「最近の若者は…」と言いたくなったら、それは思い込みが強くなり始めた兆候だった:研究結果

「最近の若者は……」と思わず口に出してしまいそうになる経験は、きっと誰にもあることだろう。だが注意してほしい。どうやら「最近の若者」への批判は、自分自身の資質や過去の記憶をすっかり棚に上げて、偏見や思い込みで世間を見ているということらしいのだ。

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MASKOT/GETTY IMAGES

現在の若者も、かつて若者だった人たちも、上の世代が「まったく最近の若者は…」と若者たちの動向を厳しく非難し、いたらなさを嘆くのを聞いたことがあるだろう。しかし、年上世代が若者たちをどう厳しく評価しようと、若者のせいで人間社会が衰退の一途をたどっているという根拠はないという。

では年上の世代にとって、「最近の若者」が衰退していると思える第一の要因は何なのだろうか? 

そのメカニズムを、オンライン学術誌「Science Advances」で発表された論文が明らかにしている。「最近の若者:なぜ若者たちは衰退していると感じるのか」と題された論文によると、人類は数千年にわたって若者が前世代と比べて“劣る”ことを嘆き続けてきたようだ。

しかし、過去数千年ずっと年長者のあいだで「最近の若者たち」に対する不満が繰り返し蔓延するということは、これらの批判が正当なものではなく、また特定の文化や時代の特異性によるものでもないということだ。むしろ、これは“人類に特有の習性”である可能性が高い。

それもそのはず。どうやら「最近の若者」への批判は、自分自身の資質や過去の記憶をすっかり棚に上げて、偏見や思い込みで世間を眺めるようになってしまった結果らしいのだ。

人は自分が平均よりも優れていると考える傾向がある

「人類は少なくとも2,600年にわたり、『最近の若者』に対して同じような不服を申し立ててきました」と、カリフォルニア大学サンタバーバラ校心理学部のジョン・プロツコ教授は説明する。彼は2,600年前からと上限を設けているが、理由はそれよりも古い文献の検証ができなかったからにすぎない。

実は年上の世代にとって、客観的に下の世代が衰退しているように見える心理的・精神的理由があるのだという。「それは心の働きに組み込まれているため、各世代は何度もそれを経験することになります」と、プロツコは言う。

例えば論文では、1624年の聖マーガレット教会のトーマス・バーンズ牧師による言葉が引用されている。「かつての若者はこんなにも生意気ではなかった。(いま)先人は嘲り笑われ、名誉ある人は非難され、判事は恐れられない」

「それは現在とまったく同じ不満です。若い世代は礼儀知らずで、目上の人たちに従わず、働きたくないと思われているのです」と、プロツコは言う。そしてこの類の不平は世代だけでなく、異なる文化でも普遍的に見られるものなのだという。

研究チームは、年上世代に特有な「最近の若者」効果を実験・検証するために、「平均以上効果」と呼ばれる認知バイアスに着目した。平均以上効果とは、自分を集団と比べて評価したとき、自分は平均以上であると過大評価する傾向のことを指す。

自己を過大評価する傾向は、個人のもつ実際の資質や能力とは関係のないことが多いという。したがって、年上世代が集団として若者世代を卑下するのは、自分自身(年上世代)が他人(若者世代)よりも優れているとみなしているのが原因かもしれないと、研究チームは推測したのだ。

人は自らの特性を過大評価する

そこで研究者らは、「最近の若者」現象の背後にある発生とメカニズムを追究するため、「平均以上効果」を内包した3つの実験を設計した。自分の世代と比べ、若者たちは権威をどう思っているのか、その知性はどうか、また若者たちは読書好きかどうか。実験では、若者世代の特性を客観視するとき、自分自身の特性がその評価にどのように影響するのかを調べた。

すると興味深いことに、権威主義的な傾向が強い年長者は、若者は高齢者に対して敬意を払わないと思う傾向が強かった。また自分が賢いと思っている人たちは、若者の知性がより低くなっていると感じた。そして本好きの人たちは、若者の読書離れが進んでいると思いがちだった。

「知性に関しては特筆に値します」と、プロツコは指摘する。これに関しては「フリン効果」と呼ばれる「IQスコアは若い世代のほうが高い」という客観的測定結果に反した結果になったからだ。フリン効果は頭打ちになっている国もあるようだが、実験が行われた米国ではまだ上昇傾向にあるという。「ですから被験者が客観的な事実を述べていることはありえないのです」

さらに注目に値するのは、それぞれの特性に優れた人ほど、若者が衰退しているという信念の度合いが大きかったことだ。これには個人特有の比較プロセスが関与していることが示唆されている。しかしこれらの実験からは、なぜ衰退しているのが「現在の若者」だけであり、「過去の自分たち」ではないのかの説明にはならない。

