AIで顔イラストを生成し絵師が全身を制作、表情差分・高解像度も納品可能「彩ちゃん+」リリース

12月25日、株式会社ラディウス・ファイブは、AIの特性と人(絵師)の特性を活かしたハイブリッドな全身イラスト制作サービス「彩ちゃん+」(読み:さいちゃんぷらす)の提供を開始したと発表。

同社は今年9月に100万種類以上の顔イラストを生成する「彩ちゃん」をリリース。今回新たに提供された彩ちゃん+は、AIだけで実現するには難易度が高い全身のイラストを人(絵師)との共同作業にすることによって“速やか”に実現するという。一般的なイラスト制作に比べ、1/3の時間、1/3の料金で制作することが可能にもかかわらず、高品質な全身イラストを制作できるそうだ。

イラスト制作までの流れと料金

まず、彩ちゃんで顔のイラストを生成し、描いてもらう。制作スピードは1枚あたり0.1秒。100万種類以上のイラストを描くことができ、自分好みのキャラクターを作れるという。

次に、自分が選択したイラストの全身を作るために、選択形式で「どういった服装がいいのか」「どのようなポーズにしたいのか」などを入力する。要望を入力すると、全身のイラスト制作を絵師が取り掛かる。

1~2週間ほどで全身のイラストが納品される。オプションとして、表情差分や、8000×8000pxの超高解像度化画像への変換も対応。

利用料金は下記となっている。

  • 全身のイラスト制作:3万3000円
  • 2000 × 2000px のpng、psdのデータを納品

  • 喜怒哀楽の表情差分制作(4差分追加):+5000円
  • 彩ちゃんが描いた表情に加えて、喜怒哀楽の差分を追加で納品

  • 8000 × 8000px の高解像度化:+1000円
  • 高解像度化AI「Photo Refiner 」で高解像度化したpngを追加で納品

彩ちゃん+の特徴は「うまい」「やすい」「はやい」

うまい(上手い)

全身イラストの制作は、国内の有名ゲームタイトルで活躍する絵師とのこと。自分の好みの女の子の顔を選んだ上で、品質の高い全身イラストが提供されることになるので、満足いく1枚を手に入れられるという。なお、プレスリリースでは、絵師の名前は明かされていない。

やすい(安い)

イラスト全体の方向性は、AIである彩ちゃんが顔のイラストを制作することで決まる。イラストの方向性が固まった状態で絵師が制作するため、フィードバックをなくしたシンプルなイラスト制作が可能だ。また、工程をシンプルにすることで、一般的な商業用イラスト制作の1/3以下の金額で提供できる。

はやい(速い)

彩ちゃんが顔を描くことによって、制作指示書をベースにした制作のやりとりが発生しない。そのため高速にイラストを制作することができます。一般的なイラスト制作の場合、制作指示書の作成時間なども含めると6週間程度かかるそうだ。しかし、彩ちゃん+を使えば1/3以下の1~2週間で納品できる。

個人でもビジネスユースでも利用可能

彩ちゃん+は、制作されたイラストを自由に使えるため、個人・ビジネス問わずさまざまなユースケースが見込まれている。

たとえば個人利用であれば、同人ゲームのキャラ素材としてだったり、SNSのアイコンなどに使えたりする。一方ビジネスユースなら、各種ゲームのキャラクター、広告などの素材、さらにはVtuber用としての使用も考えられるそうだ。

>>プレスリリース(PR TIMES)

1枚のイラストからアニメーションを自動生成も

今年8月には、株式会社AlgoAgeが1枚のイラストからキャラクターの顔のアニメーションを自動生成する深層学習エンジン「DeepAnime」を開発、提供を開始した。

1枚のキャラクターのイラストをDeepAnimeに入力することで、「瞬き」「話す」といった動作が加わったアニメーションを自動生成できる。

DeepAnimeは、単にイラストからアニメーションを自動生成するだけでなく、音声入力に合わせたアニメーションを生成も可能だ。

通常、アニメーションを制作するにはコマ割りにしたイラストが複数枚必要だ。しかし、DeepAnimeは、1枚のイラストを入力すれば自動でアニメーションを生成してくれるのが特徴。

DeepAnimeの詳細はLedge.aiで過去にまとめているので、合わせて読んでもらいたい。

トイレに入った“ねこ”の健康状態自動判定AIを開発、ハチたまが2億円超の資金調達

スマートねこトイレ「toletta(トレッタ)」を手掛ける株式会社ハチたまは、合計2億円超の第三者割当増資をプレシリーズAラウンドにて実施したことを発表した。引受先は、マネックスベンチャーズ株式会社、羽立化工株式会社、横浜キャピタル株式会社、山口キャピタル株式会社、ひびしんキャピタル株式会社、株式会社シグマクシス、大手商社など。

写真下中央にあるのがスマートねこトイレ「toletta(トレッタ)」だ

このラウンドによって調達累計額は4億円を突破した。今後はAIを活用した「ねこの健康状態自動判定アルゴリズムの開発」および「獣医師との連携システム」の開発を強化するそうだ。

スマートねこトイレtolettaは、ねこがトイレに入るだけで、自動でねこの健康データを取得し、スマートフォン上のアプリに通知するヘルスケアサービス。ねこの利用頭数は2000頭、健康データの件数は100万件を突破した。

画像は過去のプレスリリースより。「体重」「尿量」「排尿回数」「入室回数」「滞在時間」「経過時間」といった指標データを取得する

今回の増資による資金使途は、先述のとおりtolettaの健康データを活用したAIによるねこの健康状態自動判定アルゴリズムの開発、また、獣医師との連携システムの開発だ。飼い主が愛猫の体調変化により早く気づき、すぐに獣医師とつながることで早期ケアを実現させる。

プレスリリースで投資家からは次のようにコメントされている。

和田誠一郎氏
マネックスベンチャーズ株式会社 代表取締役

家族の健康を気遣い、いつまでも共に元気に過ごしてほしいと思う気持ちは、世界中の人々が共通して抱く思いです。家族の形、その在り方が、時代の流れとともに変化する中で、多くの現代人にとって、日々の時間を共にするペットは大切な家族の一員となりました。 堀さん率いるハチたま社の開発する「toletta」は、大切な家族の一員である猫の健康状態を、テクノロジーが翻訳者となって飼い主に伝える、素晴らしいプロダクトです。言語を問わず、世界中の愛猫家にとって必要不可欠なプロダクトになる可能性を秘めた「toletta」によって、家族の一員である猫の健康が維持され、1日でも長く、そしてたくさんの家族の思い出を創る一助となることを願います。その実現に向けてハチたま社と共に邁進します。

中村哲也氏
羽立化工株式会社 代表取締役

ハチたまさんからtoletta開発のお話をいただいた時、これは次代のIoT製品だととても興味深く感じ、開発に協力することになりました。開発を進める中で、ハチたまさんと世界に発信する夢を共有したいと思うようになり、製造を担当するだけでなくパートナーとして出資させていただくことになりました。

※ともに原文ママ

現在、tolettaの販売は日本国内のみだが、今後は海外展開を本格化させていくという。そのため、海外展開に向けたシリーズAの調達を実施予定とのこと。このシリーズでは、国内だけでなく海外投資家からの資金調達も予定している。

>>プレスリリース(PR TIMES)


人間向けの「AIトイレ」をLIXILが展示

今年10月に開催された「CEATEC 2019」で、LIXILがAIトイレを展示した。便座につけられた画像センサーから便の画像を分析し、その形状や大きさを記録できる。プロトタイプの段階から多くのメディアで取り上げられ、大きな話題をつくったトイレだ。

教師データの作成に携わったという青山敬成氏は、「画像認識AIを作るにあたって、医師の協力を得つつ、社内モニターの3000枚もの便画像を私自身が分類して学習させました」という。

主に高齢者施設向けのプロダクトで、医療機関のほか、健康を気にする個人など、さまざまな層に展開していきたいそうだ。

AIトイレ以外にも、CEATEC 2019では、映像解析AIエッジロボット、AI病理診断などAIに関するさまざまな展示が目立っていた。詳しくはLedge.aiに掲載されているイベントレポート記事をご覧いただきたい。

診断画像をクラウド化、がん細胞認識AIで更なるデジタル化を目指す|長崎発ベンチャーN Lab

N Lab代表

少子高齢化による労働人口の減少、労働力不足を解消するための手段としてデジタル化・AI導入が叫ばれて久しい。現在も各業界で多くの変革が試され、AI人材の育成にも注目が集まっている。

