なぜクリスマスの定番ソングは“懐メロ”ばかりなのか? それには科学的な理由があった

クリスマスになると、街でもラジオでも定番のクリスマスソングが流れてくる。だが、どれも懐かしの曲ばかりで、「最新のクリスマスソング」なるものは存在しないことに気づく。いったいどうしてなのか──。調べてみたところ、それには科学的な理由があった。

Mariah Carey

JAMES DEVANEY/WIREIMAGE/GETTY IMAGES

カーオーディオから、ザ・ポーグスとカースティ・マッコールの名デュエット曲「ニューヨークの夢(Fairytale of New York)」が流れ始め、サブウェイやH&Mのあらゆる店舗でマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス(All I Want For Christmas is You)」を耳にするようになった。クリスマスだ。

陽気な歌声にうんざりしていようがいまいが、ワム!、スレイド、イースト17、ポール・マッカートニー、ジョナ・ルイ、ウィザードなど、クリスマスムード漂うアーティストの歌声を避けることはできない。ところで、このアーティストたちには共通点がひとつある。それは、かなり昔のアーティストだということだ。

英国の著作権管理団体「PRS for Music」が12月に発表した地方ラジオ局に関する調査によると、最も多く再生されたクリスマスソング上位20曲なかで最も新しい曲は、2000年にリリースされたクリフ・リチャードの「ミレニアム・プレイヤー」だった。それほど有名ではない1982年のザ・ウェイトレシズの「クリスマスラッピング」や2003年のザ・ダークネスの「Christmas Time(Don’t Let The Bells End)」などのクリスマスソングでさえ、10年以上前の曲だ。

クリスマスソングに潜む世代効果

これほど長い間、クリスマスソングのヒット曲が出ていないのはなぜだろうか? サウスウェールズ大学のポピュラー音楽分析コースの教授ポール・カーは「世代を問わず、多くの人が70年代前半から流れているようなクリスマス音楽を聴いています」と語る。

その時代の音楽が優れていたからと考えるのは簡単だが、この場合はそうではないとカーは考える。カーの主張によると、親が好きなクリスマスソングを子が引き継ぐという世代効果が存在する。「親が聴いていたクリスマスソングのレコードやCDなどのメディアを子どもが譲り受けて聴き、結果としてクリスマスソングは何世代にもわたって周期的に影響を与えているようです」と、カーは説明する。

懐かしさはポップカルチャーの大きな推進力だが、クリスマス関連では特にそれが顕著だ。「クリスマスポップソングで重要なのは懐かしさです。これまで最も売れた曲である『ホワイトクリスマス』について考えてみてください」と、キール大学の音楽心理コースで上級講師を務めるアレクサンドラ・ラモントは語る。「過去のクリスマスを振り返り、懐かしむ歌詞です」

ボストンにあるバークリー音楽大学のフォレンシック・ミュージコロジスト(法医学音楽学者)ジョー・ベネットは2017年、英ショッピングセンターチェーン「Intu」からの委託研究で究極のクリスマスソングの要素を分析した

ベネットは12月25日の週の「Spotify」の全英チャートを調べた。上位200曲のうち、78曲がクリスマスまたはその他の年末の祝祭に関連する曲だった。歌詞を見ると、全曲に家、恋、失恋、パーティー、サンタクロースやトナカイ、雪や寒さ、信仰、地上の平和に関する単語が含まれていた。49パーセントの曲でスレイベル(そりの鈴の音)が使用され、95パーセントは長調で、テンポの中央値は1分あたり115拍だった。

“理論的には史上最高”の曲をつくってみたが……

この情報に基づき、ソングライターのスティーヴ・アンダーソンとハリエット・グリーンは、“理論的には史上最高”のクリスマスソングをつくりあげた。しかし、その曲「Love’s Not Just For Christmas」は、定番クリスマスソングの仲間入りどころか、ヒットチャートにランクインすることすらなかった。

「視聴者は人間ですから、理論通りにはいきません。魔法の法則はありません」とニューカッスル大学で現代ポピュラー音楽の専任講師を務めるアダム・ベアは語る。「『Love’s Not Just For Christmas』は、調査委員会によってつくられた曲としては実際に驚くほど印象的な作品です。しかし、わたしたちは本物感と懐かしさを好むのです」

また、曲をヒットさせるためには、明らかにクリスマスっぽい曲にする必要は必ずしもないことを理解するのも大切だ。「わたしにとっては、クリスマスに関する内容を含んだポップソングがクリスマスポップソングで、クリスマスにまつわるテーマを扱った曲はクリスマスポップ賛歌かもしれません」と、チェスター大学の音楽教授ダレン・スプロストンは語る。「例えば、イースト17の『Stay Another Day』はクリスマス賛歌と言えますが、クリスマスポップソングではありません」