過去の記憶は上塗りされる

そこで研究チームは、「記憶の偏り」を考慮した実験をさらにふたつ実施した。「わたしたちは自分の過去をとてもよく覚えていると思いがちですが、決してそうではありません」と、プロツコは言う。研究チームは「本をよく読む人は、最近の若者の読書の楽しみを軽視する傾向が強い」という実験を再現し、参加者自身が「子どものころどれだけ読書を楽しんだか」、そして「いまの自分たちの世代は読書を楽しんでいるか」を答えてもらった。

すると、本をよく読む人ほど子ども時代に読書を楽しんでおり、その時代の子どもたちはみんな読書を楽しんでいたと思う、と答えた。これについてプロツコは、人々は自分の子ども時代を一般化し、その意見は同世代の仲間にも適応されると議論する。

さらに興味深いのは、読書好きの人たちは「最近の若者」と同様に「現在の年長者」の読書離れを指摘する傾向にもあったことだ。この発見は、とある特質においての自己評価が高い人ほど、自分以外の人々に同じ特質が欠けていることに気づきやすいという研究チームの憶測を支持している。

最後の実験として、研究グループは被験者1,500人に読みのテストを受けてもらい、ランダムに誤ったフィードバックを与えた。被験者は実際のスコアとは関係なく、「あなたのスコアは上位15パーセントでした」もしくは「下から15パーセントでした」と評価され、そのあと「最近の若者」や「子ども時代」の読書習慣について答えてもらったのだ。

すると、読解力が低いと評価された人たちは、子ども時代に読書を楽しんだかどうか、昔の仲間は本好きだったかの評価に違いが現れ、読書に関する「最近の若者」についての見解も和らいだ。その記憶や若者への評価は、主観的な“自己評価”に応じて変化することが、実験によって確かめられたのだ。

つまるところ、年上世代が若者世代について不満をぶちまけるのは、人類が歳を重ねるごとに代々続行してきた“習性”とも呼べる行為なのだ。「それは記憶のくせのようなものです。あなたは現在の自分を過去の記憶に上乗せするのです」と、プロツコは話す。

それが「最近の若者」の衰退が当たり前のように感じる理由だ。われわれの記憶は、昔の仲間に関する客観的な証拠に乏しく、まして個人的な記憶に関する客観的証拠もほぼない。「わたしたちがもっているのは“基盤となる記憶”と、それに伴う偏見や思い込みだけなのです」

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電気で走る「ロンドンバス」は、不思議なサウンドを奏でながら街を走りゆく

EUの規則で今年7月から、すべての新しい電気自動車EV)は車両接近通報装置の搭載が義務づけられた。これに伴いロンドン交通局が、電気で走る「ロンドンバス」専用のサウンドを制作した。電子的に合成される電気バスのサウンドは、いかにつくられたのか。

TEXT BY MATT BURGESS

WIRED(UK)

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NICOLAS ECONOMOU/NURPHOTO/GETTY IMAGES

ロンドン市内のバス約8,000台の走行距離は、2018年に計4億5,000万kmに達し、個々のルートの周回数の総計は22億3,000万回となった。これは英国全土のバスの周回数総計の半分以上を占めるが、ロンドンのバスはまだ十分に環境に配慮しているとは言えない。

市長のサディク・カーンによると、現在のロンドンでは欧州で最多の200台以上の電気バスが利用されているという。バスの総数と比較するとほんのわずかに過ぎないが、市内にはすでに完全に電動化されたバス路線がふたつ存在する。マズウェル・ヒルとロンドン・ブリッジを結ぶ43番と、ノース・フィンチリーとウォーレン・ストリートを結ぶ134番である。

ロンドンの電気バスは現在、周囲の歩行者の安全を確保するため新しい走行を搭載することが決定している。電気自動車EV)は低速で走行する際ほぼ無音なので、周囲に注意を払っていない歩行者や視覚障害者に危険を及ぼす可能性があるからだ(米国運輸省の研究では、EVやハイブリッド車のほうがエンジン音のうるさい化石燃料で走るクルマより40パーセント以上も歩行者との接触事故が多いことが明らかになっている)。

電子的に合成されるサウンド

こうしたなか、欧州連合(EU)の規則で今年7月からすべての新しいEVは車両接近通報装置(AVAS)を搭載することが義務づけられた。EVは走行中、歩行者に車の接近を知らせる走行音を流さなくてはならないのだ。時速20km未満で走るクルマは最低でも56デシベルの音量が必要であり、古いEVは2021年までに装置を後付けしなければならない。

EUの規則はロンドンのバスにも適用される。そこで市内の電気バスが発する音を統一するため、交通事業を所管するロンドン交通局(TfL)は、首都全域の電気バスで利用されるサウンドの制作を外部委託した。

電子的に合成されるサウンド自体は、バスの動作中に繰り返し再生される短いフレーズである。バスが静止しているときは、ソフトなコード(専門的にはFシャープメジャーセヴンス)が2拍子で繰り返される。バスが動き始めると、走行中は3拍ごとにビーコン音(Cシャープ単音)が流れる。