2020年から全国の小学校でプログラミング教育が必修化され、約10年後には新時代のITネイティブ世代が活躍し始めるであろう。その一方で、10年後に従事者の平均年齢が定年を迎える業界がある。日本の病理医業界だ。

高齢化をはじめ、病理医業界の課題解決に向けて立ち上がったのが、自身が肺がんを専門とする医師でもあるという、N Labの北村由香氏だ。「治療に役立つ病理検査」を追求するN Labでは、バーチャルスライドの作成とクラウド管理、病理画像AIの研究を通して病理医不足解消を目指す。

今回は、病理検査における課題やN Labの取り組み、今後の展望について北村氏に詳しく聞いた。

日本の病院の約半数に病理医がおらず、全国平均年齢も約55歳と高齢

病理医業界が抱える課題のうち、最も深刻なのが、冒頭でも述べた病理医の高齢化だ。

日本の病理専門医は2019年8月7日時点で全国に2539名いる※。しかし、超高齢化社会を迎えた今、年を重ねるごとに患者数、再検査増加に伴う検体数は増加し続ける。

――北村
「2018年の年報では、病理学会認定・登録施設(856施設)のうち、一人病理医病院は43.6%、病理医不在病院は19.0%でした。病理医がいない病院では、病理診断をする方法がないので、専門の検査会社か、病理医のいる関連病院に検査を依頼しています。

『一人病理医』病院の課題は、癌と良性腫瘍の区別といった難しい判断を、限られた時間の中1人で下すしかないところです。

患者さんにとって癌か良性かは大事な問題であり、悠長に待ってはいられません。早急な診断を求められる中、ほとんどの病理医は一人、一日中検体を見続けることもあり、万が一ケアレスミスをしても見落としにすら気づけない恐れもあります」

一人病理医:その病院に病理医が1人しかいない状態のこと。
日本病理学会(外部リンク)

ではなぜ、若い病理医の数が増えないのだろうか。北村氏はその原因を、病理医のイメージと病院側の環境にあるとみている。

医師を目指すという人は、実際に患者さんに話を聞いたり手術をしたりする内科・外科医を想像していることが多い。そのため表に出づらい病理医は、臨床医ではなく「検査をする人」に近い認識があることが挙げられるという。

――北村
「ただ、イメージを修正できても、病理医が増えるまでには時間がかかります。

そのため、今は病理医同士をつないで診断の効率化を進めるしかありません。スライドガラスをデジタル画像化すれば、インターネット経由で他の病理医でも遠隔で迅速に診断できます。これにより診断精度も向上し、患者に結果を返すまでの時間も短縮できます。

さらに画像をクラウドに保存することで、QRコード化も可能になり他の病理医へのコンサルトが可能になるのです」

N Labでは、依頼元から送られてきた作成済みのガラススライドを専用スキャナーでスキャンし、データをクラウド上に保存する、メディイメージバンクというサービスを運営している。

検体が入ったガラススライドをデジタル画像にすることで、モニターに映しながら細かくチェックができるほか、物理的な保管場所の削減ができる。通常は5年ほどで観察できなくなるガラススライドだが、経年劣化も起こらない。

また、クラウド保存したデータを患者がQRコードで携帯できるようになれば、別の病院で再検査をすることになってもデータを共有できる。病理医業界では1度行った検査を別の病院でまた行うというような無駄な検査が4割ほどあると言われており、デジタル化が進めば削減することは大いに可能であるという。

長崎大学と共同でがん細胞認識AIを開発、診断結果の正確性向上と時間短縮に貢献

病理医をサポートするAIの開発も進めている。NLabが長崎大学と共同研究している「病理画像AI」は、癌などの疾患にかかっていると診断された患者の病理画像から、癌細胞を示してくれるAI診断ソフトだ。夜にソフトを動かすと、翌朝には、画像に占める癌細胞の割合が出る。

AIで検出されたガン細胞実際の病理診断AI画像:青い点が細胞核のある部位を示している。細胞の核を認識することで、カウントしている。

このAIを用いて出した結果に加え、最終的に人間の目でもダブルチェックして診断結果を出すという。

――北村
「癌細胞を確認するのは難しい。とある論文では、数十人で同じ組織を見て、癌細胞が何%含まれているか診断する実験をした結果、回答がみなバラバラだったというほどです。癌細胞は増殖して大きくなっているので、普通の細胞よりたくさんいるように見えてしまう。目の錯覚で、一致しないんです」

こうした人間ならではのミスをなくすためにも、AIと力を合わせることがより精度の高い診断に繋がる。

今後もN Labは長崎大学との共同研究で、癌細胞数カウントの効率化を進めていくという。

研究内容の詳細ページ(外部リンク)

デジタル化を妨げる原因

北村氏は「今の病理医業界にはデジタル化を妨げる原因がある」と指摘する。

数千万円単位の医療設備導入コスト

そのうちのひとつが医療設備の導入費だ。設備投資を行っても、投資額に見合ったメリットがなければ赤字になるのは必然。デジタル化を進めるための医療設備導入費用が、病院の大きな障壁になっているという。

――北村
「大きな大学病院などはいいが、医療機器は1つ導入するしないでも何千万単位でコストが変動します。

自身の病院に設備を導入し、デジタル化を進めて他の病院と連携、遠隔で検査をするのも費用がかかるばかりで、デジタル加算などの医療点数がないため、検査会社に低コストで解析してもらった方がいいという判断になりがちです」

巨額の投資になるからこそ、経営側も慎重に判断せざるを得ない――このような現状により、病理医が活躍できるところも限られ、過疎化も進んでしまっているようだ。

実際に、病理医数の地域差は著しい。各都道府県の病理医人口を調べた結果、最多は東京都で453人、最少は福井県でたったの11人だ。

※2019年11月25日時点、日本病理学会認定病理専門医一覧(外部リンク)より

AIベンダーと医療現場とのすれ違い

デジタル化が進まないゆえに、今も紙媒体で運営している病院や、ゲーム世代が学ぶ医大でも顕微鏡主体の教育をしているのが現状である。デジタル化普及に向けて、最新ソフトウェアの開発や学会での論文発表なども多くあるが、日本ではまだまだ水面下で動いている状態だという。

だが、最新技術を詰め込んだソフトウェアが必ず現場で活かせるとも限らない。

――北村
「最新のソフトウェアが発表されても、実際に現場で活かせるかどうかは別問題になります。

昨今AIの導入が各業界でブームですが、良いAIを作るためには、精度の高いデータを与えることが重要です。しかし、ソフトウェア会社が作ったAIが実臨床で全く使えないということが起こり得ます。

私たちは医者であってプログラマーやエンジニアではない分、『良いデータを提供するので、協働でいいAIを作りましょう』ということを今やっています。良い診断を出すためにも、コンサルテーションがすぐにできる環境も創っていきたいと考えています」

目標は長崎から全国への「AI医療センター作り」

N Lab

数多くの課題を抱える中、北村氏が始めに目指すのは日本医療業界のデジタル化を促進することだ。100%デジタル化を実現しているオランダのほか、他国の前例に学びながら、日本全国での効率的な情報共有を模索していく。

より多くの患者に良い診療が行き渡る社会を実現するためにも、デジタル化に伴うクラウド管理の強化や、AIの開発も今から進めていかなければならないという。

――北村
「病理医向けのAIは1つでは足りません。全身を見るので、癌細胞を発見するAIで1つ、その他の分野で各1つずつ作っていく必要があります。

弊社はAIを育てることに注力し、デジタル化が進んだ時に、『うちが持っているAIを用途ごとに提供しますよ』といえるようになるのが目標です。デジタル化が進めば進むほど、病理医不足は解消されると思います。長崎から全国へ向けて、病理AIを作っていきたいですね」

(取材・大久保裕次郎、執筆・小林雅輝、編集・菊田千春)

【AI×スポーツ】オリンピック間近、2020年に向けて。スポーツへのAI最新導入事例

画像出典:SPORTS TECHNOLOGY LAB

2020年に開催される東京オリンピックへの盛り上がりが加熱する裏側で、スポーツ業界へのAI活用が注目されています。

スポーツ業界では、今まで注目されていなかったアナログの分野でもAIが導入され始めています。本稿では、スポーツ分野におけるAI導入事例についてお届けします。

スポーツ競技へのAI導入事例

AIが大量のデータを分析した結果は、試合戦略立案、対戦チームの研究といったさまざまなシーンに使われ始めています。

具体的な事例を見ていきましょう。

試合のハイライト動画を一瞬で作成。「IBM Watson」がウィンブルドンで活躍

出典:Pixabay

毎年50万人近くが訪れ、期間中に800試合以上がおこなわれるウィンブルドン選手権。毎年何百時間もの映像が記録として残されています。2017年には、約480万ポイント分のラリー(約800試合分に相当)が映像として記録されました。

