浸水した車両基地に並ぶ北陸新幹線の車両(10月、長野市)
「金沢―東京間の直通運転を取りやめる」。10月の台風19号は長野県で北陸新幹線を寸断し、首都圏と北陸の往来を約2週間にわたり絶った。観光面では宿泊キャンセルが相次ぎ、企業活動にも影響した一方で、空の便など代替交通の必要性も鮮明になった。新幹線遮断の衝撃を3つの数字から振り返る。
1つ目は観光への打撃を象徴する「2万171人」。金沢―東京間が運休中の10月12~24日の間、山中温泉や和倉温泉など主要7温泉地と、金沢市内の主要7ホテルの宿泊キャンセルの合計数だ。
石川県が11月に聞き取りで調査した数だが、小規模のホテルや旅館は対象外。県の担当者は「実際のキャンセルはさらに多いだろう」とみる。
ホテル日航金沢の宿泊担当者は「新幹線が観光業に大きく貢献していたことを痛感した」と振り返る。新幹線が運休すると分かると、畳みかけるようにキャンセルが相次いだ。宿泊客には代替交通を案内したが、10月の稼働率は書き入れ時にもかかわらず9割を下回った。
金沢―東京間の運休により金沢駅には行列ができた(金沢市)
爪痕は深い。例年観光客の増える11、12月で挽回を期待していたが、「復興」の旗を振る旅行会社は長野県など被災地への観光を促し、直接の被害が少なかった北陸への客足は遠のいた。市内ホテルの新規開業も追い打ちを掛け、「11月は昨年を下回る稼働率だった」と嘆く。
2つ目は企業への影響を示した「35.6%」。金沢商工会議所が297社に対して緊急で実施したアンケート調査(有効回答数135社)で、「台風19号の影響を受けた」と回答した割合だ。
具体的な影響は「売上高・来店客数」(22.9%)が最多。「出張等の取りやめ」(14.3%)や「流通経路の乱れ」(10.5%)のほか、「取引先が被災」(9.5%)もあった。
モニター大手のEIZOの場合、福島県にある取引先の工場が水没し、モニター部品の供給がままならなかった。在庫としてあった部品でしのぎ、急ぎ別の工場から調達したため、生産計画に大きな影響はなかったという。
営業拠点を東京に置くパソコン周辺機器のアイ・オー・データ機器は、金沢市の本社と毎日5人程度が行き来している。社員からは「飛行機は満席で、キャンセル待ちの状態が続いた。在来線の迂回は時間がかかる上、切符もなかなか取れなかった」との声が上がった。
3つ目の数字は代替交通の重要性を表す「6890人」。小松空港と富山空港を合わせた羽田便の10月利用者数の前年同月比の増加人数だ。新幹線開通で空の便は逆風続きだったが、代替交通として大きな役割を果たした。
顕著だったのが富山空港だ。10月の羽田便の利用者数は前年同月比4616人増(14%増)の3万7895人。全日本空輸は10月13~24日の12日間で、4.5往復の臨時便を投入したほか、18往復について機材の大型化を実施した。便数は通常よりも10%増え、7割近くが大型機材になった。
小松空港では、羽田便の10月の利用者数は前年同月比で2274人増(2.2%増)の10万8015人だった。臨時便や大型機材に変更して対応したが、金沢と大阪を結ぶ在来線特急「サンダーバード」などで迂回する人もいた分、富山よりも増加率は小さい。
金沢―東京間の開業5年目にして経験した「断絶」は、代替手段の重要性を改めて突きつけた。代替交通は観光、企業活動の緊急時の要とも言える。小松空港の国内線の18年度の利用者数は158万人で、新幹線開業前の14年度の212万人には及ばない。代替交通を維持するには普段の利用を促進し、収益を上げる仕組みづくりが鍵を握る。
(前田悠太、毛芝雄己)
2019年の北陸3県では地域経済を揺るがすニュースが相次いだ。この1年を振り返りつつ、残された課題を探る。
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