「非常に聞きやすいサウンドにしてあります」と、TfLから短いサウンドをつくるよう依頼されたZelig Soundのマット・ウィルコックは語る。この企業の仕事はテレビのコマーシャルや映画、ゲームのサウンド制作がほとんどであり、走行中のクルマのためにサウンドを設計したのは今回が初めてだ。

「リズミカルであり、かつビーコン音を含むというこのアプローチは、これまで検討されてきませんでした。音楽やサウンドに詳しい人にもよさを認められるようにニュアンスのあるものにしつつ、繰り返し流せるものにしたいと考えました」

1月から運用開始へ

ウィルコックは今年初めにTfLと協働を開始した。制作する際に創造的な要素を加えるだけでなく、常に安全性を第一に考えたと言う。Zelig Soundは、視覚障害者協会や盲導犬協会、サイクリンググループ、環境グループなどの慈善団体関係者と面会し、バスの走行音に関するフィードバックを集めた。

リズム的な要素がなく、単調に続くコードの繰り返しで構成されていた初期のサウンドは、十分に明瞭ではないという批判に直面した。「単純すぎて、十分に際立ったサウンドではありませんでした」とウィルコックは語る。「これを基に、一連のルールに焦点を当てて開発を進めました」。TfLとZelig Soundはそれ以来、トッテナム周辺で実地試験を行い、バスの走行音について歩行者にフィードバックを求めた。

この新しいサウンドは2020年1月から6カ月間、セント・ポール大聖堂とシャドウェルを結ぶ100番ルートで試験的に使用されるとTfLが公表している。そのあと3月から、カナダ・ウォーターとヴィクトリア間のC10番ルート、5月からはエレファント&キャッスルとバタシー間のP5番ルートで試行される。AVASはロンドンのすべてのバス会社で利用され、「英国全土の運送業者が利用できるようになる」という。

まるで巨大なサウンドインスタレーションに?

しかし、なぜ電気バスの走行音をディーゼルバスのエンジンと同じにしないのだろうか。この選択肢を検討する気は最初からなかったと、ウィルコックは語る。「わたしにとってディーゼルエンジンのバスは頭痛の種であり、汚く感じる上にうるさくて、ガタガタ音がします。むしろ、なぜディーゼルバスの音にしたいと思うのか理解できません」

最終的なサウンドを独立機関に分析してもらったところ、聞く人の多くが「落ち着きや安らぎ、安定性」を感じる特徴があることが明らかになった。しかし、このサウンドは継続して聞くことを念頭に設計されたわけではないとウィルコックは言う。そうではなく、バスが近づいてきたり、バス停で数分間停まっているときに聞こえることを意図している。ロンドンの交通渋滞を考慮に入れても、歩行者が長い間、電気バスのそばを歩いている状況はほとんどないだろう。

TfLによると、ロンドンのバスの平均速度は時速約15kmであり、サウンドはほぼこの速度で最適化される予定である。AVASに関する規則では、車両が速度を上げる場合、周囲の人にその変化を知らせるため、発する音のピッチを上げる必要がある(時速約20km以上では電気バスの走行音で周囲の人に認識されるようになるので、システムによるサウンドは徐々に小さくなる)。

「20世紀のミニマリズムの一環のように感じますが、20世紀と比べて少し電子的ですね」とウィルコックは語る。「数千台のバスが随時使用されているので、まるでミニマリストの巨大なサウンドインスタレーションのようになると、わたしたちは話していました」

様変わりする都市のサウンドスケープ

だが、このサウンドシステムが実用化されると課題に直面する。ロンドンのバスはスタジオ並みの高品質スピーカーや機器を搭載しているわけではない。バスに備え付けられている2つのスピーカーは、多層構造のサウンドを聞くためというより、音声アナウンス用に設計されたものであるとウィルコックは言う。将来的に、この2つのスピーカーが、システムのサウンドにより適した1つのスピーカーに交換される予定だ。

AVASに関する規則が7月に施行されているため、EVメーカーも自動車用に独自のサウンドを開発している。ジャガー・ランドローバーは「ジャガー I-PACE」用のサウンドの制作を外部委託した。シトロエンのコンセプトカーは、男性と女性の声を調和させたサウンドを採用するアイデアを実験している。

シトロエンのアイデアが実用化されることはなさそうだが、サウンドデザイナーたちは次世代のクルマの音の開発を続けるだろう。そして、こうしたサウンドが都市に実装されるに伴って、わたしたちの周囲の都市環境は様変わりするはずだ。

「サウンドスケープの観点からすると、これによって都市は変わっていくでしょう」とウィルコックは語る。「都市はいままでよりはるかに静かになりますが、ほかのサウンドも登場するでしょうね」

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