テレビ中継などで放映される試合のハイライトは、人が試合の動画をフルで見て、面白い部分を切り取り、それをつなぎ合わせて制作します。しかし、ウィンブルドンの試合動画全てを見て、面白い部分だけを人の手で抜き取るのは極めて重労働といえるでしょう。

そこでファンの歓声、選手の動き、試合のデータをもとに、総合的な観客の興奮度を「IBM Watson」が分析。ハイライト動画の作成に活用されました。

Watsonのハイライト作成が導入されたことで、以下の成果が得られました。

  • ウィンブルドンのホームページのPVが500万増加
  • 1440万本の動画をIBM Watsonによってのみ制作
  • 動画1本につき30分の作成時間短縮

この事例のように、歓声や動作を読み取って状況を判断できるようになれば、ほかのスポーツでも応用が効きそうです。

微妙なラインの口論がなくなる。AI審判デバイス「In/Out」

プロテニスの試合において、ボールの落下点を機械で判断する「ホークアイ」はおなじみですが、アマチュアでもそれを体感できるデバイスが「In/Out」です。

ネットの端に取り付けるだけで、ボールのイン/アウトを判定できるデバイスで、2017年に発売されています。

ネットに装着後、スイッチを押すとコートをスキャンし、判定を始めます。搭載しているAIでボールの落下点を識別し、アウトであればデバイスのライトが赤く、入っていた場合は青く光ります。

また、試合の記録やスタッツ(アンフォーストエラーやサーブの確率など、統計的な数字)も分析可能。落下点が際どい場合でも、この機械を使えば判定してくれるので、プレイヤー同士で揉めることもなくなるでしょう。

AIがバスケコーチに。選手・ボールの動きを分析し戦術作成まで

出典:Pixabay

AIはチームスポーツでも活用されています。

富士通の女子バスケチーム「レッドウェーブ」が練習する体育館には、8台のカメラが天井に設置されています。カメラと人工知能(AI)は試合中の選手全員を追いかけ、フォーメーションやシュートを認識して記録します。

映像はパソコンに送られ、画面にシュートの成功・失敗が分布図で表示されます。成功・失敗のそれぞれのポイントをクリックするとシュート場面の映像を再生します。選手ごとのシュート成功率や失敗率の高い位置なども分析可能です。

現在はチーム内での運用に留まりますが、今度は精度を高めた後に外部へ販売する見込みです。
このようなサービスが発展すれば、自分のチームはもちろん、対戦選手1人1人を分析し、戦術を練ることも可能です。

参考:www.nikkei.com/article/DGXMZO19831000Z00C17A8000000/(外部リンク)

サッカーに特化した戦術・分析支援アナリティクスツール「Pitch Brain(β版)」


出典:https://www.sportstechnologylab.com/#products

博報堂DYグループの「AIビジネス・クリエイション・センター」は、スポーツアナリティクス事業の実行可能性調査(フィジビリティスタディ)を行う、Sports Technology Labを設立しました。

機械学習、深層学習技術における日本のユニコーンPreferred Networksと包括的共同開発契約を締結し、新たなソリューションを開発しています。そのひとつが、サッカーに特化した戦術・分析支援アナリティクスツール「PitchBrain(ピッチ・ブレイン)」。

出典:https://www.sportstechnologylab.com/#products

Pitch Brainは次のことを可能にしたといいます。

  • サッカーで選手がボールを持っていない瞬間、すなわちオフ・ザ・ボールの動きを捉えられるようになったことで、90分を通じたチームの特徴を可視化すること
  • 膨大なサッカー映像を学習させることで、サッカーに特化した姿勢推定アルゴリズムに基づくパスコース判定

スポーツアナリティクスを充実させることで、勝敗の予測と、試合の作戦戦略に幅を持たせることが可能になります。

参考:https://www.sportstechnologylab.com/#products(外部リンク)

スポーツ観戦が変わる。スポーツ観戦へのAI導入事例

スポーツへのAI導入によって、スポーツ観戦の仕方が変わりつつあります。AIが選手の動きなどを分析することで試合展開や結果の予測が可能になり、観客は今までになかった新しい視点での試合観戦の楽しみ方ができるようになってきています。スポーツ観戦へのAI導入事例をご紹介します。

サッカーの試合展開を完全予測?!「WARP」

WARP」は選手の動きを含めた試合展開と試合結果を予測します。

Jリーグの

  • 各選手データ
  • スタッツデータ
  • トラッキングデータ
  • を反映した22体のAIを使い、最も確率の高い試合展開を予想します。

    対戦予定のカードをAIが実際に100回対戦させることで、試合の流れ、得点数など、試合結果を予測可能です。また、ユーザーによる予測・コメント機能も搭載されていて、サポーター同士で戦況の予測をシェアできます。

    野球解説者もAIに。AIスポーツ解説システム「ZUNOさん(ズノさん)」

    プロ野球の解説にもAIが導入され始めています。電通の制作チーム「Dentsu Lab Tokyo」(電通ラボ東京)は、「AIスポーツ解説プロジェクト」の展開を開始しました。その中で、2017年4月、NHKとDentsu Lab TokyoはAIスポーツ解説システム「ZUNOさん(ズノさん)」を共同開発し、注目を集めています。

    AIスポーツ解説システム「ZUNOさん」にできること

    • 2004年から記録されている300万球を超える打席データを学習することで、配球順位を独自に予測
    • データマイニングを応用することで、これまで人間の解説者では見つけることのできなかった選手の傾向試合状況に応じた投球の解析

    さらに、「ZUNOさん」を用いてAI(人工知能)と視聴者が対決するという新たな取り組みも行われました。

    AIと視聴者が直接対決!?「プロ野球投球予測バトル」

    2017年10月29日に開催されたプロ野球日本シリーズ第2戦で、テレビとネットを連動した視聴者参加型企画「NHKプロ野球! 投球予測バトル」が実施されました。

    参加者は、スマホやタブレット、PCなどを手にテレビ中継を見ながら、次の一球の「球種」と「コース」を予測し、ZUNOさんと対決します。

    出典:http://dentsulab.tokyo/rad/?p=328(外部リンク)

    結果、「球種」「コース」ともに「ZUNOさん」の正答率を上回った参加者は4484人中4人だったそうです。

    参考:http://dentsulab.tokyo/rad/?p=328(外部リンク)

    チケット価格もAIが決める。価格変動制「ダイナミックプライシング」

    試合観戦チケットの価格決定にもAIが導入され始めています。

    横浜F・マリノスは、2018年7月以降に開催されるホームゲームの日産スタジアム一部エリア「ニッパツ三ツ沢球技場全指定席エリア」で、Jリーグ初となる価格変動制「ダイナミックプライシング」によるチケット販売を開始しました。

    ダイナミックプライシングとは
    需要、市況、天候、個人の嗜好などに関するビッグデータをクラウド上のプラットフォームで迅速に分析。需要の予測を基に価格の上げ下げを自動的に行なうことで、ファンの皆様のニーズに即応する仕組みです。チケットを購入するタイミングにより、価格が変動する可能性があります。
    引用:https://www.jleague.jp/fxsc/2019/special_lp/dynamicpricing_qa.pdf

    ダイナミックプライシングの導入により、需要に応じた「適正価格」でのチケット販売が可能になり、収益アップ観客数増員不当な高額転売の防止が見込めます。

    2018年9月から10月にかけてのニッパツ三ツ沢競技場でのチケット価格の変動を示した図。
    出典:https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00099/00003/

    上の図によれば、標準価格で販売した9月24日から、一時は定価より4000円以上価格が上昇したチケットもありました。

    ダイナミックプライシングそのものの効果とは判断できませんが、横浜F・マリノスは、全試合、全席種でダイナミックプライシングを導入した2019年シーズンの売上、入場者数は2018年シーズンを上回っているそうです。

    ダイナミックプライシングはJリーグだけでなく、ほかのスポーツやコンサート、食品スーパーなど様々な場面で導入され始めています。福岡ソフトバンクホークスは2020年シーズン、福岡PayPayドームで開催するホークス主催オープン戦、公式戦全試合のチケットをダイナミックプライシングで販売すると発表しました。