スプロストンはまた、ベネットの調査で上位78曲のクリスマスソングに入っているレオナ・ルイスとコールドプレイが、クリスマスの定番ソングの仲間入りを果たす一歩手前にいるかもしれないと指摘する。

「レオナ・ルイスの曲(「ワン・モア・スリープ」)は78曲のうち、2000年以降にリリースされたほぼどの曲よりも、先ほどの基準によく当てはまります」とスプロストンは説明する。「この基準を満たさない曲はおそらく、“ファン”が愛する曲やアーティストを次世代に伝え、定番ソングに必要不可欠な親しみ感を達成するにはより長い時間がかかります。コールドプレイの曲はこのグループに入るだろうと思います」

たったひとりの例外

ベネットの調査では、調査結果で得られた傾向に反して、古いクリスマスソングへのわたしたちの好みを乗り越えた唯一無二のアーティストがひとりだけいる。マイケル・ブーブレだ。2016年の上位78曲のクリスマスソングのうち、25曲が2000年以降にリリースされ、そのうち11曲はブーブレの曲だった。1曲を除いてすべて2011年にリリースされたブーブレのアルバム『クリスマス』の収録曲だった。

この78曲のうち近年リリースされたほかの多くの曲と同様に、ブーブレの成功の理由も懐かしさだ。新しいクリスマスソングのリリースでは多くの場合、昔からある定番クリスマスソングを新しくアレンジするだけで成功する。例えば、バンド・エイドの「Do They Know It’s Christmas?(ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス)」は、チャリティーコンサート「ライヴエイド(LIVE AID)」のオリジナル曲を新しくアレンジし直したものだ。

「レコードレーベルは同じ曲をそのままリリースすることもありますが、異なるヴァージョンを使ってまとめ直すこともあります。人々は毎年クリスマスに買い物をするので、お金を稼ぐ非常に安上がりで成功がほぼ確実に保証されている方法です」とカーは説明する。「懐かしさを巧みに操る方法を知っているレコード業界は、このことを把握しています」

「マイケル・ブーブレの興味深い点は、コピーしようとしないところです」とカーは続ける。「ブーブレは新しいヴァージョンをリリースします。しかし、ディーン・マーティン、フランク・シナトラ、サミー・デイヴィスJr.などの影響を強く受けている曲なので、懐かしさに満ち溢れています」

定番入りには時間が必要

古いクリスマスソングは毎年繰り返し流れるが、人々は古い定番ソングにうんざりすることはないようだ。ポップヒット曲は通常、ラモントが楽しみについての「逆U字型カーヴ」と呼ぶ過程をたどる。曲をあまり好まない段階から、大好きな段階、再生されすぎて嫌いになる段階へと進む。

しかし、クリスマス音楽の体験は大きく異なる。「通常、クリスマス音楽は一年中聴くことはないので、ひどくうんざりするまでいたりません」とラモントは説明する。

最終的に、オリジナル曲が将来のクリスマスの定番ソングになれない理由はない。必要なのは、毎年かけられることだけだ。しかし、それには時間がかかる。クリスマスソングが浸透し、定番クリスマスソングの仲間入りを果たすには何年もかかるのだ。

「(理論的には史上最高だったはずの)『Love’s Not Just For Christmas』は、1940年代から90年代のクリスマスソングのモデルに基づいています」とベアは説明する。「メディアは常に変化しています。誰かがグライム風のクリスマスソングをリリースしたとして(もしかしたら誰かがもうしているかもしれませんが)、それがあなたのおばあちゃんのプレイリストに追加されることはおそらくないでしょう。しかし、あなたやあなたのいとこは、そのクリスマスソングを聴いて翌年そして5年後に再び聴くことになるかもしれません」

いつかアリアナ・グランデが定番になる?

