばり言ってしまうと「死に方会議」です。医療に携わる者から見ると、これが偽らざる現実で、このことを直視しないと、私たちは人間らしく死んでいけません。
「人生会議」とは、つい先日まで「エーシーピー」(ACP)と呼ばれていました。「ACP」は、英語の「アドバンス・ケア・プランニング」(Advance Care Planning)のことで、患者と家族、医療側が終末期医療に関して話し合い、それを文書に残す取り組みのことです。ACP、つまり、人生会議をしておかないと、終末期に患者本人も家族も、医療側もどのような医療をしていいかわかりません。
延命治療をどこまで続けますか?
たとえば、がんの末期になれば、もう回復は望めません。手術も抗がん剤などの化学治療も行った後で迎える終末期にできることは、今のところ「延命治療」か「緩和ケア」です。
延命治療というのは、胃ろう、人工呼吸、人工透析などで、人工的に生かして死を遅らせる医療ですが、人間の尊厳を損ないかねないものと、私は考えます。
これまで日本で行われてきた終末期医療は、「とにかく生かし続ける」ことで、多くの寝たきり患者をつくってきました。人工的に生かされて迎える死ほど 虚
そこで、人生会議をして、どんな医療を受けるか、具体的には胃ろうをするかしないか、人工呼吸をするかしないかなどを決めておくのです。患者さんの意識、判断力が薄れた状態では遅いので、「生前の意思」を確かめるのです。
「できる限り」から「できるところまで」に変化
すでに日本でも、延命治療を望まない人が多くなっています。これまで、「できる限りお願いします」と言っていた家族の意識も、「できるところまででいいです」に変わってきました。
2018年1月に行われた厚労省の調査では、全国の救命救急拠点病院での終末期の患者への延命中止は約7割に上っています。取りやめた治療内容は、昇圧剤の投与が8割超、人工呼吸や人工透析がそれぞれ約7割でした。
このような流れをつくり出したのは、高齢者の医療費を削減するという厚労省の政策でもあります。批判されたポスターの製作は、2018年から新設が決まった「介護医療院」推進のためです。
看取りの場として増える介護医療院
医療費増大の原因の一つに、介護療養型医療施設(介護療養病床)がありました。ほぼ回復が望めない終末期患者が入院する病院です。厚労省では、これを廃止し、「介護医療院」という、言わば、医療が受けられる高齢者施設へ転換するか、新設しようとしているのです。これは、2025年に団塊世代がみな75歳以上の後期高齢者となり、「多死時代」がやってくることへの対応という面があります。
介護医療院は、(1)日常的な医学管理が必要な重介護者を受け入れ、 看取
このうち重要なのは、(2)です。つまり、介護医療院では、「医療・介護・住居」がセットということです。終末期患者にとって、「 終
人生会議をして後悔のない死を
となると、どこまで終末期医療を行うかが問題となります。そこで、患者や家族の意思が重要なポイントになり、ACPを人生会議と言い換えることが決まって、あのポスターがつくられたのです。
どのような死を迎えるのか、選ぶのは私たち
厚労省によると、介護医療院は19年6月末で、全国223施設、1万4444床となっています。まだ、岩手県、宮城県、新潟県、宮崎県にはありません。現在は転換期で、徐々にしか増えていませんが、今後新設が認められることになっています。6年間の経過措置期間が終わる2024年までには、10万床に近づくと推測されています。
団塊世代の多くは、この介護医療院で、ポスターのようなつぶやきを残さず、後悔なく死んでいけるようになればと思います。それを決めるのは、私たち自身です。(富家孝 医師)
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