    AIを活用することで、需要と供給が一致する適正価格をより正確に設定することが可能になり、今後「定価」というものがなくなっていくかもしれません。

    参考:https://real-sports.jp/page/articles/306704824622122065(外部リンク)

    パーソナルトレーニングを進化させるAI機器

    AIの進化によりパーソナルトレーニングも変わりつつあります。ウェアラブルデバイスから得たデータを分析したり、トレーニングや食事内容を提案したりするのにAIが活用されてきています。

    心拍数や心拍変異度などをもとにコンディション状態を可視化するアプリ「WHOOP」


    WHOOPは、心拍数や心拍変異度などをもとにコンディション状態を可視化し、疲労回復と怪我防止が可能にするアプリです。心拍数などのデータは、手首に巻けるウェアラブルデバイス「WHOOP STRAP」で計測できます。

    WHOOPアプリは、1日の運動量を計測し、疲労度と回復度を0〜21の範囲で記録します。

    出典:https://www.whoop.com/

    出典:https://www.whoop.com/

    トレーニングデータが可視化されることで、最適なトレーニングができているか、それとも負荷が掛かり過ぎたトレーニングをしているのか、ユーザー自身が簡単にチェックできます。

    WHOOPを使うことによって無理ないトレーニングができ、トレーニング中の怪我を負う確率が60%減ったという結果が出ています。

    睡眠をサポートする機能では、身体の疲労度と回復度を記録したデータが使われます。最大限のパフォーマンスレベルに達するために、どれだけ睡眠が必要かを可視化できるのです。

    メンタルサポートによって運動のモチベーションを上げてくれる「Vi」


    Viは、基本機能として、以下の6種類の値をバイオセンサーやGPSなどから計測してくれます。室内でも屋外でも計測可能です。

  • 心拍数
  • 道の勾配
  • ペースの変化
  • 移動速度
  • 移動時間
  • 移動距離
  • Viは、計測した値の結果を蓄積、分析するだけでなく、運動中に聞きたいことを質問すれば、それを音声で答えてくれます。

    また、専用アプリにはチャットボットが搭載されています。ボットからの質問に答えることで、睡眠時間や体調、生活習慣を記録。データドリブンなメンタルサポートによって運動のモチベーションを上げてくれます

    Viには、運動の種類に応じたオリジナルプレイリストを作成してくれる機能もあります。その他豊富なサポートにより、自分1人で運動するよりも高いパフォーマンスを引き出します。

    利用方法はアプリをインストールするというもので、AndroidにもiOSにも対応しています。

    参考:https://vitrainer.com/pages/vi-trainer-c(外部リンク)

    あなたの目標に応じたトレーニング、献立を提案「RocketBody」

    出典:https://gorocketbody.com/index.html

    RocketBodyは、目的に合ったトレーニングを紹介してくれるアプリです。選択肢には

  • 脂肪燃焼
  • 筋肉増量
  • 体型維持
  • などがあります。また、チャット機能と通知機能によって、目標達成を確実なものにしてくれます。

    注目すべきは、ユーザーの好みに合った献立を提案してくれる機能です。好みの食べ物を入力すると、AIがカロリーを計算し、目標に合わせた複数の献立を提案してくれます。

    参考:https://gorocketbody.com/index.html(外部リンク)

    AI搭載食事トレーニングアプリ「food coach」

    出典:http://foodcoach.jp/

    food coachは、最強レスリングチームを育んだ至学館大学が開発した、国内初のAI搭載食事トレーニングアプリです。IBMのAI「Watson」を使ったビジネスモデルコンテスト「IBM Watson Build Challnge2017」において、日本部門で準優勝しています。

    1)国際大会、プロ、事業団向け
    2)国内大会、市民ランナー向け
    3)フィットネスクラブ向け

    の3段階から自分に合ったレベルを選べます。

    food coachは、家庭料理からコンビニ、ファミレスなど、10万件の食事データを収録しています。食べた料理を一覧から選ぶと簡単に栄養価が計算できます。
    また、

  • 体重
  • 体脂肪
  • 筋肉量
  • 競技種目
  • ポジション
  • などの細かいデータをAIが分析し、栄養素の過不足をグラフ化や点数化をしてくれます。

    ほかにも、

  • おやつを「捕食」と捉え、足りない栄養素を補う軽食を提案する
  • 試合前に適した食事と、試合後の疲労から回復するための食事を提案する
  • など、従来のヘルスケアアプリには無かった機能が詰め込まれています。

    出典:http://foodcoach.jp/

    「AI×スポーツ」の今後の可能性・未来予想

    AIのスポーツへの導入は拡大しています。AIが一つ一つのプレーや試合結果予測を行なうことで、必要のない動きや戦術が削ぎ落とされるなど、競技そのものを変化させていくかもしれません。

    また、AIの活用の仕方によっては、選手の動きや戦術の予測情報を片手に観戦するなど新たなスポーツの楽しみ方が生まれ、視聴者が多様な視点でスポーツ観戦を楽しめるようになっていくかもしれません。

    それだけでなく、チケット価格の決定へのAI導入事例のように、ビジネスへの応用も見られ、今後新たなスポーツビジネスの広がりが見られるのではないでしょうか。

    いずれにしても、すでにAIはスポーツに密接に関わってきています。

    AIで数千人を瞬時にカウントできる技術をキヤノンが開発、計測誤差は5%以内を実現

    12月19日、キヤノンは、ディープラーニング(深層学習)を用いて、ネットワークカメラで撮影した映像から、数千人規模の群衆人数をリアルタイムにカウントする映像解析技術を開発したと発表。あわせて、この技術を搭載した映像解析ソフトウェア「People Counter Pro」を12月下旬から発売する。(外部サイト

    キヤノンに価格を問い合わせたところ、システム構成によって大きく変わる可能性があるものの、XProtect版の場合はおおよそ100万円~(サーバー、カメラ、ライセンス含む)だそうだ。

    キヤノンによれば、

    「2018年に開催されたラグビーの国際試合での実証実験では、キヤノンの群衆人数カウントの技術によって約6千人を数秒でカウントできました。実証実験後の画像を人手で確認した人数と、ソフトウェアによるカウント人数の差は5%以内に収まり、ほぼリアルタイムで、群衆人数を正確に把握することに成功しました」

    とのことだ。

    これまでの動体や人物の顔を検出する映像解析技術は、人が密集する混雑状況下では正確に数えることが難しいという課題があった。なぜなら、体の重なりや顔の向きなどの影響を受けるからだ。

    キヤノンが開発した技術なら、映像から人の頭部を検出することで、人が密集している状況でも人数をカウントできる。また、指定した領域の中にいる人数の表示や、推移のグラフ表示も可能だ。そのため、混雑状況の把握や分析に活用できるとされる。

    また、対応できる画角が広いため、カメラ設置場所の自由度が高いそうだ。さらに、GPUを搭載していないPCでも動作可能なため、設置や運用コストを抑制できる。

    キヤノンの広報によると、サーバーの構成や映像の解像度によるものの理論値としては、2000万画素のAXIS Q1659使用時は8万人以上の検出に対応。フルHDの場合においても、9000人以上の検出に対応しているとのこと。

    混雑状況の把握が容易になることで、都市や公共施設、スタジアムなどの監視においてデータを活用した警備計画の立案、警備員の効率的な配置に役立つと期待されている。そのほか、イベント会場や店舗での集客状況の把握、広告効果の検証などでも使われそうだ。

    Ledge.ai編集部では、今年8月にキヤノン株式会社に対し本件に関するインタビューを実施している。混雑緩和や警備強化、さらにはマーケティングに活かせる技術についてなど、映像に付加価値を与えようとしているキヤノンの取り組みを聞いた。

    インタビュー記事キヤノンの群衆人数カウント、6,000人もの人数を瞬時に推定。AI技術をマーケティングやセキュリティに

    >>プレスリリース


    映像解析技術はテレビ局の番組制作でも使われている

    カメラに映し出された内容を解析する技術は、人に代わる“目を持つ存在”として多くの利用シーンが生まれつつある。

    まず、キヤノンが開発した解析技術のように、監視カメラとしても使えるケース。

    今年11月から、神戸市ではフューチャースタンダードと協働で、放置自転車の監視に関する実証実験を開始している。放置の多い歩道や駐輪場付近にカメラを設置。収集した動画や画像をAIで解析することで、放置自転車の台数をカウントする。放置されている現状把握にまずは役立てるそうだ。