今月になって、マライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」が発売から25年を経て初めて全米シングルチャート1位に輝いたとビルボードが発表した。このことから、たとえ広く浸透した定番クリスマスソングでも、ヒットチャートの上位に輝くのは難しく、その達成には時間がかかることがわかる。

「視聴者が曲を気に入り、最も発言力のある門番(ラジオ局)がその曲をかけることを決定するなら、アリアナ・グランデのようなアーティストが未来の定番クリスマスポップソングになることもありえます」と、スプロストンは語る。「これは時間がたってみなければわかりません。数多くのクリスマスソングが存在しますが、定番クリスマスソングの仲間入りを果たせるかどうかを判断するには時間がかかるのです」

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わたしたちの惑星は、気候変動の「ティッピングポイント」に近づきつつある

気候問題に関して、かつて考えられていたよりも多い「ティッピングポイント(転換点)」に、わたしたちは近づきつつある──。こうした内容の論説を、ある科学者のグループが『Nature』に11月末に寄稿した。地球温暖化に歯止めをかけるためにわたしたちが実行すべきことは明確だが、もはや時間は限られてきている。

TEXT BY MATT SIMON
TRANSLATION BY MADOKA SUGIYAMA

WIRED(US)

A thawing Antarctica

PHOTOGRAPH BY NASA

社会正義について語る際に、ティッピングポイント(転換点)とは素晴らしいものである。例えば、ティッピングポイントとなる判例は世論を変える。

ところがティッピングポイントは、生物種には破滅をもたらしかねない。事実、環境の激変は生物の個体数を危機的状況に追いやっている。気候変動の場合、科学者が視野に入れるようになったティッピングポイント、すなわち地球の気候に不可逆的な変化を起こす臨界点は、ひとつだけではなく数多くあるのだ。

気候問題に関してかつて考えられていたよりも多い「9つのティッピングポイント」に、わたしたちは近づきつつある。さらにはそうしたティッピングポイントがもたらす影響に、わたしたちがすでに気づき始めている──。こうした内容の論説を、ある科学者のグループが『Nature』に11月末に寄稿した

「気候の不可逆的な変化を防ぐために残されている時間は、もはやゼロになったと言っても過言ではないに。それにもかかわらず、温室効果ガスの排出量実質ゼロを達成するまでの時間は「短くても30年はかかる」と研究者らは書いている。「わたしたちはそうした変化の発生を、もう止められないのかもしれない」というのだ。

それでもわたしたちは、まだ被害を減らすために行動できる。わたしたちがとらなければならない方策はかつてなく明確だが、時間が尽きかけている。

「半世紀後、わたしたちはいまの状況をどんなふうに振り返るのでしょうか。もっと持続可能性のある健やかな未来を何世代にもわたって築けたはずだったと悔やむのでしょうか」と、エクセター大学グローバルシステム研究所所長のティム・レントンは言う。「埋蔵量に限りがある化石燃料を使い続けることや、世界の終わりを受け入れるような行動はやめるべきです」

気候のティッピングポイントは、大きく3つカテゴリーに分類される。

1)氷

グリーンランドの氷床の融解が加速している現象を例にして、気候のティッピングポイントを1脚の椅子だと考えてみよう。通常の安定した状態なら、氷床はそのまま溶けずにある。椅子が直立している状態だ。

「バランスをとりながら椅子を後ろに傾けていくと、ティッピングポイントらしきところが見つかるはずです。それはあともう少しどちらかに傾けたら、椅子が倒れてしまうところです」と、レントンは言う。後ろ向きに倒れているのは、直立しているのとは別の状態であり、椅子はただそこに力なく存在している。グリーンランドの氷床でいえば、氷床が溶けて、気候システムが新たな平衡に達した状態である。

こうした変化はすでに東南極と西南極で進行していると、レントンと彼の同僚は主張する。南極では氷と海洋と岩盤は、いわゆる接地線で接する。その接地線が後退し続けており、「西南極の残りの氷床が不安定になり、ドミノ倒しのように海に溶け出す可能性がある」と、『Nature』の論説に研究者たちは書いている。「そうなると、数世紀から千年の間に海水面が約3m上昇する」

2)陸地

陸地でも状況は同様に厳しい。アマゾンにおける森林伐採は、生態学的影響の恐ろしい連鎖反応を起こしている。伐採によって分割された森の周縁部が乾燥すると、農園主が開拓のために意図的に森に火を放つ際に、十分な燃料を供給することになる。このようにしてアマゾンから二酸化炭素の貯蔵庫としての役割が失われるとともに、火災の煙から二酸化炭素がますます大気中に排出される。

研究者によると、熱暴走のティッピングポイントは、森林被覆の20~40パーセントが失われるときに一度訪れるかもしれないという。気候変動によって、熱帯雨林のアマゾンの湿潤な気候が、熱帯乾林のサヴァンナの気候のように乾燥するからだ。

北極圏では、地球のほかの場所の2倍の速さで温暖化が進んでおり、山火事がかつてないほどの猛威を振るっている。北方林は枯死しつつあり、二酸化炭素吸収源から二酸化炭素排出源へと変化しかねない状況だ。

