八十六万四千人。二〇一九年の出生数推計が公表された。九十万人を下回る事態は国の別の推計より二年早い。少子化の勢いが止まらないが、政府の反応は鈍い。危機感が足りないのではないか。
日本の人口は子どもが減っているのに、高齢者が増えるという特徴がある。社会や地域、家族を支える次世代が生まれてこないのだ。
働きながらでも希望する人が結婚し、出産・子育てできる社会の実現が望ましい。だから、少子化対策は政府にとって重要課題のはずである。
厚生労働省によると、日本人の年間出生数は団塊世代の三分の一程度まで落ち込む事態になった。人口は〇五年から減少に転じ一九年の自然減は五十一万二千人だ。
これは東京都江東区とほぼ同じ、金沢市や愛知県豊田市より多い人口が消えたことになる。
安倍晋三首相は少子化を「国難」と位置付けてはいるが、その事実を重く受け止めているのか。
政府は、これまでも消費税財源を使い、待機児童対策として保育所整備を進めてきた。幼児教育・保育の無償化も実施の段階だ。取り組みを進めていると説明する。
だが、政府の全世代型社会保障検討会議がまとめた中間報告に、肝心の子育て支援策は盛り込まれなかった。来年度から未婚のひとり親の税負担を軽くする制度を導入するが、そもそも税制に子育て支援の視点は十分あるだろうか。
さらに、政府の支援策は主に既婚夫婦に向いている。確かに必要だが、出産の前提となる結婚が難しくなっている現実もある。厚労省によると一九年の婚姻件数は五十八万三千組、一九七〇年の百万組超から減り続けている。
雇用が不安定で賃金も安い非正規雇用の広がりが若者の結婚を阻んでいる面がある。
バブル経済崩壊で正社員採用が絞られたため思うように就職できなかった就職氷河期世代への支援に、政府はやっと乗り出した。
だが、この世代は既に四十代にさしかかっている。これから出産する人は限られるだろう。
今後、子どもを産む女性の数が減る以上、少子化の加速は避けられない。「子育てを社会で支える」との考え方に立って雇用や貧困、住宅を含めた政策の総点検が必要だ。その上で実効性ある政策を集中するしかない。
私たちも政府任せにせず、例えば電車内では妊婦に席を譲るなど生活の中でのちょっとした心遣いを大切にしたい。
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