    関連記事放置自転車をAIで監視、実証実験を神戸市でスタート

    また、人や物体数のカウントではなく、映像に出た人の顔を認識・判別する技術も実用化されている。

    日本テレビでは、今年7月に放送した「NNN参院選特番 ZERO選挙2019」「日テレNEWS24×参議院選挙2019」において、AIの顔認識技術を使った実験を実施していた。映像内の人物と名前の間違いによる誤報を防止することが目的。結果として、AIが認識すれば一度の間違いもなかったようだ。

    関連記事オンエア素材の人物チェックに顔認識。日テレ参院選報道の現場はAIでこう変わった

    今回キヤノンが開発した技術は、すぐさま解析結果を出せるのも特徴のひとつ。この技術が普及すれば、イベントなどでよくある「参加者〇〇万人!」みたいな発表も、入り口で“数取器”をカチカチして数える必要もなくなるかもしれない。

    AI(人工知能)搭載アプリはどこまでできる?|現状や種類をリサーチしてみた

    AIアプリ

    時は第三次AIブームの真っ只中。探求・推論から始まり、機械学習とディープラーニングによって、AIは飛躍的な進歩を遂げています。主に軍需や企業で活用されてきたAI技術も、今やさまざまな形で私たちの暮らしへ浸透してきています。

    自動運転、siriの音声認識やカメラの画像認識などの技術が有名ですが、なかでも「スマートフォンアプリ」は、AIを身近に感じることのできるものの1つではないでしょうか。

    今回は、AIとの会話が楽しめるアプリや、AIが画像加工を手助けしてくれるアプリなど、アプリを通じてAIが私たちの生活をどれほど豊かにしてくれるのかをご紹介します。

    AI(人工知能)搭載アプリとは?|増え続ける数と活用技術

    application出典:Photo by Pixelkult on Pixabay

    AI搭載アプリの数は100種類以上

    総務省が発表したデータによると、2019年における世界のモバイル向けアプリダウンロード数は311億以上と予想されています。これはゲームを除いた数で、最近ではAIを搭載したアプリも増えてきています。

    実際、Google PlayやApp Storeで「AI」、「人工知能」というキーワードでヒットするアプリの総数は数100種類にものぼります。単純な制御プログラムをAIと謳っているものもあれば、本格的なディープラーニングを組み込んである人工知能もあり、いろんな形で我々の暮らしにも活用され始めていることがうかがえます。

    AI搭載アプリに使われている技術

    音声認識
    コンピュータにより音声データをテキストデータに変換する技術です。スマートスピーカーなどのCMで「OK Google、テレビをつけて」といったシーンをご覧になった方も多いのではないでしょうか。それも音声をテキストデータに変換した後、いつも検索するときのようにシステムが入力内容に基づいた結果を出力します。

    自然言語処理
    人間の言語(自然言語)を機械で処理する技術です。音声認識と組み合わせることで、音声→テキスト→認識という流れで情報が処理され、人工知能による判断が行えるようになります。

    画像認識
    画像の特徴をコンピューターが読み取り、対象を識別する技術です。古くは1940年代に発明されたバーコードも画像認識にあたりますが、機械学習とディープラーニングの登場により近年は人間以上の精度で対象を識別することも可能になりました。

    AI搭載アプリの種類

    application出典:Photo by Peggy und Marco Lachmann-Anke on Pixabay

    AI搭載アプリはいくつかの種類に分類されます。主に会話やテキストメッセージなどの音声やコミュニケーションに関わるもの、検索や加工などの画像に関わるものなどさまざまな活用方法が見い出されています。

    話し相手系

    話し相手系のアプリには、音声認識・自然言語処理などの技術が応用されています。

    感情日記AI「emol-AI」
    Emol出典:App Store

    emol株式会社が提供するAIアプリ「emol-AI」。「ロク」とよばれるAIに対しチャットで会話をします。特徴はユーザーの感情を記録すること。ユーザーの発言を分析し、「うれしい」「かなしい」といった9つの感情に対してAIが返事をします。アプリではそのときの感情を毎日記録してくれるので、日記のように自分の過去の感情を振り返ることができます。

    AI育成アプリ「人工無脳と会話するアプリ」
    人工無脳と会話するアプリ出典:App Store

    最初はつたない日本語ですが、会話をするごとに言葉を覚えていくAIアプリです。最大の特徴は同時に複数のAIを育てられること。「ひろば」というチャットルームでチャットをすると人工無能同士でも会話が発生します。「人工無脳」というと少し聞き慣れない方も多いと思いますが「チャットボット(ChatBot)」という言葉であればご存じの方も多いのではないでしょうか?

    キャラクター会話アプリ「SELF」
    SELF出典:App Store

    SELF Inc.が提供するAIアプリです。美少女やイケメンといったキャラが登場し、会話をすることで返答の精度が上がっていきます。このアプリにおける最大の特徴は課金システム。アプリ内登場キャラの「小瀬あい」は、3日で記憶がリセットされる仕様になっており、記憶を維持してもらうには、週180円の課金が必要になります。好きなキャラクターの記憶をとどめるため、実際に多くのユーザーを課金に導いたという面白いビジネスモデルが話題になりました。

    女子高生AI「りんな(LINE)」
    りんな出典:https://www.rinna.jp/platform/line

    コミュニケーションアプリ「LINE」の会話ボットとして2015年に登場したりんなは、女子高生という設定の人工知能キャラクターです。マイクロソフトが2014年に中国で開発していたXiaoiceという女性型会話ボットの第二弾として日本で生まれました。ディープラーニング・機械学習・音声認識・自然言語処理など多くの技術が応用されており、まじめなsiriやcortanaに比べてたまに変な返事をするところが、面白い友達というイメージにつながり若者の間で人気です。しかし、多くの会話データを学習した現在は、「Rinna Character Platform」として外販が開始され、最近では「pepper for Home」に搭載されpepper君との長い会話が楽しめるようになっています。また、リアルすぎると話題になった3D女子高生「saya」に搭載され、実際に女子校で授業を行ったりもしています。

    画像検索・認識・加工系

    画像検索・認識・加工系のアプリには、画像認識・機械学習などの技術が応用されています。

    写真加工アプリ「SNOW」
    SNOW出典:SNOW

    韓国のインターネット企業NAVERの子会社が提供するアプリ「SNOW」。自撮り写真を美白化したり目の大きさを変えたりする、画像加工系アプリです。このアプリでAI技術が使われているとは意外に思われるかもしれませんが、動画上にある人間の顔を瞬時に認識し、その動きに合わせて犬や猫といったキャラクターと合成する技術は紛れもなく画像認識を用いたAI技術によるものです。

    機能の1つに「そっくり診断」というものがあり、自分の顔と似ている芸能人を診断してくれます。ネット上にある芸能人写真を取り込み、ユーザーの顔と照合し似てる確率を計算してそっくりな人を診断します。TV番組「おしゃれイズム」では、俳優の藤木直人さんがそっくり診断で本人と判定されたのが話題になりました。

    検索先生「Google Lens」
    Google Lens出典:Google Play

    ディープエフェクト機能とAI技術を使い、写真や動画に映っている登場人物の顔を自分の顔に取り替えることが可能。非常に高い精度を持つアプリで瞬く間に無料アプリのトップにのぼり詰めましたが、ユーザーが使用した顔写真のライセンスが「永続的に開発元に移行し、さらには取消不可、譲渡可能、再ライセンスもあり」といったとんでもないプライバシーポリシーが発覚したことで非常に大きな問題となりました。2019年12月現在プライバシーポリシーは改善されています。

    メーター点検AI「hakaru.ai」
    hakaruai出典:https://iot.gmocloud.com/hakaru-ai/

    ガスや水道のメーターをスマホで撮影するだけで、読み取り・集計・台帳記入の流れを自動化できるというすぐれもの有料アプリです。点検業務は今まで人手で行われていたため、ミスや時間コストがかかっていましたが、スマホで撮るだけで作業が終わるので大幅な効率化が行えます。

    ドラレコAIアプリ「スマートくん」
    スマートくん出典:https://smartkun.neuralpocket.com/

    スマートフォンにインストールするだけで、AIの画像認識機能搭載のドライブレコーダーとして使えるアプリ。常時録画・車間距離計測など従来のドラレコ機能はもちろん、AIによる動作感知・車両周辺の物体検知がすべて無料で利用可能。
    2019年現在はiOSのみ、2020年にAndroid対応予定。

    勉強サポート系

    勉強サポート系のアプリには、自然言語処理・機械学習などの技術が応用されています。

    AI×TOEIC「SANTA TOEIC」
    Santa TOEIC出典:https://santatoeic.jp/intro

    アジアを中心に人気が高い、有料TOEIC学習アプリです。1億問以上の回答データを学習した独自開発AIが、問題を解いていくと学習者の理解度・弱点・TOEICスコアを正確に分析し、学習者に最適なカリキュラムを構築してくれます。

    英語学習「cooori」
    cooori
    出典:https://www.cooori.com/

    株式会社コーリジャパンが提供する英語学習システムがcoooriです。coooriに搭載されている独自開発AI「3O(スリーオー)」が収集した英語学習者データは通算で7万時間以上で、およそ8年分にも及びます。駅前留学から始まった英会話の勉強手段もついには第7世代といわれ、AIがユーザーのレベルを把握し、適切な問題や効率的な勉強方法を提供する専属トレーナーの時代に入っています。その筆頭がcoooriです。

    AIアプリはこれからどうなる?