泥炭地は、元来その地中に大量の二酸化炭素を貯蔵している。ところが乾燥と燃焼が進み、貯蔵している量よりもはるかに多くの二酸化炭素を排出するようになった。

永久凍土の融解も同様の事態を引き起こしており、メタンだけでも温室効果ガスをかなり排出する可能性がある。温室効果ガスが排出されればされるほど、地球温暖化は進み、世界中で気候の不可逆的な変化が始まる。

3)海

海洋では、気候変動によってサンゴ礁が死滅の危機にさらされている。サンゴの体内に生息する藻は、光合成によってサンゴにエネルギーを供給する役割を果たす。ところが海水温が上昇すると、サンゴはこの共生藻を放出するため、白化する。海洋の酸性化や汚染に加えて、地球の平均気温が2℃上昇すると、熱帯のサンゴの99パーセントが死滅しかねない。

沖合いでは、大西洋の循環の速度が20世紀の半ば以降15パーセント遅くなっている。グリーンランドにおける氷床の融解によって、大西洋の循環の速度はさらに遅くなる恐れがある。

大西洋の循環が遅くなると、西アフリカモンスーンの不安定化につながり、干ばつが引き起こされる可能性が生じる。その結果、アマゾンがさらに乾燥し、南極海が暖水化し、南極でさらに氷が融解する事態になりかねない。もともとティッピングポイントには、多くの連鎖反応を発生させる性質があるのだ。

個別の要素が相互に影響し、深刻さを増す

このような複数のティッピングポイントは、別個に存在するわけではない。その多くは、互いに影響し、深刻さの度合いを増していく。

その相互に関連する特徴から考えると、ティッピングポイントのモデル化は必然的に憶測を立てることになる。というのも気候変動の極めて複雑なシステムを完璧に捉えるのはとても無理だからだ。このためティッピングポイントのモデル化は、予測に不確実性を持ち込むことになる。

従って、すべての研究者がティッピングポイントという考え方をとっているわけではない。ティッピングポイントという表現は、ふたつの世界を分けるある特定の数値すなわち閾値を示唆している。しかし実際には、閾値の前後がいつになるのか、必ずしも常に明確ではない。

「そこが論争の出発点なのです」と、カーネギー気候ガヴァナンス・イニシアチヴのエグゼクティヴディレクター、ヤーノシュ・パーストルは指摘する。パーストルは前述の『Nature』の論説の調査にはかかわっていない。

「閾値の前後が明確で、ティッピングポイントが必ず到来する、または到来しないと白黒はっきりしているなら、話はとても簡単です。けれどもティッピングポイントをすでに過ぎてしまったようだと言うのは、難しい話になります。そしてその事実を公に広く伝えるのは大変難しいのです」

最も重大なティッピングポイント

だがパーストルによると、ティッピングポイントはすでに過ぎたという研究者は、隙がない理論を構築している。ティッピングポイントは遠い先の大惨事ではなく、わたしたちはすでにティッピングポイントを迎えているというのだ。

「ティッピングポイントが生じつつあるらしい、ティッピングポイントは本当にあるらしいといった説の根拠はかなり信憑性が高いものです。このため正直な話、この説はなぜわたしたちがともに行動しなければならないのか、気候変動の解決のためにできることをしなければならないのかについての、もうひとつの極めて重大な理由になります」とパーストルは語る。

「この『Nature』の記事には、なぜ本当の危機が、本当の緊急事態がいまここで発生しているのかについて、非常に多くのもっともな理由がまとめられています」

とはいえ、まだ望みはある。早急に二酸化炭素排出の大幅な削減ができれば、海水面の上昇は遅くなる。世界中で、特にアマゾンで、森林伐採をやめなければならない。こうしたことが、文明社会を長期的に健全に保つ鍵となる。

またティッピングポイントは必ずしも災難の兆候とは限らない。「社会領域では、ティッピングポイントが社会の発達につながっている場合も多いのです」とレントンは説明する。「例えば、再生可能エネルギー技術や電気自動車を採用する動きが加速しているのを、いまわたしたちは現実に目にしていると言えます」

人々は目覚めつつあり、グレタ・トゥーンベリは日ごとに勢いを増す環境運動の先頭に立っている。政治家や資本家が気候変動という大惨事を加速させても、わたしたちのなかでより思慮深い人々は、気候変動の問題は変えられると考えている。その考えが、恐らく最も重大なティッピングポイントなのだろう。

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