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 この先さらに十数年にわたって、激しい騒音と墜落・落下物の不安に人々をさらし続けるつもりか。政府は計画の破綻(はたん)を認め、一から出直すべきだ。

 沖縄・米軍普天間飛行場の移設先とされる辺野古沖の基地の完成が、2030年代以降にずれ込むことになった。防衛省が明らかにした。埋め立て海域に広がる軟弱地盤の改良のため、土地の造成期間が大幅に延び、さらに関連施設の整備などに時間を要するという。

 例のない難工事であり、目算通りに進む保証はない。加えて辺野古への基地建設に反対の玉城デニー知事は、政府が設計変更を申し立てても応じない方針で、さらなる混迷は必至だ。

 このような状況を招いたのは他ならぬ政府自身だ。十分に確認しないまま埋め立て申請を急ぎ、その後の調査で軟弱地盤の存在を把握しながら公にせず、昨年末に土砂投入に踏み切った。情報公開請求で真相を知った県の指摘に耳を貸さず、既成事実づくりに突き進んだ。

 背信と思考停止。普天間をめぐる政府のこれまでの歩みだ。

 日米両政府が返還で合意したのは96年のことだ。5~7年で実現させるとの話だったが、県内で基地をたらい回しにすることへの疑義に答えられぬまま、計画は二転三転し、返還時期も先延ばしが繰り返された。揚げ句の果ての、民意を無視した埋め立て強行であり、今回の「さらに十数年」の表明である。

 今からでも遅くない。普天間の危険を取り除き、沖縄の過重負担を軽減するという原点に、政府は立ち返るべきだ。

 沖縄に駐留する海兵隊は20年代前半から約9千人が米本土やグアムに移り、約半分の規模に縮小される。兵器や技術の変革に伴い、海兵隊の運用は変化してきている。20年以上前に構想された辺野古に固執する理由はない。格好の攻撃目標になるとして、軍事合理性の観点から沖縄への基地の集中を懸念する専門家も少なくない。

 首相は今年1月の施政方針演説で「世界で最も危険と言われる普天間飛行場の一日も早い全面返還を実現する」と述べた。だが実際に進んでいるのは、被害の固定化ではないか。

 政府は「19年2月までに運用停止」という県との約束をほごにし、新たな期限の設定に応じない。普天間所属の航空機の事故が相次いでも、米側に形ばかりの申し入れをするだけ。一方で、騒音被害への賠償を命じる判決が積み重ねられる――。

 住宅密集地の上を米軍機がわがもの顔で飛び交う現実に向き合い、県民の生命・人権・財産を守る。その務めに政府は全力で当たるべきだ。

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