    AIアプリの未来出典:Photo by Brendan Church on Unsplash

    人気アプリの傾向から見えたのは、話し相手やちょっと気になったことを検索したりするなど、人々はAIに万能さを求めているのではなく、感情や生活のちょっとした隙間を埋めてくれることを望んでいるようにも見えます。

    さらなるサービス向上のためにも、人々の生活データは欠かせません。しかし、現代はプライバシーポリシーに見られるように、個人情報の機密性に焦点が当てられています。その一方で、先日都内のIT企業が月20万円の報酬の代わりに、私生活のすべてをビデオカメラで記録するというプロジェクトの募集を行ったところ、1,300人を超える申し込みがありました、「たとえ浴室以外に死角がなくても」です。この結果を踏まえると、今後は価値ある商品として、個人が自分の個人情報を売るようになる時代がくるかもしれません。

    このような個人情報を自主的に提供できるユーザーの増加に伴い、AI市場も発展を加速させるでしょう。集められた生活情報からAIがよりユーザーを知ることで、ひとりひとりにパーソナライズされた総合AIアプリが台頭してくる未来も、そう遠くない気がします。

    自動運転によるスクールバスの実証実験を開始、埼玉工業大学のキャンパスと最寄り駅間の公道を走行

    12月12日、埼玉工業大学は、スクールバスの自動運転の導入に向けて12月23日から公道による実証実験を開始すると発表。

    実証実験が行なわれるのは、埼玉工業大学のキャンパスと最寄り駅であるJR高崎線・岡部駅間。スクールバスとして公道約1.6kmを走行する。私立大学のスクールバスとして、学生や教職員の送迎用に自動運転バスが走行するのは全国で初の試みとなる。

    ハンドルとアクセル・ブレーキは自動制御レベル3。緊急時のみドライバーが対応し、通常時は交通状況を自動で認知して走行する。安全確保のため、バスにはプロのバスドライバーが搭乗する。

    自動運転に使われる車両は、マイクロバス「リエッセ II」をベースに「自動運転AI(AIPilot / Autoware)」を実装している。また、バスの車内にはディスプレーが設置されている。ライダーやカメラによる画像データをディープラーニングによりリアルタイムで解析した結果、AIによる自動制御の仕組みがわかる各種情報などが表示される。そのため、学生は通学時にAIを体験的に学習できる。

    当面は、既存のスクールバスに加えて、臨時便として不定期に走行する予定。来年度以降の本格運用に向けての課題を探るという。

    >>プレスリリース(PR TIMES)


    完全自動運転が実現すると、自動運転による“渋滞”が起きるかもしれない

    埼玉工業大学での実証実験のように、自動運転の普及を目指した活動が徐々に広まりつつある。

    Ledge.ai編集部は以前、もともとUberで自動運転を研究し、現在はLionbridgeでAI開発に必要な学習データの収集やアノテーションを効率化するプロダクトのグロースに携わるチャーリー・ワルター氏を取材した。

    ワルター氏に編集部が「完全自動運転が実現するとどうなるか」と聞くとこう答えた。

    「自動運転車による渋滞が発生するかもしれない。目的地まで自動で運んでくれるなら、電車などの公共交通機関の利用に面倒くささを感じ、だれも公共交通機関を使わなくなる。そのため、自動運転車になだれこみが起きる。そして渋滞につながる。」

    自動運転車が普及することで、運転に関わることが最適化される。しかも、エンジンなどの効率も配慮されるため、環境にもやさしくなるとされる。しかし、便利になりすぎるあまり、全員が全員、自動運転車を利用すると道路や駐車場などのキャパシティーを超える危険性があり、結果的に渋滞につながる可能性がある、ということだろう。

    記事ではほかにも、

    • 現在の自動運転技術が抱える課題
    • どの企業が業界内トップを走っているのか
    • 自動運転が事故を起こしたときの責任
    • 外部から車をハックされないか
    • 自動運転の普及に必要なこと

    などを聞いている。

    今後さらに注目度が上がると思われる自動運転の話。ぜひとも下記から記事を読んでチェックしてほしい。

    関連記事:元UberのPMが語る、自動運転の現実と未来

    エッジAIカメラで空席状況を見える化「飲食店などでの行列や混雑の緩和に」

    Photo by Andrea Pók on Pixabay

    12月11日、株式会社セキュアと株式会社ヘッドウォータースは、映像推論のエッジAIカメラを活用して、飲食店などの空席情報をリアルタイムに掲出できる“混雑状況見える化”ソリューション「comieru Live」の実証実験を実施したと発表。

    実証実験では、フードコート内にカメラを設置して、Web上で混雑状況がわかるURLを公開し、リアルタイムに空席状況を掲出した。撮影された映像は、「Raspberry Pi」または、「NVIDIA Jetson Nano」に搭載したエッジAIが人の位置情報のみを検出する。クラウドサーバー上で送信された位置情報を基に人物をアイコンに置き換えた画像を生成しページに表示する。

    これは客側、管理側それぞれで活用できるサービスだ。

    まず客側においては、来店前や来店中のとき、スマートフォンやデジタルサイネージから、エリア内(店舗内)のどこが空いているのかの確認が容易になる。一方管理側では、各エリアの混雑状況を遠隔から確認できるため、混雑状況を踏まえた案内などが可能になる。

    来店客をアイコン化して表示するので、インターネット上にプライバシー情報を広げないというのも特長のひとつ。また、混雑状況を視覚的に表現できるため、外国人客にも混雑状況を伝えやすいのもポイントだ。

    「comieru Live」の仕組み(プレスリリースより)

    実際に掲出した画像(プレスリリースより)

    混雑データの集計・可視化レポート。クラウド上のダッシュボードで店舗別の混雑状況データの集計・可視化レポートを簡単に確認できる(プレスリリースより)

    >> プレスリリース(PR TIMES)

    AIを活用したカメラは「放置自転車」対策にも

    いま、AIを活用したカメラはさまざまな分野で注目を集めている。

    11月29日には、神戸市とフューチャースタンダードが協働で、放置自転車監視の実証実験を開始したと発表。

    放置の多い歩道上や、駐輪場周辺にカメラを設置。収集した動画や画像をAIで解析することで放置自転車の台数をカウントする。リアルタイムに自動で駐輪状況を定量的に把握する手法の検証・開発し、放置自転車対策への活用を目指すそうだ。

    画像にある物体の“意味”を認識して画質向上、モルフォが新技術を発表

    株式会社モルフォは、12月3日から5日まで開催の「Snapdragon Tech Summit 2019」にて、Snapdragonに適応する技術として新たに開発した「Semantic Filter(仮称)」を発表した。

    「Semantic Filter」技術では、AI(人工知能)を用いて画像の各ピクセルが何を意味するのかを判別するセマンティックセグメンテーション技術を使う。画像内の各ピクセルをカテゴリごとに分類し、それぞれのカテゴリに合わせてノイズ除去、ダイナミックレンジ補正、エッジ強調、ボケ加工などの画像処理を施す。

    これにより、物体ごとに残したいディテールや質感を失うことなく、よりクリアな画質の向上を実現する。

    さらに、カテゴリとして人物の髪や肌、衣類などを判別することが可能だ。


    AIで低解像度の画像から高解像度の画像を生成

    画質向上に関わるAIでは、今年5月からラディウス・ファイブは、特大サイズの画像素材をAIで生成するサービス「OOH AI」を提供している。主に屋外広告、交通広告に利用したい広告素材向けとなっている。

    従来、屋外広告などでは、画像を引き延ばして、粗い箇所を編集ソフトを使って修正するなど、人が膨大な時間をかけて作業をしていた。

    しかし、OOH AIならディープラーニングを用いることで、数十万pxサイズまで高解像度化できるのが最大の特徴。公式サイト(外部サイト)によれば、写真やイラストを縦4倍、横4倍に高解像度化することが可能だという。また、3営業日以内に高解像度化した画像を納品してくれるそうだ。

    現状でも、各種編集ソフトに入っている「自動補正」などの機能は非常に便利。だが、若干物足りなさを感じることもしばしば。いずれはボタンワンプッシュで「いい感じ」に編集してくれる日も来そうだ。

    >>プレスリリース

    高輪ゲートウェイ駅に無人AI決済店舗が出店予定、まずは交通系IC支払いに対応

    12月3日、株式会社TOUCH TO GO(タッチ トゥ ゴー)は、2020年春に開業する山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」構内に、無人AI決済店舗の第一号店「TOUCH TO GO」をオープンすると発表した。なお、TOUCH TO GO社はJR東日本スタートアップ株式会社とサインポスト株式会社の合弁会社だ。

    TOUCH TO GOは、ウォークスルー型の完全キャッシュレス店舗。12月3日の発表時点では「決済方法は交通系ICでのみ」と明かされた。ただし、順次クレジットカードやそのほかの電子マネーなどにも対応予定とのこと。

    店舗では、入店した客と、手に取った商品をリアルタイムでカメラなどによって認識する。決済エリアに客が立つと、タッチパネルに商品と購入金額が表示される。客は出口のタッチパネルの表示内容を確認し、交通系ICで支払いするだけで買い物ができるのだ。

    一号店となる高輪ゲートウェイ駅内の店舗は、「ラボ」として位置付けられる。この店舗運用で得たノウハウを、多くの小売業界が抱える労働力不足や、地域店舗の維持などの課題解決に向けて展開していく狙いだ。

    無人AI決済店舗の開発は、JR東日本グループとサインポストで、過去2度にわたり実証実験し、実用化に向けて商品認識の精度向上などを進めてきた。

    2018年12月には、東日本旅客鉄道株式会社も含めた3社で、JR赤羽駅にてAI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」の実証実験をしていた。赤羽などでの実証実験をふまえ、いよいよ高輪ゲートウェイ駅で本格稼働する。

    写真は赤羽駅での実証実験のもの


    ユニクロなどではRFIDタグで無人レジ

    身近な無人レジといえば、ユニクロやGUで導入されている「RFIDタグ」を使ったシステムだろう。欲しい商品をカゴに入れ、レジ下にある読み取り機にセットすれば、カゴ内の商品と金額がレジに表示される仕組み。

    RFIDタグは、非接触でタグ内の情報を読み取ることができる。また、複数の商品を一斉に認識できるため、カゴに大量に衣服を入れてもスムーズに対応可能なのも特徴だ。

    これまでは「無人レジの実証実験」というニュースがいくつかあったものの、いよいよ本格導入となる。うまくいけば人手不足問題の解決に大きく貢献しそうだ。

    >> プレスリリース(PR TIMES)

    年間で2万5700時間の工数削減 不動産オープンハウスがAI・RPA導入で手にした「予想外」の成果

    興味深い話を聞いてきた。不動産会社・オープンハウスがAIを導入したら、仕事の作業時間や工数を削減できただけでなく、社員のモチベーションを向上させることにも成功したそうだ。

    客目線でも、不動産業界にはいまだにアナログ文化が強く根付いていると感じる場面が多い。街にある不動産会社に行き、賃貸物件の契約に行くと、紙の間取り図をいくつも提示される。候補となる物件に内覧に行くのにも、不動産会社の担当者と同行しなければいけない。「スマートロック」などのIoT機器を使う「スマート内覧」も登場したが、普及するのはまだまだ先になりそうだ。

    ただ、内覧云々の話は、不動産業界が抱えるアナログのほんの一部にしかすぎない。

    たとえば、“帯替え”だ。不動産会社に貼り出されている物件案内図には、“帯”と呼ばれる部分がある。帯には、どの不動産会社が請け負っているのか、連絡先はどこなのか、そして免許番号の記載に至るまで、必要な情報が記されている。不動産の仲介において、他社の取り扱い物件を紹介することは基本的には可能だ。その際、物件案内図の帯は自社の内容に差し替える必要がある(とされている)。その作業が帯替えである。

    物件案内図の帯替え

    このような手作業がある不動産業界で、AIを導入したのが「東京に、家を持とう。」のキャッチコピーで知られるオープンハウスだ。先日、AI・RPA技術を活用することで、年間2万5700時間の工数削減に成功したと発表。同社でのAI・RPA活用に携わった中川帝人氏に話を聞いた。

    オープンハウス株式会社 情報システム部 シニアデータサイエンティスト/課長 中川帝人氏

    先端技術の導入に求められるハードルは低くなかった

    中川氏は「オープンハウスという会社は、不動産業界でもアグレッシブ。効率化をするためなら、新しいことにもどんどん挑戦できる」と語る。こうした環境から、業務効率化のためにAIやRPAの導入に自然と至ったそうだ。

    オープンハウスがAI・RPAを導入した目的はふたつ。「工数削減」と「ビジネス速度の向上」だ。

    「工数削減」は文字通り、作業にかかる工数を削減すること。ひとりあたり労働時間を10分減らせれば、400人で4000分の削減になる。削減された時間だけ、新しい仕事を生み出すことも可能になる。これが工数削減がもたらす益だ。

    そして「ビジネス速度の向上」。これは不動産業界ならではの目的ともされる。開発(=土地を仕入れて、付加価値を付けて売る業務)を行なうオープンハウスは、土地を仕入れる際に金融機関から仕入資金を借りる。事業期間を短縮し回転数をあげることで借入資金に対する利益を増やせるのである。

    これらの目的をもとに、AIやRPAの導入をすすめることになる。しかし、会社から求められたハードルは低くはなかった。

    「オープンハウスはビジネスのスピードが早いため、中長期的な結果はもちろん、まずは半年……いや、3ヵ月ほどで結果を出すことも求められる」と中川氏は言う。

    そこで、仕事上の課題をさまざまな社員にヒアリング。現場の社員含め、改善できそうな業務をピックアップしたうち、AIやRPAを導入することで大幅な効果を得られそうなものから着手した。

    いま現在では完全に自動化され、年間で2万時間も工数削減に貢献した業務がある。それが本稿でも冒頭に触れた帯替えだ。

    帯替えは、帯を自社のものに差し替えるだけなので、作業自体はとても単純。そのため、1、2枚であれば何らストレスなくできるが、大量に物件を紹介するとなると、そのぶんだけ帯替え作業が発生する。つまり、非常に手間のかかる作業なのだ。帯替えを効率化させるソフトウェアも登場しているが、いまだに1枚ずつ印刷して1枚ずつ帯を貼り付けてスキャンしている会社もあるという。

    オープンハウスが導入した全自動帯替え。PDFファイルを選択するだけなのでお手軽

    帯替え作業をディープラーニングによる機械学習を活用することで、大幅な工数削減に成功した。機械学習時に使われた「データ」は、過去に作成された帯替えした案内図およそ4000データ。過去に作った膨大な量の物件案内図を活用したため、データを新たに作成してはいない。

    帯替えの自動化の仕組み。帯の部分を検知する「物体検出モデル」

    インターン生が作ったシステムで年間2万時間の工数削減

    驚きなのは、この全自動帯替えシステムを構築したのはインターン生(当時)ということである。

    インターン生当時、全自動帯替えシステムを作成したファム・ゴックタオ氏。現在は同社の情報システム部で働いている。

    ゴックタオ氏は「帯替えを全自動化するまで、プロジェクト開始から2、3ヵ月で実用化できた」と言う。

    豊富な過去のデータがあったから、というのもスピード感のあるAI導入の理由だと思うが、そもそもゴックタオ氏のような人材をどうやって見つけられたのか。

    「AIは使える人が限られている。そこで、海外での新卒採用に目を付けた。いま、AI・RPAに携わるチームには、自分を除くとゴックタオをはじめベトナム人が3人いる」(中川氏)。

    オープンハウスでのAI・RPAの運用は基本的には内製だ。自社開発をしたほうが「現場が必要としている機能や解決したい課題」へのズレが生じにくい、と考えているからだ。

    ベンダーに委託しないため、構築・運用するには「AI人材」が必要。国内だけで人材確保をしようとすると苦労するが、海外にまで目を向ければ若くて優秀な人材に出会えることをオープンハウスが証明した。

    AIの導入で得られた大きな副産物とは

    AIやRPAの技術を導入し、年間の業務時間を大幅に削減できたオープンハウス。だが、先端技術を導入したことで思いもよらない成果を生み出した。それは、現場社員のモチベーションの向上だ。

    中川氏は「『作業の速度も上がったし、ほかの仕事に時間を割けるようになった』という声が挙がっている」と言う。

    オープンハウスの営業担当者は、朝の出社後から夕方前まで営業活動をする。営業活動後は、翌日の営業で使う資料作成などの準備時間だ。この営業活動後と、翌日の資料を作る間に帯替えの作業を進めなければいけない。

    非常に単純な作業なので、経験やスキルはあまり求められない。そのため、帯替えは新人社員など、経験の浅い人が担当する業務でもあった。ただ、何十枚、何百枚と付け替える作業は、正直なところ「手間のかかる仕事」と感じてしまう。あくまでも筆者の主観だが、単純作業が合間に挟まると、なかなかモチベーションも上がりづらそうだ。

    そんななか、帯替えの自動化により「帯替えに要していた時間」が大幅に削減された。帯替えに人手を割くこともなくなったし、手間がかかるという心理的負荷も軽減されたのだ。帯替えの自動化で削減された時間だけ、早く帰宅することができたり(=働き方改革の促進)、上司との会話の時間を増やすことで細かなスキルアップに挑戦できたりしているそうだ。

    工数削減に目を奪われがちなAIやRPAは、いうなれば「面倒な作業を押し付けられる相手」と言ってもいいかもしれない。工数削減によって空いた時間をどう利用するかは企業によって異なるだろうが、現場社員のモチベーション向上に貢献できることも覚えておきたい。

    営業活動に集中できる環境をAIで作りたい

    業務効率化を担った中川氏は、今後のオープンハウスでの“AIの立ち位置”について次のように語った。

    「現存するAIはできることが限られている。だからこそ、AI“でも”できることと、人間に“しか”できないことを分けて考えている」。

    中川氏が考える人間にしかできない仕事というのは、営業活動だそうだ。とくに、不動産のような高額な商材を扱うのであればなおさらだ、と。

    経験や才能、そのほかの要素を含めた“人間のスキル”は、おろそかにできない。高額な商材を扱う不動産営業は、一般的に何回(=何日)も時間をかけて営業し、顧客が満足できる物件を提供する。ところが、優秀な営業担当者は、初回営業で契約を獲得できることもあるという。

    将来的には、わずか一日で顧客が満足する契約を結べる“神かがった営業スキル”をAIが学習することで業務効率化を図れるかもしれない。しかし、オープンハウスがAIやPRA活用で見据えているのは、営業自体の自動化ではなく、営業担当者がストレスなく営業活動をできるようなサポートだ。

    事実、オープンハウスでは本稿で紹介した帯替え作業以外に、「宅地の区割り」「物件資料の取得」でもAIやRPAを導入している。とくに後者の資料取得は、外回り中でも社内システムから物件の必要資料をすぐに取得できるように構築したため、仕入れを検討できる物件量が増えたそうだ。

    区割りの自動化

    物件資料の取得

    中川氏は「今後は、営業時に顧客に送るメール作成も自動化したい」と言う。メールの開封率などに応じて、最適解を見つけることが当面の目標だそうだ。

    アナログな文化が根付いていた業種だからこそ、AIなどの活用で大幅に業務内容を改善できている。そして、働く人たちのモチベーション向上にも貢献した。いま、オープンハウスは不動産業界に新たな風を巻き起こそうとしているのだ。

    「国際AI囲碁協会」設立、AIを活用し囲碁の普及・発展を目指す

    株式会社アンバランスは11月29日に「国際AI囲碁協会」(外部サイト)の設立を発表した。

    国際AI囲碁協会が掲げる事業は以下だ。

    • AIを利活用した囲碁ソフトの提供による囲碁の普及と発展
    • AIを利活用した棋力判定及び段位認定
    • AIを利活用したプロ棋士の育成及び普及
    • オンライン、オフラインでの公式大会、公式イベントの企画及び実施
    • その他、この協会の目的を達成するために必要な事業

    棋力の判定から、段位認定、オンラインイベントまで企画

    いま現在、アンバランスは独自の「棋力判定システム」を開発中だ。棋力判定システムでは、国際AI囲碁協会の会員を対象に、棋力の上達に必要な助言をする。今後は、独自のアルゴリズムを用いた「段位認定」も提供予定としている。

    また、初心者から有段者まで時間を選ばずにスキルアップできるオンラインツール、「人間らしい対局」を可能にするAIを提供することで、継続的な棋力アップと、国内の棋士の育成・普及に貢献していく。


    <韓国プロ棋士はAIの進化を理由に引退>

    さて、AI囲碁と言えば韓国のトップ棋士で、李世ドル九段が11月に引退したことが報道されている(ソウル・共同通信)。李氏は、2016年3月にGoogle DeepMind社の人工知能「AlphaGo(アルファ碁)」と対局したことで注目を集めていた。

    李氏は引退について「AIは倒せない存在になったから」とコメント。なお、李氏は今月12月に「ハンドル」(=韓国NHNが開発した囲碁AI)との対局予定が組まれている。再び“神の一手”を見ることができるのか、いまから対局が楽しみである。

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    放置自転車をAIで監視、実証実験を神戸市でスタート

    Photo by danfador on Pixabay

    フューチャースタンダードは11月29日から、神戸市と協働でAI技術を用いた映像解析システムによる放置自転車監視の実証実験を開始している。

    放置自転車撤去の効率化ツール実証開発として、フューチャースタンダードの映像解析プラットフォーム「SCORER(スコアラー)」を利用する。

    放置の多い歩道上や、駐輪場周辺にカメラを設置。収集した動画や画像をAIで解析することで放置自転車の台数をカウントする。リアルタイムに自動で駐輪状況を定量的に把握する手法の検証・開発し、放置自転車対策への活用を目指す。

    放置自転車対策を立案することがプロジェクトの目的

    本プロジェクトは「Urban Innovation KOBE」の事業として取り組まれている。

    Urban Innovation KOBEとは、神戸市が抱える地域・行政問題を、スタートアップと行政職員が協働することで解決するプロジェクトのこと。この事業は国内自治体では初めてのことだそうだ。

    もともと、神戸市では歩行者と自転車などとの安全で快適な道路空間の創出を目指し、放置自転車の撤去や駐輪場を整備している。しかし、放置状況の詳細な現状把握が十分ではないため、解決には至っていなかった。

    そこで、SCORERを使い、曜日や時間帯ごとの放置傾向や駐輪時間など、放置自転車の多い箇所の状況を詳細に把握し、データに基づいた効果的な放置自転車対策を立案することを本プロジェクトの目的としている。

    警備会社ではカメラ映像をAIで解析する動きがある

    カメラが捉えた映像をAIが解析する技術は、さまざまな企業が活用しようとしている。

    Ledge.aiでは2018年に綜合警備保障株式会社(ALSOK)に取材し、その活用事例を聞いていた。当時のコメントでは「助けを求めている人や、不審者を検出したら警備員にメールで伝達する」という仕組みだった。いわば、警備員の“目”が増えたようなものだ。

    今回の神戸市での実証の目的は、あくまでも「放置自転車対策の立案」だ。ただ、いずれは放置者に対し、何かしらアクションを取るような仕組みにつながる可能性もある。


    <ゴミの不法投棄対策での活躍に期待>

    AIによる監視……とだけ書くとあまりいい感じはしないものの、放置自転車をはじめ、“放置対策”という面においては非常に役に立ちそうだ。

    たとえば、最近地上波テレビ番組でも話題になった、茨城県潮来市の農業用水路から10トンを超す粗大ごみが撤去された話。テレビや洗濯機、冷蔵庫などが用水路に投棄されていて、2トントラック7台ぶんを撤去したとのこと。

    「監視カメラがある」というだけでも、放置や不法投棄への抑止力になるため、自転車対策だけにとどまらずさまざまなシーンでの活躍に期待したい。

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